幕間 未来分岐
「君が、士亜君か」
――生徒会室を出て少ししたところで、女の人に呼び止められる。
ーーどうやら、少し年上のようだ。高等部だろうか? 藪崎と同等の年齢に見える。
「貴女は?」
「なに、ただの変人さ。理系学部のな。顔を貸してくれないだろうか?」
女はそう言うと、付いて来いと踵を返す。……見た感じ、ただならぬ理由があるらしい。
……ここで従わぬ理由もあるまい。
「……分かりました」
俺は頷き、その後に続いた。
「此処だ」
数分後に女は自身チームらしき研究室に、俺を招いた。
「……何ですか」
「君が薮崎君に何かを唆されたというのは分かる。あの男も、中々過激だからね」
女は笑った。
「どういう事ですか」
俺は聞き返す。
「君は都合のいい駒だ。それだけにこちらの研究の相乗りをさせてもらえないかと思ってね」
女はそれに対し首を振り、フフッとだけ鼻で誤魔化してみせる。
そして、そのまま赤黒い錠菓……タブレットが入った、筒を机の上に置いた。
「これだ」
「なんですか、それは?」
俺は聞き返す。
「いや、君の置かれている状況は知っている。……まぁそれよりも、だ。先に私達の話を聞いてもらおう。私達ヒオウ学園の研究部第3室では魔法使いの能力を引き出す研究をしている」
「……能力を引き出す研究?」
「あぁ、そんな訳で結果が今そちらに出したもの、『ブラッドタブレット』だ。一粒を摂取するだけで潜在魔力がほぼ限界まで維持可能。もちろんそのツケは身体に反動といった形で出るがな。私の試算では、常人なら一粒摂取で確実に10年は寿命が縮む。二粒摂取で1週間は血反吐を吐くだろう。オーバードーズすれば確実に死ぬものだ」
「……俺に、そんな危険なものを大会で使えと?」
「それは君の選択だ。だが、毒ではないとは保障する。私も研究者のはしくれ、予算を削られる訳にはいかない」
「信用しろというのか?」
「いや、私の販促行為だ。万が一君が死んでも薬の調整には使えるのでね」
「……現金だな。あんたのお名前は」
「メガーロ、とでも呼んで頂けると嬉しいな」
女はそう告げてくる。
「そうですか、それでは」
俺はタブレットを引ったくり、懐に押し込んだ。
「中々分かるじゃないかい」
メガーロが意地悪い顔になる。
「俺は……未来の為なら何もいらない。それが須賀谷 士亜の……男の考えだ」
俺はそう告げ、部屋から出ようとする。
「消費期限はないが、その薬は数ヶ月以上の保存には適さない。適当に使ったら破棄を推奨するよ、フフフ」
メガーロは俺の背中に、そう言葉をぶつけてきた。