積み上げてきた一ヶ月
「……力は流石といったところですね」
「……メガーロ」
医務室から出たところの通路を通ると、薮崎会長との後で会った女が居た。
「……貴様、士亜に何か余計な吹き込みをしたのか」
それを見て順は警戒したかのように、メガーロに食って掛かる。
「いえいえ、そんな事はしません。むしろ私達は彼らを応援している、いわば貴女と同じ悪い仲間ですよ」
メガーロはそんな順の質問を弾いた。
「順は彼女を……知っているのか?」
須賀谷は、問いかける。
「……昔、な」
すると順はやや不快そうに、頷いた。
「この度は須賀谷君にてこ入れをさせてもらいます」
すると彼女は髪を棚引かせながらも、何かを差し出してきた。
「……これは?」
須賀谷は訝しげに、差し出されたものを見る。猛火の印章のリング。……赤く輝く宝石の付いた、指輪だった。
「グレード2、《紅蓮の指輪》。炎の魔法を即席で使えるよう、携帯する時に用いる指輪になる。相手の行動を高位にメタっていくのは常識でありますからね。少なくともイフットさんは炎においては一流の使い手であり、警戒の必要がある。それに、黒岩田という男についても油断は出来ない」
メガーロはふふっと、言う。
「効果的な使い方として、須賀谷君ならリフレクターみたいに相手の撃ってきた軽い炎の魔法を吸収してそのまま撃ち返す事も出来るであろう」
そして、使い方を教えてくれた。これを自分に、与えてくれるというのか。
「――ありがとう。……だが、本当にいいのか? それともデメリットというものはあるのか?」
こんな便利なアイテムを使わせてくれるなんて、正直嬉しい。しかし、気を使わせていないだろうか。遠慮がちに須賀谷は訊く。
「ブラッドタブレット程の危険さはない。もっとも、今回はあの薬を使ってくれた方が我々としてはデータが取れるので好ましいのだがね」
するとメガーロは笑い、そのままの姿勢で時間だからもう行くと言い、その場からゆっくりと離れていった。
順の方を向く。
「あいつの言っていた事は本当だ。それは私の知識にもある有益なマジックアイテムだ。持っておくといい」
順はそう、肯定をしてくれた。
「……ともあれ、感謝はしなくてはいけないな」
思わぬ人の親切に、自然と心強く思った。――こんな時だからこそ、自分に声を掛けてくれる人間はつくづく嬉しいと感じる。喩えどんな思惑があろうとも、俺を押してくれている。後ろ盾が全く無い事と比較すれば、孤独な戦いをせずに済むだけいい。
ーーもしも、だ。
これで俺が薮崎や順、メガーロと会うこともなく人生を積み重ねてきたのだとしたら、俺自身が単独で黒岩田と決闘なりなんなりで戦い、未熟で装備もないまま散っていただろう。
そして俺は死んだ、という一つの台詞で済まされてしまう。
ーーいや、決闘のチャンスすら掴めたか怪しい。
そう考えると、俺を支えてくれる皆がありがたい。
「――これだけの力があれば……やれる!」
須賀谷は客席に走って行くメガーロの後ろ姿に力強い表情で勝ちを誓うと、今度は後ろを振り返らないようにしてやや離れた位置に居た順へと続いていった。
此処に来るまでの自分は復讐と、そしてイフットに認めて貰う為だけに頑張ってきたつもりであった。だがしかし今では、その思いは変わっていた。
――ニリーツの為にも、アルヴァレッタの為にも、そして順の為にも自分の為にもと大勢の人間の力を載せて勝ちたいと思う気持ちが芽生えたのだ。
個人的には、メガーロや会長自身の思いには賛同は出来かねる。だが、この場で戦うという選択肢があるのなら戦うしかない。
「今の自分は自分一人だけの力じゃ無い……! 負けられるものかよ」
そしてアイツらが組んでいる事の真意を確かめる為にも、未だに納得のいかないままだが黒岩田とイフットを倒す事を決めた。




