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死んだ自分を弔う為に

 闘技場では、未だに戦いが続いていた。

移動をしようとしても封じられる須賀谷、それを翼で猛攻するイフット、気絶している黒岩田、膝を付いて休憩している順。

「ーーお友達に助けを求めなくていいの?」

 イフットが嘲笑するように言ってくる。

「生憎と俺達は部活のノリなんだよ。勢いと気力で生きてるんだ、それぞれの未来の為にな!」


「ーーそう」

「少なくともお前の事は好きだが、呪いを掛けていくというのなら仕方ない、戦うしかない!」

 普段ならばとっくに息が上がるレベルの中、順による修行で立っていられる。超人では無いとはいえ、まだまだ、戦わなきゃいけない。俺は、勝ち続ける必要がある!

 まだ俺のーー魂のフィラメントは焼き切られない!


「私のことなんてさっさと忘れて、きちんと自分の人生を歩いて行った方がいいんじゃないかな」


「この時期に言うんじゃないよ馬鹿! お前はそんな事言う人間だったとは、今までの生活で全く思えないぞ?」


「さぁね」


「それに、別れるなら別れるでちゃんとした手順を踏むのが道理だろう! 人間のすることか! 犬畜生か!」


「ーーそう?」


「お前はこれを納得しているのか!」


「仕方ないとは思っているよ」


「あんな男に俺が劣っているのか! 俺の思いが!」


「ーー自分の思いが人と一緒だと考えるのは、危険だよ?」


「分からず屋が!」


「それは貴方もだよ、話が通じない!」


 須賀谷の汗と血ばかりが、流れる。


 ーー40分に及ぶ死闘の決着は、以外とあっさりとしたものであった。

 翼が須賀谷の脚を掠め、床を削りとる。鎧を突き破り、須賀谷の膝から血が吹き出る。

「ぐううううッ!」

 冷や汗が出る。動脈をやったかもしれない。……だが。


「取った……ぞッ!」

 須賀谷はそのままイフット相手に突っ込み、最早短剣といっていいレベルにまで弱体化したタマチルツルギを逆手に持ちかえ右手で振りかぶる。

「この距離!? 何を血迷って!」

 イフットが叫ぶ。


 同時に須賀谷の脳内に、今までの光景がフラッシュバックしてくる。


ーー飯を一緒に食った記憶、登校下校の記憶、一緒に買い物に行った記憶、よくわからない失敗料理を見た記憶、海の見える綺麗な田舎に行った記憶、温泉の記憶ーー。

 全てがかけがえの無い、光景だ。

「本当に壊して、いいの?」

 自分のうちの心か、何者かが語りかけてくる。

「ーーっ」

 歯を食いしばる。

 視界の隅に黒岩田が写りこむ。


 ーーこんな世界になどしたくはなかったが、俺はーーあんな事をしてのうのうと生きてられる奴がいる世界など、認める事は出来ない。


 それがこの身体と、頭の意志だ。

 そしてこの意志が救おうとするものが、あるーー。それは、自分。

 今、自分がすがりついている自分自身だ。

 イフットに頼ろうとしていた弱い自分、裏切られた自分なのだ。


 今の自分は、かつての自分の断末魔を聞いて、彼の仇を取ろうとする自分だ。

 俺は俺が好きだ。だから俺を守るためなら、俺の命などどうなったって構わない。死んでしまった俺に、華を添えてやるために。

 俺は俺を弔う必要がある。さもなければ、時が過ぎようが全くこの気持ちは晴れない。奴の首を供えなければーー!




「不様で結構…… これが俺の命だッ!」

 ーー須賀谷はそのまま、彼女の背中の翼に向けてツルギを突き立てた。

「っ!?」

 彼女の顔が一瞬違和感を持つレベルで変わる。

「ーーまさか、ここまで、やる……なんて……」

 イフットが口から言葉を漏らす。装置をピンポイントで刺したつもりだが、刺さったかは分からない。

「この渇きが解るか? 過去も今も無いから……未来に生きるしか無いんだよッ……!」


須賀谷は渾身の表情で言い放ち、イフットを突き飛ばす。

「それでも……私はッ……!」

 彼女は魔力のオーバーロードを起こし、気こそ失わないもののこちらを恨んだような表情をし、後ろにゆっくりと倒れ込んだーー。


 色んな悲しみと同時に、こうせざるを得なくなった環境に憤りも感じた。


「っぐっ」

 須賀谷は、また僅かに口の中から鉄分を感じ取る。

ーー口の中を切ったのかもしれないし、動き回って薬が効きすぎたのかもしれない。

 やや、舌が痺れている。口を拭い、意識をしっかり保とうとする。


「ーーお前もつくづく、不憫な男だな。ーーそれよりもあの女、死んではないぞ」

 背後から、順が倒れたイフットを指差しながら言ってくる。


「分かってはいる。ーーこの戦いが終わった後、黒岩田の生活がどうなるかはしらんが、正直止めは刺したい。でも、イフットは違う」

 須賀谷は言い返した。

「ーーかつての半身への温情か? 人は、軽く裏切るぞ? また辛い思いをするぞ? それにこの手の人間にアマアマなけじめの付け方をしたところで、落とし前はつくまい」

「……順」

「大丈夫か?」

「ーー正直、大丈夫とは言い難いな。ーー俺は」

「ほぅ」

「アイツは、イフットってのは……俺が辛い時に声を聞きたかった人間でもあるし、本気でぶつかりあいたかった人間でもあったし、喜怒哀楽を分かち合えていたと、ーーそう信じていた人間だった。それが、あんな物に壊されただなんて。そしてあまつさえ隠し通して、俺を殺そうとしたなんて。一夜の過ちとかじゃなくて、こんなに殺しにくるだなんて、はは……なんでだよ、マジで。おまけに向こうのクソはくだらん理由、と断じやがったんだぜ?」

「ーー言うなよ。お前が、信用してるから私にも見せないような普段見せない顔を出してたいたのだろうとは分かるさ……。まぁ裏切られた人間が言うと重みが違うな」

「順ーー」

「イフット=イフリートが、そういう女だったと、信じたいか?」

「ーー信じたく、ない。俺は、信じたくは無い」

「甘ちゃんだな。戦士には向かない。でも、それくらいで人間はいいのかもしれない」

「そう、なのか?」

 須賀谷は、順に向かって尋ねた。


「ーーはは。まぁ、いずれにしろ戦うマシンに恋愛沙汰は分からん、だが信頼していたものにお前が、刃を向けられたというのは事実だろう?」

おどけながら順は言った。

「ーーあぁ」

「時が癒すなどと甘い事は言わん。だが……最後に立っている者こそ、勝者なのだ。お前の敵討ちは、ひとまずはなんとかなるな」

 順は軽く須賀谷の肩に手を置き、しっかりしろよ、私はお前が頑張った事を知っているし、覚えているとだけ言ってくれた。

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