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ー古傷の崩壊ー

 貴方は不幸になる。

 ーーでも、貴方は独りではない。だから、諦めないで。

 ーー本当の不幸をしらないと、人はいつか壊れてしまう。

 だから、その為に生きて。今はその為の、試練の時代なのだから……。

 もう一つの世界でも、見ている人は、いるのだからーー。


 「士亜、 起きて」

 意識が眠りから引き戻され、俺、須賀谷 士亜は布団から飛び起きた。

 「……イ、イフット? ……ん……今は何時だ?」

 どうやら自分は今の今まで眠っていたらしい。そういえば、新年度が始まるというのに。

 「もう7時だよ。遅刻しちゃうでしょ」

 鼻をつまんできた小柄な彼女が、気だるそうに言葉を返してくる。

 ……そう言えば昨日は、うちに泊まりに来ていたのだった。

 本当に迷惑を掛けてすまないとは思っているのだが。



 「おはよう……あぁ、すまんな。突然で驚いた、ありがと」

 「全く、さっきに朝飯を作ったっていうのに起きないと冷めるじゃんか、士亜。しかしホントに……私が居ないときもしっかり自分で料理を作らないと、身体壊すよ?」

 胸を撫で下ろすとイフットはそのままこちらを心配するように、鼻を持ったまま上下させてくる。

 「いや、だって……自分一人で居る時じゃ作る気がおきないんだよ。食事なんて自炊したところで俺の実力じゃ毒にも薬にもならないしさ。少々不節制するようなそんな程度で壊れる身体なら要らんよ、まだ俺は若いしな」

 話の相手は赤毛の女、イフット・イフリータ・イフリートだ。

 去る大魔法使い、貴族の末裔でありながら幼少からの幼馴染でもあり、複雑な事情があり籍はまだ入れてはいないが大切な俺の妻でもある。家族が代々男性の場合はミドルネームにイフリート、女性の場合はイフリータと付いているとかいうややこしい家系だ。

既に10年以上の付き合いであり、こいつとの馴れ初めは覚えてはいないが、親父達の世代からの付き合いで、何やら身分の差で周囲と溶け込めなかったところを俺が話しかけたとか言うことらしい。まぁどのみち、今となってはそんな昔の事は大した意味も無いのだが。


 「……でもさー、そうは言っても士亜は秘奥に来てから5kgも体重が減ってるじゃない。訓練もあんまり真面目に受けてないし、定期的に私が来て食事を作らなきゃ、あっという間に干からびて死んじゃうよ?」

 袖を引っ張られイフットに尚も、説教をされる。彼女は自分が体調を崩したりすると、飯を作りに来てくれているので強く出ることが出来ない。

 「いやいや、流石にそうはならんし、お前が気にする事じゃないさ。イフット、俺の顔を見てみろよ、色だって青白くはないし相応の筋肉だって身体にあるし、俺はまだまだ元気だ」

 だがそれに対し笑いかける。理由としても心配をさせたくない気持ちも、ある。

 「……全く、何を遠慮してんの? ……本当病気とか栄養失調とかになったら心配だよ、この前までだって、入院して倒れてたんだしさぁ。 だから今度も、お弁当作って送ってきてあげるね? 体力は栄養からだからさ、風邪とか引いたら貴方の両親に申し訳ないよ」

 しかしイフットがそう言いながら頭に手を添えてこちらを見た時、不安そうな顔をしていたのが分かった。



 「……いいのか?」

 「冗談で言う訳が無いでしょ? それに、士亜が身体を壊したら困るのは私なんだしさ、餓死されてホッケの開きみたいになられたら嫌だし」

 「なんか美味そうだな、それ……まぁありがとな。お前の作る飯は美味いから嬉しいよ。甘えとく」

 顔を見ながらも少し声を落として、礼を言う。

 「やだなぁ、礼を言うくらいだったらさ、もっともっと強くなって頼りになる騎士になってよ? おいしい料理作ってあげるからさ。その代わりに将来には私を幸せなお嫁さんにしてね? ……っていうか、遅刻するから早く着替えてよね」

 彼女の口付けが、ーー俺の額に当たる。

 「全く、歯の浮くようなことを臆面なく言うか、承知はしているけど。 ……分かってるよ。あぁ、服は何処にやったかな……」

 彼女の笑い顔を見て、俺も背伸びをしながら気を晴らした顔をした。

ーー幸せだ。こんな日が長く続けばいいと、そう思う。

今の自分は成績的には浮かばれないものの、心の中では満足している。

 毎日が楽しく、恐れも脅威もない。心が充足し、文句の一つも無い。

 今の俺には力はないがーー。絶対に戦って、成果をあげてみせる。


 騎士見習い、須賀谷 士亜。年齢は17。俺のプロフとしては騎士や武士、魔法使いが闊歩する人口1億程の資本主義国家の秘奥国、その東部の外れにある、天神原諸島の出身だ。

 現在はエリート中高等一貫教育校である学校、7階建てでA棟~C棟に分かれる校舎を持つ秘奥学園の高等部の二年生。一年の時には中等部時代の功績を認められて特進Bクラスに所属していたが、その実はぎりぎりの生徒だ。

 身長は175cm、体重は減った今で58kg。魔法の実力は周囲がエリートばかりなのでクラスの中では生まれの影響もあるのか、適性により中の下。男にしては長めと言われる髪を持ち、体術は専攻で剣と槍に無手の武術を習った程度で人並み水準よりやや高いか、至って平凡と判断される。

 そしてついでに言えば出自も特別でもなく親父はいわゆるお宝探し屋のアイテムストライダーであり、須賀谷家があまり歴史がない為、二代目の小倅という事になる。

 戦闘に使えるような水準の直接的な攻撃魔法は未だ覚えておらず、親父譲りの魔道具の扱いと、他の人間にとっては基礎であるただの防御魔法と補助魔法を少ない消費で扱う事が出来るというのが、俺の唯一にして最大の特徴だった。

 幼少からの幼馴染にしてパートナーの優等生、このイフット・イフリートと比べ、学力並びその戦闘力は自覚した上でも大幅に劣っていた……。

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