悪意のざわめき
「イフ……」
須賀谷が叫ぶより早く、網がイフットの身体に巻き付く。
「っ!?」
イフット自体は意識を取り戻していたが、まだロクに動けるほど回復していない。
「待て!」
須賀谷は顔色を変え、網に取り付く。
「……君はその子が、よっぽど取られたくないみたいだね?」
フランベルグは嘲るかのように、ゆっくりと網を自身に巻き取るかのように引き寄せていく。
「やめろ! やめるんだ!」
必死になり、止めようとする。俺は、こんなところで彼女を失いたくない。なんでだよ、どうしてだよ。納得なんて出来ない。おかしいだろ。クソ!
イフットの顔を見る。
ーー彼女はこちらを見返すが、特になにも思っていないかのような感覚であった。
「何故、そんな状況でもこっちを見るの」
イフットが冷静なまま、小さい声で言う。
「奴の頭一つ下げられないような状況で、こんな事が許されるか!」
須賀谷は苛立った顔のまま、網を引き剥がそうとする。ーーだが、網は思ったよりもしっかりとくっついて、剥がれやしない。
「私が黒岩田の頭を下げさせる? ……そんな事、出来ない」
「あぁ、そうかい!」
胸が痛む。
「何処までも、お前は裏切るかよ!」
須賀谷は少し悲しい目をしながらも、呟く。
「私は貴方の自己顕示欲を示す為のものじゃない」
「ーー分かってるよ!」
「それに、松葉杖でも、なんでもない」
「そんな事分かっている! 俺はその逆で足蹴にされていても良かったがな! 多少の不満はあれど問題ないくらいだったわ!」
ーー空しい気分になる。だが、それでも研鑽しようと前向きになれる人間だった。お前という奴は。
「勝手に思い込んでいた事を言われてもーー」
「ああそうかい! 無様ですまなかったな! 全部嘘なんだろ!?」
「それは違う、昔は昔ーーでも」
「ーーでも」
「今はね。大嫌い」
ーー一瞬、須賀谷の腕の力が抜ける。
イフットを掴もうとしている抵抗が無くなり、フランベルグに吸い込まれていく。
「はははははははっ……!!」
ーー唖然とするしか、ない。
「あーぁー、健気だねえ。実に面白い! 人間ってこんな下らない生き物だったんだ! あーっはっはっは!!」
そんなこちらを傍目に、フランベルグが嘲り笑ってきた。
「……貴様!」
なんとか立ち上がった順が須賀谷の後ろに来たが、まだ戦える状況ではない。




