死業 前編
東京から車で約一時間くらいだろうか神奈川県のとある山林で車が停まった
道路の両脇には山林が広がりあまり人の手が入ってないように見受けられた
人通りもほとんど無く車も時折見かける程度、夜になったらかなり不気味だろう
「それでは簡単に流れを説明しますね」
川島さんの説明が始まった
私服で汚れてはいけないだろうという事で作業着は青のツナギが人数分配られた
着るか着ないかは各自の判断に任せるそうだ
そして簡単な地図が渡された
「固まって行動しても作業効率が上がりませんのでバラバラに行動したいと思います」
確かにそうだろうなと感じた
地図を見るとそこまでの範囲の広さではなく一人でなんとかなりそうな配分になっていた
「奥に建物って書いてあるけどこれなんなん?地主さんかなんかの家?」
橋本さんがみんなが疑問に思っていたことを質問した
すぐ聞いちゃう所が橋本さんっぽい
「ここは私も詳しくは知らないのですが廃館になった旅館だそうです」
「あーそうなんだ」
「ええ、何か危険な事があっては困りますのでここには近づかないようお願いします」
「りょーかーい」「はーい」「わかりましたー」「・・・」
廃墟という事か・・・たしかに何か怖いな
変なのがたむろしてたり、もしかしたらガラスとか割れたりしてて踏んで怪我したら最悪だ
幸い自分の担当エリアからは離れている
行くことはないだろう
「お給料の話をしますね。なかなか珍しい物なので簡単には見つからないかと思います」
「ですので一つ見つかる毎に2千円のボーナスが上乗せされます」
「おおー!」
その言葉を聞いた途端全員が色めき立つ
「見つからなくても最低保障のお金は払われますので心配しないでください。働いた分はキチンと払われます」
橋本さんがさらに質問を投げかける
「で、そのお給料とやらはどうやって払われるの?」
「終了時間までには担当の方がいらっしゃると思うのでその時その場で手渡されると思います」
「なるほどね」
「それでは着替えをする方は着替えをし私物は貴重品だけを持ち他は車に積んでください」
「あ、女性の方は男性の方がこの場を離れた後着替えるんでしたらゆっくり車の中ででも着替えてください。自分は見ないようにして外で待ってますので」
一通りの説明が終わった
頑張ればその分日給が上がる事にとてもワクワクする自分がいた
バイトは正直好きではない、仕事自体が別に好きではない
それは別段珍しいことではないだろう
しかしこんなに早く仕事に入りたいと思うのは初めての事だった
やはりお金の魅力には人間弱いなと改めて思わせる
他の人たちもおそらくそう思っているであろうと着替えをしながら考えていた
「では、時間が来ましたが準備ができたでしょうか?相沢さんは着替えなくてもOKですか?」
川島さんが確認を取ると
「あぁ、大丈夫だ」と
そっけなく相沢さんが答えた
「わかりました。では、みなさん仕事にとりかかってください」
「あ、あと依頼者の地主さんが見に来る事も十分考えられますので余りサボらないでくださいね。よろしくお願いします」
笑いながら川島さんが言った
そうか・・・それじゃーサボれないよな、残念
人の手が入っているとはいえ森に近いくらいのうっそうとした木々の多さに
少し面を喰らいながらどんどんと分け入っていく
やがて女性を除く全員が自分の担当エリアへキレイに別々の方向へ散っていった
もうすぐ暗くなりそうな空を見て少し寂しさを感じながら再び歩き出す
(このまま、真っ直ぐ歩いて川が出てきたらその辺りって事だな)
しばらく歩き続けると川の流れるような音が聞こえてきた
予想通り川が流れている、川というより小川だろうか
かなり浅瀬で水が澄んでいてとてもキレイだ
地図を見ると川の近くに看板のような物があるようなので探すことにした
看板はあっさりと見つかり自分の現在の場所、仕事のエリア全てがしっかりと把握できた
しかし目的の物は夜に光るのである
それが目印となっているからには辺りが暗くなるのを待つしか無かった
川のそばにある座れそうな岩の上に腰を下ろし時間が経つのを待つことにしたのであった