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蛍花

(なんだかんだで来てしまった・・・)


今は土曜の午後4時

駅前にはたくさんの人でごった返していた

集合場所に目をやるとおそらく同じバイトへ向かうであろう3人の人が集まっているのが見える


(結構人数少ないんだな)


目の前に来てもまだ決断することができない優柔不断な自分に少々嫌気が差しつつも

違和感が無いように遠くの物陰からジーッと観察していた

すると・・・


トントン!


いきなり不意をつかれたようにドキッとしながら後ろへ振り向くと

同じくらいの歳だろうかそれとも少し年上くらいにも見える男性が話しかけてきた

スラッとしていて利発そうな人である


「あのーこのチラシ見て来たんですけどこのバイトの関係者の方でしょうか?」


「え!?いやぁーボクはえーと・・・」


いまだにどうするか決められずあやふやな返事しかできずにうろたえてしまっていたが

彼は間髪を入れず話しかけてくる


「あ!やっぱりそうですね!手に同じチラシ持ってますもんね!」


しまった!と思ったがもうその時には遅かった


「あ、ええ。あのーそうですボクもバイトしようと思って」


「あぁ~同じバイトする側ってことですね」


「そうなんです」


初めて会った二人であったが照れ笑いをしつつ和やかなムードに落ち着いた

ここまで来たら腹は決まった、もう行くしかない

そこで


「集合場所はあっちみたいですよ」


「あっちかー、ちょっとだけ場所違っちゃったんだね」


「ですね」


「私は川島と言います、よろしく」


「ボクは田中です、田中祐二と言います。よろしくお願いします」


物腰も柔らかく普通に話ができそうな人がいて正直安心した

とりあえず話をしながら集合場所へ二人で向かうことになった


「電話一本しただけで面接も無しにバイトできるもんなんですねー」


「ん?あぁ日雇いのバイトですからね。そんなもんなんじゃないかな」


「そうなんですかー。日給高いけど夜勤ていうのでちょっと迷いましたよ」


「日給高いからね」


「ですね」


談笑をしながらようやく集合場所へ合流することができた


「お!キミらもバイトの人?」


かなり軽い感じで声をかけて来た人がいた

茶髪でいかにもな感じ

しかし終始ニコニコしていて人当たりの良さそうな雰囲気に思えた


「はい、そうです」


「そっかそっかー、俺ら3人だけかと思って不安だったんだよー。これで安心だ」


「オレは橋本よろー」


お互い自己紹介と挨拶を終える、橋本さんかまぁ悪い人では無さそうだ

残り二人は表情に乏しいのが少し気になるがおそらく20代の若い小奇麗な女性

なんだろう、日雇いの仕事をするようには見えない年代の男性

ボク達の中では一番年上に見える

その男性はしきりにキョロキョロと僕達全員を見回し口を開いた


「この仕事を担当している会社の人はいないのか?」


「いやーまだ来てないみたいっすね」


少し異様な雰囲気に物怖じしてしまいそうだがそれを見透かされたくはない

その後二人とも「どうも」と簡単に挨拶を済ませるだけで得に話はする気が無さそうに見える

初対面だし今日一日だけのバイトを一緒にするだけの関係だからそれも別におかしい事ではなかった


「いやーしかしどんな仕事なんかなー、倉庫とかのバイトかねー」


橋本さんは場を和ませようとしてるのか話を途切れさせないようにしていた


「キミは聞いてないのかい?」


すると例の一番年上の男性が話に割って入ってくる


「いやーあまり詳しくは聞いてないっす」


「そうか、申し訳ない名乗るのが遅れたね。私は相沢という者です。今日はよろしく頼むよ」


相沢さんか・・・なにか横柄な印象を与える自己紹介だ

その後もあーでもないこーでもないと橋本さんはずっと話続けている

しかしそうしてくれているおかげでさっきまであった不安はいつの間にか消えていた


すると川島さんが意を決したように全員に聞こえるようにこう言った


「それでは時間ですしもう人も集まらなそうなので事務所の方に伝えられた事を話します」


「自分はこのバイト2度目なので車でここまで来て集まった方を現場へ送迎するように言われています」


「え、キミ2度目なの!?なんでさっき言ってくれないのよ?」


橋本さんが間髪を入れず疑問を投げかけた


「ずっと話し続けられていたもので・・・そのーなんというか間に入るタイミングを失ったというか・・・」


「俺ずっと喋りっぱだったもんなー、そりゃそうだ」


クスクスと笑い声が上がった

その場をふと見回すと相沢さんが川島さんをジーッと見ている

さっきも会社の人を気にかけていたしこの仕事に何かがあるのだろうか?


どうやら話を聞く限り人手が足りておらず経験者である川島さんに送迎と現場リーダーをやってもらい

その分給料は若干上乗せされたということであった


「あっちの駐車場に車ありますんで荷物を持って移動しましょう」


ちょうど5人乗れるくらいのバンだったが実際5人乗り込むと狭く感じる


「運転しながら仕事の話しをしますね」


川島さんが話を続けるとやはりどんな仕事なのか気になり乗っている全員が耳を向けた


「今からある地主さんの林に向かいます。そこである花を収穫してもらいたいのです」


「花?外の仕事なのかよー」


橋本さんは露骨に嫌そうな顔をしながらチャチャを入れた


「光る花を収穫すると聞いたが」


相沢さんがすかさず口を挟んだ

「相沢さんは少しお話を事前に聞いているみたいですね。ええ、そうなんです。で、その花というのは特殊な物で夏の終わりの夜に花が咲きそして一夜だけ光るんです」


花が光る?そんな花今まで見た事も聞いた事もないな


「夜光花と言うそうです。地元では蛍花とも言うそうですが結構貴重な物みたいですよ」


「へぇー、なんかロマンチックですね」


今まで一言も喋らなかった女の子が突然喋りだし驚いて思わずそっちを向いてしまった


「あ、ごめんなさい。なんかカワイイ話だなって思って」


橋本さんが嬉しそうな顔ですぐチャチャを入れる


「女の子はそういうの好きそうだもんねー、カッワイイー」


「ハーイ!そこまでですよ、これから仕事なんですからナンパは終わってからにしてください」


川島さんがリーダーらしく橋本さんにツッコミを入れると

ドッと笑いが起きた


なんだみんな良い人そうじゃないか

お金も良いし来て良かったかも

そう、この時は本当にそう思っていた。本当に。

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