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順との戦い

「でも、こちらも断られたからとはいえ、ああそうですか、なるほどわかりました、と引込む訳にもいかない」

 それに対し声を強めながらも、須賀谷は返す。

「……それでもそちらは通そうと言うのだろう? ならば主張同士としては、戦うしかあるまいな」

 今度はまた、順が呟いた。

「……そうくるかよ。 それなら、このようにしないか? 折角此処がトレーニング室なんだ、戦闘をするのも悪くはないと思う。無論、断る権利はあるがな」

 ここで須賀谷は駄目押しとばかりに、呼び掛けてみる事にした。

 完全に断られるくらいならば、僅かでも望みが有る方がまだマシだ。幸せは掴み取るものとは偉い人はいうが、見えなければ掴めるものも掴めやしない。調子に乗っていると取られても構わない、俺には為したい事がある。自らを追い込んだものへの復讐。自らが返り咲き、渡辺を叩き落とし、自分の力を見せつけ、イフットを取り戻すという事をするのだ。……その為には努力は惜しむつもりはない。

(――挑発に乗って来い……!)

『手に入りそうで入らない』、と『手に入らない』では心の中で別物なのだ。

 目の前にある光を逃してたまるかよと須賀谷は焦りつつもそう、思った。

 ――そこで言葉を聴いて順の眉が、ぴくっとした。

「成程、一戦様子を見て及第点以上なら私がそちらの要求を飲むとしよう」

 ――よし、かかった。

「……あぁ」

 須賀谷は戦闘と言われ躊躇わずに頷く。勝算は無いに等しいが、果たし合いだろうが大食いだろうがもう目的の為ならば勢いでやるしかない。

「……フン。久しぶりだが……白黒を付ける為なら仕方がない」

 やはり案の定、誘導通りだ。まんまと順はこちらの演技に乗り、真剣勝負をする気になってきたようだった。

「……ルールは?」

「死なないように手加減してやる。それだけだ」

「……言ってくれるな」

 須賀谷は言葉を継ぐと壁に立てかけてあった訓練用のブロンズで出来た頑丈そうな剣を右手に選び汎用盾を左手に装備し、さらに倉庫にあったサイズぴったりのマクシミリアン式甲冑を一式身に纏った。重いが、これくらいは役に立つはずだ。

 ーー念のために、汎用盾の内側にあるハードポイントに『タマチルツルギ』を忍ばせながら。

「マクシミリアン式の鎧か、いい物だな。……だが、心配ならばもっと防具でカチカチに固めても構わんぞ? 下に鎖帷子やプレートを着込んでも構わんしな」

 すると順がこちらを見てニヤニヤとしながら、自身の右腕に自らのバッグから取り出した輝く赤いハンドヘルド式の盾形紋章手甲を装備しつつ話しかけてきた。

「吠え面をかくなよ、……そんだけ着込んだら機動が落ちるだけだ」

 だが須賀谷はそんな言葉などは気にしないとばかりに、真面目な顔で返答をする。

 ――今の自分には何もないが、それでも血潮は魔力に繋がる。両腕両足にゾクゾクと力が湧いてくるのだ、負けてたまるものか。


「ふぅ……ッ!」

 緊張感を高めると共に須賀谷は深呼吸をして雑念を吹き飛ばし、戦いに備えた。


 順の準備は、白い腕の手甲だけらしい。対峙をすると、なんだか姿が物足りなく見える。俺相手に舐めプレイか。

「そんな軽装備な……手甲一つでいいのか?」

 若干無粋だと思ったが、気分を落ち着けつつも不安に感じて顔を顰め、訊ねる。

「……どういう流行遅れの返しを期待しているのかは知らんが、気遣いは不要だ。これが、私の武器であり、鎧だ」

 だが順は、こちらの様子など知った事では無いとばかりに平気な顔でそう返事をしてきた。何を考えているのかが読めない。

「久しぶりの戦いだけあって、楽しめそうだな。……これが私の今使える能力だ。見るがいい。『科学の名の元に全てを叩き潰す。今、私が私たらしめる力を今ここに……! デバイス起動! ヴァニッシュ転送! 四式機構鎧! エクステンション……セミアーマード!』」

 そのまま順は自身の左肩に徐に輝く手甲を当てると、いきなり雄叫びを上げてみせる。

『fill up』

 デバイスが音声を出す。






 ……その刹那、周囲の空間が裂けて発光を始めた。

「――っ!?」

 すると、順の周りの空間から右手を中心に奇怪な鎧が浮き出てきて、さらに瞬時に順の身体の上にへと装着されていくのが見えた。

 ――その一瞬後に、姿が変わる。 先程まで輝く手甲のあった右腕にはトンファーとパイルバンカーが一体化したような装備がされていて、全体的な印象には聖騎士鎧パラディン・アーマーと武者の融合とでも言うのだろうか、やたらとシャープなシルエットの赤い騎士の姿が見えた。あの篝火2号に近い雰囲気さえもを、感じられる。

「何だよ……、そりゃぁ!?」

 あまりのハイテクさに、須賀谷は一歩後ずさりして慄いた。早着替えでは無く、まさしく鎧と言う名の物体を魔法のような物で召喚したのだ。……強いて言うならば、世界観が違う技術のように。

「――この手甲はただの武器ではなく、学校の研究棟で開発されたアーマーの召喚用のデバイスなのだよ。動力は装着者の魔力を使用した、魔法使いが魔法に頼らず行動できるよう考えられたレディメイドではなくオーダーメイドな強化アーマーだ。やる気が堕ちた私を、科学者達がリハビリと言う名の装着実験体としてアルバイトに駆り出し、色々と思考錯誤をして作ったものという事になるな。反動や燃費が最悪な試作型でもあるが」

 驚きを察したのか、順が複雑な声色で言ってくる。

「強化アーマーだとッ……!?」

「通常の鎧や防具とは違うという事だ。魔法関連の対防御機能がある神聖装備やダンジョンの奥底に埋まっている特殊合金のアーティファクト級よりは流石に劣るが、そんな数打ちのマクシミリアンよりは耐火性能も耐衝撃性能も数倍はあるものになる。扱う上で……70キロだったか。やたらに重い上に素早く動くには魔力をドカ食いするのが不便だがな。展開や維持にすら魔力を食うので推奨できたものではない」

「何で……そんなもんを持ってるんだよ!?」

(まさかこのタマチルツルギと……出所は同じなのか!?)

 流石に納得がいかない。なので仰天しつつも顔を引き攣らせたまま抗議をする。気にいらない、気に食わない。信じられるかよ……そんなもんが。

「文句があるのか? しばき倒すぞ? 私とてこんなものの実験体になどなるとは思いもしなかったさ」

 しかし今度は順が、少しだるそうに口を開いてきた。

「……まぁこれでも一応、昔はエース階級だったからな。これは私専用に調整をされているものだ。今はセミアーマードな上にリミッターもかけられているが……手加減をしてやろうか?」

 その辺に立てかけてあったブロンズ製の訓練用の大型剣に手を伸ばして八双の構えを取った順は、殺伐とした闘気を身体から発し始めながらもそう続けてくる。

「……いや、それは無用だ。能力を封印されて勝ったところで後で言い訳をされたら困るからな」

 心のうちではかなり戸惑っていたが、相手の問いにはそう答える。

「へぇ。いつまでその余裕が、通じるのだろうか――?」

 そうしていると不意に順は、苦笑をする。何だかんだでマイナス思考なのは日頃の生活のせいで、好戦的な性格が、どうやら素の状態には近いらしい。

 ――戦闘への流れが出来たようだ。

「……さぁ、お前の実力を見せて貰おうか! 一瞬でその鎧を叩き割ってやる!」

 唐突に順は前置きを言い終えたかと思うと、訓練用の大型剣を左手一つに持ち替えて襲いかかってきた。


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