特訓二週目
特訓二週目のある日、須賀谷はいつものトレーニングルームで順にこう声を掛けられた。
「ーー須賀谷。試しに右腕をこっちに伸ばしてみろ」
……どういった風の吹き回しなのかは知らない。手相でも見るのか?
「……あぁ、これでいいのか?」
須賀谷は汗を拭き取ると言われるままに右腕を突き出す。
「あぁ。動かすなよ、腕」
順はそう言葉を返すと、自分の腕からデバイスを外し、須賀谷の右腕に取り付けた。
「……これは?」
「一応、物は試しだ。私に万が一の事があった時にこいつが使えると便利だからな」
順は言いながら、デバイスの調整スイッチを押す。
多少の圧迫感と共に、須賀谷の腕にデバイスはフィットした。
「……腕のサイズはオートフィット機能があるから大丈夫だ。右腕に魔力を溜めてみろ。規定以上のパワーがあるならば、デバイスの回路が自動で検知する事で起動が可能だ。その状況でエクステンションと言い腕を振ればアーマーが自動で装着される」
順はそう言い、少し須賀谷から距離をとった。
どうやらアーマーが突然現れる事もあり、危険と判断したようだ。
「……成程。という事は、鎧を維持し続けるには右手に魔力を帯びさせ続けなければならないのか?」
須賀谷はそこで疑問に思い、首を傾げる。
「あぁ。不便だが慣れれば無意識にそれは出来るようになる」
順はこちらに対しそう説明してくれた。
「……理屈は分かった。やってやるさ」
須賀谷は頷き、右手に魔力を込める。
『エクステンション!』
だがーー。
『insufficiency』
突如、デバイスがそう音声を発した。
「……え?」
須賀谷は目を丸くする。
「……あー……。魔力が足りないそうだ。アーマー展開の規定の量を下回っているらしい」
順はそれに対し、ふぅと溜息をついてみせた。
「つまり……修行不足だと?」
「そういう事だな。どうやらまだまだ頑張りが足りないようだ。特訓をさらに積み重ねるとしよう。身体の方も慣れただろうし、これからは今までの1.5倍の量でどうだ?」
順は僅かに笑うと、須賀谷の腕からデバイスを外し、また自身の腕に取り付けたーー。