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悪意ノ元凶


 風が吹き荒ぶ。

 学校内で一番高い場所。体育館の屋上にある展望台に、渡辺はいた。


「ほっほ、あのダニ達ははまだ生きておるか。しぶといのう」

 ポップコーンを片手に、もう反対側には双眼鏡を持った渡辺は、苦々しげな顔をしながら唾を地面に吐き捨てる。

「見込みはあるね、ただの人間があそこまで立ち回るなんてさ。あのイフットや黒岩田を使ってもここまで粘ってくるなんて面白いよ」

 だがその背後から、150センチに満たない背で、声を掛ける少年がいた。

「おや、フランベルグ。貴方か……何の用ですかな? ポップコーンなら、あげませんが」

 渡辺は、咀嚼をしつつもゆっくりと振り返った。

「そんなものは欲しくも無いよ。それよりも、手抜かりはないだろうね?」

 フランベルグは、告げる。

「ーーもちろん。イフット=イフリートに関してはドレインウィングに仕込んだ記憶操作装置により思考は奪っております。黒岩田により完全に取って代わった以上、あの子は木偶同然でありますよ」

「ははっ、それはいい。ーーあの赤い眼の男は気に入らないんだ。イフットを操り、黒岩田で篭絡した結果、彼の無様な様子が分かれば……それだけで楽しいし、愉快だよ」

 

 フランベルグと名乗った子供は、にこやかに笑った。

「ーーところで」

 そう、続ける。

「何です?」

「……ちょっと言いたいことがあってね。此処に、もうすぐ生徒会……藪崎の手勢が来るという事を伝えにきたのさ」

 少年はそう忠告し、ふっと目を細めてフィールドを眺めてみせる。

「何? そいつはありがとうございます。あの忌々しい会長も、さっそく捕らえて追放してくれましょう。それではフランベルグさん、手伝ってくれますかな?」

 それを受けて渡辺はそのまま少年に対し、提案を持ちかけた。

「……残念ながら、それは聞けないな」

 だが少年は、横に首を振った。

「何ですと……?」

 咄嗟に渡辺の顔が、曇る。

「助ける以前にお前に、とある容疑があるのさ。……お前は自分で、許容された以上の部隊を作っているらしいね」

 そのまま少年は、問い詰めながら不快そうに睨み付ける。

「……誤解ですよ」

 するとポップコーンの器を、微妙に焦った顔をしつつ渡辺は地面に引っくり返した。

「誤解や勘違いにしては、動く金額が多いんじゃないのかな? 僕の方でも、ちょっと会計を脅して色々と調べているということだよ。大方こちらの技術を吸収した後に、離反をしようという魂胆だろうけど……そうはいかないよ」

「……滅相もない。 あれはただの私めの地位保守用の部隊ですし、私がそんな事をするわけがありません。 第一私にそんな欲など無い、私はここで自分の資産を肥やせれば満足なのですよ。 大体その為に、教員や生徒を捧げたではありませんか」

 渡辺の顔に、苦さが浮かんだ。

「確かに、貴様は我々を受け入れた。だが、我々が貴様のような男に優しくするべき、だとはハナから思ってはいないんだよ」

「何ですと……?」

「それにあの群雲という昔僕が潰した土屑のおねぇちゃん、あの子の鎧の技術は……我々の側の技術だ。君がこちらの技術を流出させたのではないかい? こっそりサイバーアームドガントレットなどを融通してあげたのに」

「そんな……私がそんな事をするわけがありません! 第一あの小娘は、手筈通りに再起不能に送り込んだはずです!」

 少年の剣幕に様子が変わり、急に渡辺は後ずさる。


「言い訳は無用だよ。悪事を働いた上に醜い真似はお天道様が許さない」


「ちょっと……待ってくれ! 誤解だ! 私を殺さないでくれ! 私にはまだ、出世の望みが! こんなところで終わるわけにはいかないのです!」

「情報が漏れるのも簡便だからね……。一罰百戒、君には地獄の底での体育座りがお似合いだ」



「……ぱぷぅっ!?」

 そう言うが早く、呻き声と共に双眼鏡が床に落ちる。

「頚動脈を切り裂いた。そのまま死ぬんだな」

 フランベルグと呼ばれた少年は冷徹な目をしながら渡辺の喉下に右腕を突き込むと、手で一周抉り抜くようにしてから引き抜いた。

「オッサン、魔力も大して無いし……血も油っぽくてばっちぃなぁ。これは所詮自らの保身を図ろうとした……その醜さが招いた結果だよ」


 そのまま少年は汚そうに渡辺の服からハンカチを取り出すと、眉を顰めながら血の付いた手を拭う。

「しかし、あれは面白そうだ……もう少し見てから遊びに行こうかな」


 それから須賀谷達のいる闘技場のほうを見ると、ニヤリと笑った。

「あの土屑おねぇちゃんや男が……何処までやるのか楽しみだ」

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