魂の抜け殻
次の日。 群雲 順が須賀谷の病室に行った時、須賀谷の形跡は完全に無くなっていた。
「ーー士亜」
順は最初は茫然としていたが、やや悲しげに、言葉を振り絞る。
「もっと力になれる事があれば、良かったのだが。ーー力不足で、すまない」
祈るかのように、項垂れる順。
「彼は、呼ばれたのです。世界に」
その後ろから声を掛ける女が一人居た。
「あんたは、メガーロ……だったか」
順は振り返り、メガーロに向き直る。
「一体どういう事だ。お前達が士亜を攫ったのか?」
「いいえ。彼は本当に、呼ばれたのです。粒子測定による、転移反応の痕跡が残されている。私達でも、藪崎さん達でもない」
「世界とは、どういう事だ」
「そのままですよ、超常現象と言ってもいい。私達下々の者の理解の及ばないところです」
「超常現象?」
「はい」
「そんな物が言い訳になると……思っていっているのか」
順はメガーロに食って掛かろうとする。
「我々にとっての魔法とも同じですよ」
だが、メガーロがそう返した事により、順は冷静さを取り戻した。
「……飲めんな。アイツはいつ、帰ってくるというのだ?」
「それは、分かりません。しかし、観測装置によると此処にいた須賀谷君を何者かが望み、連れて行ったという事は確かです」
「では、あのフランベルグに対してどうすればいいというのだ、私、いや……われわれ人間は!?」
「それについては、大丈夫です」
病室に新たに3つの影が入ってくる。
「薮崎、それにアンドロイド、そしてあんたは……」
順が目を向けた方向には、白衣の男性が一人。
「古海=マルクカ=テスラ=コレカイ。異界の科学者です。この度は、私達と新たな物語を作ってもらいたいという事ですよ。そこにいるメガーロ君も含め、士亜君がこちらにくるまでに最高の舞台を作り上げる。それが我々の役目と心得ております」
男は自己紹介した。
「……信じていいのか」
「渡辺は消えましたからね。薮崎君とメガーロの手腕で、事後処理はなんとかしてもらいますよ。後は私達の紡ぐ道です。ケイラウトの次の作品も、時期に出来上がりますからね」
マルクカは落ち着いて言うと、部屋の中をじっと見回した。
「メガーロ、須賀谷君はブラッド・タブレットとタマチルツルギ……そして服は持って行ったようだな。もっとも、数ヶ月分のタブレットしかないだろうが……彼が戻ってくるまで、我々の力の見せ所ともなるな」
藪崎はそう告げながら、篝火の肩に手をやる。
「セクハラです」
が、嫌そうにその手を弾く篝火。
「違うわ、お前が俺の前に立つからどけようとしただけだ」
薮崎は少しむっとすると、横を割り込んで部屋の中に入ってきた。
「ベッドには体温は残っていない。やはりここから動いたのはかなり前か。追うのは難しいな」
「そのようだ。……どうあれ、新しい世界を望んだ士亜が、救われるといいな」
順は薮崎にちらりと眼をやると、憂いを悟られないように視線を外して天井を見たーー。
難は未だ、沢山ある。
ここで私が倒れるわけには、いかないんだ。
あいつの帰ってこられる場所を、もう一度作らねばーー。
順は重責から開放されつつも、新たな使命に燃え始めたーー。




