嘲笑
ーーだが。
「《フレアーハウリング》」
火の螺旋が、須賀谷の顔の横を飛んでいく。この魔法は……イフット。
「……ッ!」
須賀谷は憎憎しげな顔をしながら、火線の飛んできた方向を振り向く。
「順、引き離さなかったのか!」
苛立ちを当て付けるようだが、そう言ってしまう。
「五月蝿い、あそこまでの使い手とはこちらも予測していないぞ!」
遠目では多少の手傷を負った、順が文句を言ってくるのが聞こえた。
「へ、へへ、あちらにもな、道具ってのを与えたんだよ。グレード2、<マジェスティ・アームズ>。簡単に言う、魔力増殖炉さ。元々高いイフットの能力が更に上がるんだ、勿論あれは渡辺の資産でな。いやー、しかしお前の相棒は倒れないのが不思議なくらいだ」
目の前では黒岩田が笑いながら得意げになってくる。
「てめぇ……!」
須賀谷は黒岩田の胸倉を掴もうとする。ーーだが、その手先の前を再び火線が通った。
「ごめんなさい。でも、手出しってのは、させないーー」
ーーッ。イフットの声と共に、魔法が、飛んできただと?
「何故……ッ!?」
須賀谷はギリッと奥歯を噛み締めた。
「ーーどういう事だ!」
須賀谷は激昂する。
「見て……分からんのかよ?」
黒岩田の煽る声。
「はぁ……!?」
須賀谷は、顔を歪める。
「フハ……ハハハハ! だから何も知らないと言ったんだ、貴様は!」
(ーーどうせすぐに分かる。心を完全に折られてしまえばいい)
脳内でかつてーー黒岩田が言った言葉が反響する。
「ーーっ」
心の中で、冷たい液体が流れる感覚がある。
「ごめんなさい……士亜。そして、黒岩田。はい、ポーション」
もう一度、イフットが言うと共にポーション瓶が黒岩田に投擲される。その直後に、順が再びイフットに攻撃を仕掛けて戦いが再開されていく。
だが、こちらにはダメージがきつかった。
ーーまさか。
ーー俺を、裏切ったのか。
ーー頭から血の気が引いていく。
「ふん、以前言ったろ? 俺は不幸で可哀想な人間をみるとワクワクするってな。……どんな思いだ?」
黒岩田は、イフットから投げられたポーションを空中でキャッチすると、得意げに告げてくる。
「っぐっ……あー、生き返るなァ、無様な人間を見ながら飲むポーションってのは最高だァ!」
瓶を開け、豪快に瓶の中身を摂取する黒岩田。
「さぁ、魔力も回復したところだ。続きと行こうかい須賀谷クン? いや、士亜ちゃぁぁぁぁん?」
言葉と共に黒岩田の右腕に付けられた《サイバーアームドガントレット》が再生成される。……魔力さえあれば、修復可能な類のようだ。
……クッ。
「グギギギギ……!」
「怖い顔しちまって。関係の無い人間にまで迷惑を掛けて、よくやる事だ!」
黒岩田が煽ってくる。
「貴様……! それでも男か!」
「いやいや、叔父貴譲りと言ってくれよ、士亜ちゃん。叔父貴も言ってたぜ? 無様な俎板の上の魚を捌くのは楽しいぞォ!! ってなぁ!? ハーッハッハッハ!!」
こっちの心にグサグサと刺さる言葉を投げつけてくる、黒岩田。
情報がこっちに何もないのをいい事に。
「……っ」
絶望に、言葉を失う。
「やー、いかにして俺がアイツをモノにしたいか、知りたいか?」
「……大方権力を盾にしたのだろう? 貴様という男は、卑怯な上に適当な男だからな」
ーーそうに決まっている。あいつが、俺を裏切るなど……考えられはしない。全面的に信頼を置いているのだ。今まで何年も生きてきて、助け合ってきた。だからこそ、この今こそ何かの間違いなのだ。
「んー、違うぜ?」
だが、黒岩田は首を振る。
「何?」
「いやぁね、須賀谷クンがあまりにも情けないってのもあるがね、人ってのは本当に弱いモンなんだなぁ、とね。心細い環境になってしまうと、どうしても人に頼りたくなるモンなんだなぁ……ってな!」
「ま、最後に言えることはこうだ」
黒岩田はまた、眉を動かして下卑た顔を浮かべる。
「愛しい愛しいてめぇの彼女は美味しかったぜぇぇぇ! ハーッハッハ!」
「てめぇぇぇぇッ!!!!」
須賀谷は再び全身にオーラを纏わせ、走り出す。
「ーー首の骨を折ってやる。膝を喉に落として、二度と目を覚まさぬようしてやる! 腕の筋を切り落として、二度と剣を持てないようにしてやる! うぉぉぉぉぁああっぁぁぁッ!!」
「はは、拝借しただけでキレやがったwww んー、弱いw 雑魚ww」




