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ヴィジョンー1

 自分にも、過去の思い出というものは、ある。

 痛み、苦しみ。それ以前に自分が何故この場に立っているのか。

それはなんの為だったのか。

過去は何故こんな道に入ってしまったのか。


 切り結ぶ度に、目の前の敵への憎しみと怒りが湧き続ける。


 俺の何年もの生きた証は、なんだったのだ?

 ーー答えなんてものは、出ない。

自分の頭の中での整理も付かないし、見付かりもしない。


「死ね!」


相手のアックスが足元にめり込む。チャンスだ。


ーー須賀谷の身体には、以前よりも大幅に上回る腕力と脚力が身についていた。まだ、今ならば。



「でりゃぁぁぁぁぁ!」


 相手の隙を見計らうと斧の死角に入り込み、カウンターで腕に持ったままの盾を問答無用で黒岩田の肩口へと振り下ろす。


「シールドバッシュだ! 骨ごと折れて死ねっ!」


 須賀谷の思い切り体重を乗せた一撃が肩口に、めり込む。


「ぐぉっ!? チィィ、中々に痛ぇじゃねぇかぁ!」


 黒岩田は直撃をもらい、忌々しそうな顔をした。


 シールドが防御のためだけの道具でない事は、順に教えて貰った事で須賀谷にはしっかりと身についていた。


 しかし相手の防御力も、半端程度では無いらしい。黒岩田は怯む様子も無く長斧を振り回しこちらを振り払うと、不満声を出してきた。


「とっとと降参しやがれ! 世界の縮図を理解してないんだよ、お前という奴は!」

 しかし黒岩田は、剣戟を繰り出しつつも此方に言葉を続けてくる。――大物ぶって、何様のつもりだ。



「お前の自己満足など……聞きたくもないと言った! 大体身内の権力の傘の下にいるお前の言葉など無駄だ!」


 挑発なんかに乗るものかよと、冷徹に撥ね退ける。


「目の色を変えやがって、焦っているな……。そんなにイフットを取られて悔しかったのか?」

 すると黒岩田は、再度目に見えた挑発をしてきた。


「貴様……!」

「……世界の掟を変える程の力どころか並み以下の力さえも持っていないお前などに心配をされるとは、イフットも罪な事だなぁ」


 黒岩田は、そんなこっちの姿を見てわざとらしそうな溜息を付く。


「世界の掟と出るかよ……そんなもんやれるものならいつかやってるさ、だがその前に俺は今目の前にある、お前を倒す! そして渡辺を見返して俺は元の生活に戻る!」

 まともに話すだけ無駄だと身体に力を溜めながらも、言い返してやる。

「叔父貴を見返す、ねぇ……。噴飯ものだぞ、それは。身の程も弁えずによく言う事だ。実力の伴わぬ雑魚は粛清されるだけだぞ? 須賀谷士亜ぁぁ?」

 闘気の圧迫を受け怯みそうになるが、動きは止めない。

「魔法を撃てないお前が……実力不相応などという言葉を出すな!」

 こちらも負けてはいられない。剣を構えながら反論をする。

 しかしところが、黒岩田は今度はその言葉を聞くと急に笑い出した。

「ハハハハハハッ……!」

「木偶の坊が! 何がおかしい……!」

 盾も構え、刺突しようと間合いを窺いながらも、須賀谷は黒岩田に問い詰める。膠着状態になり、迂闊に手が出せない。

「面白いのでもっと暴れて欲しいが……お前の回答が滑稽でな。お前は俺がいつまでも魔法が使えないと思っていたのか?」

 だが黒岩田は、満面の笑みを浮かべながら右腕を振り翳してきた。

「この通りだ……マジックウェポン《サイバーアームドガントレット》装着!」


 瞬間黒岩田の右腕が光り、シオマネキのような巨大な機械の腕が装着される。


「ーー何ッ!?」


「《フレアーハウリング!》射出!」

 そしてさらにそう言い放ちつつも、右腕から光を発すると螺旋状の火炎放射を撃ち放ってきた。


「うぉっ!?」

 いきなり撃たれてきた業火に対し咄嗟に手甲で防御をしようとすると、指に装着された《紅蓮の指輪》が勝手に火炎を掻き消す。

(――助かったのか!?)

 熱は多少感じたものの、幸運な事に須賀谷は火傷を負う事は無かった。

「……ほう、その指輪は……。此方の機械腕からの魔法をレジストしやがるとはな」

 まさか防がれるとは思わなかったのか、黒岩田は感心をしてくる。奴の右腕には、よく見ると巨大なハンマーのようなユニットが付いていた。


「マジックアイテムだ。俺自体は相変わらずの雑魚の雑魚だよ。超人的な力もないしカリスマは無い。だが、そっちも折角使ったシオマネキみたいな腕の魔法も防がれて残念だったな」

 一泡吹かせたと考えて思わずにも、言い返してしまう。

「口は達者だな。その様子ならまだ戦えるか」

 しかし相手は、まだまだ余力を隠しているらしい。表情から、この程度では済まない様子が見て取れた。



「無駄な努力をみせてみろよ! 須賀谷!」

 黒岩田は笑いながら右腕を向けてくると突然、何処から作り出したのか鉄製の円形ブーメランを機械の腕から射出してきた。

「実体射撃!? ……クソッ!」

 須賀谷は慌てて弧を描いて飛んできたブーメランを剣で弾く。

 しかし投げられたブーメランは思ったよりも重く、弾くと同時に須賀谷はよろけてしまった。

「これは……!」

 振り向くとその辺の岩にブーメランが突き刺さっており、深い亀裂を入れている。

 相手の遠投能力は、どうやら相当の精度と威力のようだ。やや間合いが遠いことを少し、後悔する。

 須賀谷は昔から剣士スタイルで、中距離魔法を実用レベルでは持ち合わせてはいない。加えて今は、この間合いで使える飛び道具など全く用意もしてこなかった。

「素敵な装備品のようだが……実体攻撃カッターブーメランは無効に出来はしないだろう? チャージに時間が掛かるとはいえ、残念だったなぁ?」

 黒岩田がまた、喧嘩を売ってくる。隠れるものは何かないかと周りを見渡すと、少し向こうの離れたところで再び順がイフットと魔法の打ち合いで戦いを続けているのが見えた。


 (――順の援護はもう、期待できない。冷静さを簡単に失う訳にもいかない。単純な筋力はまだ向こうの方が上か)



 恐らくは《エンチャント・ナックル》でさえも相手を消耗させなければ大きなダメージを与える事は出来ないだろう、そう推測する。


「ならば先に……スタミナを下げるために手傷を負わせればいい!」


 須賀谷は盾をしっかり構えると、再度間合いを詰めにステップをした。

 あの大腕を避けて一撃を刺すなり、よろけさせれば……勝機はある。 そう思いながらも黒岩田に剣の切っ先を向け、飛び出す。

 ――だが。


「嘘に引っ掛かったかよ! 単細胞が! 残念ながらこいつは3発ごとに手動リロードが必要なだけでね!」

 黒岩田はそう言うと、新たに腕からブーメランを撃ち出してきた。


「飛び道具が……まだあったのか!?」

 須賀谷はいきなり迫ってきた剛速のブーメランに驚いて身体を捻り回避をしたが、体勢を崩す。

 その瞬間に、隙が生まれる。

『《フレアーハウリング》、最大出力だぁ! 丸焼きにしてやるッ!』

 そこへ追撃の炎の渦が放たれた。

「火炎かよ! だがそれは想定内だ! 炎に紛れて突っ込めば……なんとかなる!」

 対応するように慌てて炎の印章のリングで防御をする。

 狙い通りに火炎は四散し、無力化される。



 ――しかし、黒岩田の狙いはその先にあった。

「甘いのはお前だ! 炎は視界さえ防げればよかったのだよ! ……お前などに斧を使うまでもない……死ぬがいいぜ!」

 いつの間にか、無力化された炎の真後ろを黒岩田が追いかけていたのだった。

「何っ!?」

 あまりの事に目を疑う。須賀谷の目の前に、いきなり巨大な機械腕を振りあげた黒岩田が現れたのだ。

「おらァ! アームパンチ!」

 防御の前に鉄パイプのような正拳が勢いよく須賀谷の腹に沈む。

 瞬時に鋭い痛覚が身体全体に危険信号を送ってくる。



「ぐぇぉぁ……ッ!」

 脳が揺れる。唾液が出る。当たり所が、悪かった。

 須賀谷は唾を吐きながら、後ろに吹き飛び転がって悶絶をした。マクシミリアン式甲冑の上からでも相当の衝撃だ。アバラ骨が折れて肺に突き刺さったかと思えた。


「おっと、そんな簡単に逃がすかよ! 締め上げて叩き付けてやる!」

 倒れるとさらなる後方回避に移る前に巨大な腕で身体を掴まれ、起こされる。

 そして続けざまに地面に打ち落とされ、衝撃を受けた。

 鎧の表面がぐわんとひしゃげ、身体に激痛が広がった。


「うぉぁぁ……むぐッ!」


「はは、泣けよ!」

 あまりの痛みに苦痛の声を上げると奴は、さらに躊躇なしに上から殴りつけてきた。

 なんて力だよ。息が出来ない。逃げられない。

「ぐっ……」

 憎悪の心が、さらに上がってきた。笑えやしない、こんな奴に。気分が悪くなる。

「ほらほらほらほら! 何とか言えよ……あぁ? 快感なのか? てめぇは異常かぁ?」

 こちらの身体を甚振るように何度も巨大な腕で殴り続けながら、黒岩田が笑う。

「……あぐっ……」

 連続で攻撃を受けたせいで身体全体が重く、返答が出来ない。

「……くぅ」

 辛うじて死の直前の蝉の鳴き声のような物をあげられる程度だ。

「――返事が出来ないなら骨の一本でも折ってやるか?」

 黒岩田が視線を送りながら、嘲笑ってくる。須賀谷は蹴り転がされ、地面に仰向けに倒れた。




 空にはビジョン内の、偽の空がある。

 ――ロクでもない。うんざりする。何故こんな苦しい思いをしながら戦っているのだろう。

 ぼんやりとした意識で目を開くと、そうも思えてきた。

「あちらさんでもお前の相棒の順とかいうのがイフットと戦っているが、あれも敗北者なんだってなぁ」

 その時黒岩田が突然、倒れた自分に対して言ってきた。

「不様だよなぁ、†産廃†という過去の人間なのにまだまだ生きようとする。生きた化石人間、時代遅れのカスだ」

 誰にともなく、罵倒が続く。無論、こちらへの当て付けだ。

 ――怒りはくるが、肉体が一気に消耗し今は耐えられなくなっている。

「おい、その態度は何か不満か?」

 奴がこちらに向かって怒鳴ってくるが、しかし身体は動かない。そうしていると黒岩田はさらにこちらの右腕を、ガントレットの上から踏み付けてきた。

……腕が重い。言い返せない自分が情けない。

だが、まだ、死ぬわけにはいかない。死ぬわけにはいかないんだ。

俺はまだやりたい事もやらなくちゃいけないこともある。

それに、やりたかったことも。


ハァッ……ハァッ……!

順調に騎士として生きて、あいつと結婚して、ダンジョン開拓して宝とか稼いだ後にそれなりに家の農場も継いで、猫を飼って、下らない夢見て、それで子供ももって、それから死んでいきたかった。


「俺は、まだ。俺は……!」


「クソがッ!」

 須賀谷は相手の脛を空いている腕で思い切り殴ると、立ち上がる。


「ぐぅっ!?」


黒岩田が悶絶した瞬間、須賀谷は自身の懐に手を入れた。


ーーそこには、ブラッド・タブレットのケースがあった。

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