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プロローグ

 闇、そうとしか表現のできない暗がりを一人の青年が歩いていく。

 青年はフードつきの紺色のローブをまといその手には身長に迫る長さの長大な杖を持っていることから見た人はRPGに出てくる魔導士(マジシャン)を想像するだろう。


 はたしてその想像は間違っていなかった。

 

 青年の目の前に一匹のオオカミが躍り出る。

 一口にオオカミといっても小型犬のような大きさからそれこそ人間大といったような大きさがあるが、青年の目の前に現れたオオカミは全長五メートル以上、青年のゆうに三倍の大きさはある化け物だった。


 グルルル……

 オオカミの低い唸り声が聞こえこちらを威嚇しているのが聞こえる。


 しかし青年は目の前に現れたオオカミを一瞥すると再び歩みを再開する。

 オオカミはそんな青年の反応に一瞬不気味なものを感じるがすぐに彼我の体格差を思い出し青年にたいして 殺気の乗った唸り声をあげる。

 その足は今にでも飛び出せるように限界までたわめられておりその足が解放されたときどれぐらいのスピードが出るのか想像ができなかった。

 

 しかし青年はまるでオオカミの存在に気が付いてないかのように先ほどと同じペースで足を前に運ぶ。

 青年とオオカミの距離が残り五メートルを切る。

 オオカミにとってそれはどんな手練れだったとしても抵抗をさせる前に相手を食いちぎれる距離だ。


 そしてオオカミはそれを実行する。


 限界までたわめられた足が地面にめり込む勢いで解放されオオカミを音速に近い速度で文字通り弾丸のごとく発射する。


 もし近くでこの様子を見ている人がいたらこの後のことをこう予想するだろう、あぁ、あの青年は血まみれになって倒れるのだろうな、と。

 

 その想像は青年が普通の人間だったらそのようになったのだろう。

 しかし青年は普通ではなかった、そもそもこの場所にいる時点で青年は普通の人間ではないのだ。

 青年が今いる場所は死の大地と呼ばれる世界の端にあるとされる秘境だ。

 その場所は大量の瘴気でおおわれており普通の人間が何の対策も立てずに入り込んだら十秒で肺が侵されその後二十秒で体が腐り始める。

対策をするにしても瘴気を払うための魔法も常時展開できるような大量の魔力を持つ人は普通いないだろう。

 さらにその瘴気に感化され通常よりも巨大に、凶暴に進化していった化け物がそこらじゅうを闊歩しており、もし瘴気の問題を解決したとしてもその化け物に襲われるといった問題が出てくるので人が立ち入れない本当の意味での死の大地だった。


 もちろん青年はその問題を解決しているからこの場にいるのだが青年がこの場所に立ち入ってからすでに一時間が経過している、それだけの長時間瘴気を払拭する魔法を展開できている時点で青年の魔力量は常人の到達できる地点をはるかに超えた量を有していることが理解できる。


 さて、そんな青年にこんな疑問を持ったのではないだろうか、そんなにすごい魔術を使っているんだったら青年のキャパは魔法で埋まっていて化け物に襲われたらひとたまりもないんじゃないか?と

 まぁ、予想はしていると思うが青年はそこの問題も解決していた。

 

 オオカミが通常では視認できないスピードで青年の頭に近づいていく。

 以外なことに青年はそんなありえないスピードに反応できていないようでこのままではコンマ数秒後には頭の亡くなった胴体が地面に倒れ伏すことだろう。

 オオカミが青年の数十センチ手前まで迫り避けられる限界のギリギリの距離まで近づく。

 オオカミが口をあんぐりとあけ青年の頭を丸かじりにしようとした瞬間、

 

 シュン


 青年の中指にはめられたリングが明滅し空気が切れるような鋭い音が響き渡る。

 

 ズサァ!

 

 遅れてオオカミの着地する音が響く。


 オオカミの口は閉じられているがその口には青年の頭は咥えられておらずましてや血が滴っているわけでもなかった。

 オオカミのほうも、ん?なんだこれ。といったように首をかしげて青年がいたであろう場所を振り返る。


 青年はそんなオオカミに初めて気が付いたかのように振り返る。

オオカミはそんな青年に再び突撃する。

青年に再び死の危険が降り注ぐがやはりそれは直前に青年の中指が光ることによって回避される。

しかし今度の回避は完全ではなかったらしくローブの端に爪が引っかかり裂けてしまう。


それに対して青年は初めて感情らしい感情を露わにする。


青年はオオカミを睨みつけ舌打ちを打つ。

たったそれだけの行動なのに青年から小さな虫なら殺せそうなほどの殺気がはなたれ目の前をにいるオオカミを威圧する。

オオカミがあまりの圧に数歩後ろへ下がるがすぐに自分を奮い立たせて迎え撃つ体制をとるがやはり青年の殺気に怖気づき先ほどのようにすぐには飛び出せない。

青年はそんなオオカミを憐れむような表情で見たとフードから見えている口から呪文を紡ぎだす。


 「凍てつきし水の力よ……」


 青年の口から紡ぎだされるのはかつて一国の宮廷魔道士が編み出したとされる戦略級魔術の一節、しかしよく聞いてみるとところどころにアレンジが加えられており魔力循環効率、消費効率ともに高い水準で構成が変えられているがわかる。

 しかし、大魔法の性とでもいうべきかこの魔法もご多聞にもれず発動までの時間が長かった、もちろんオオカミのほうもその隙を逃すわけがなく再び足をたわめ青年への攻撃の準備を始める。

 

 魔導士がなぜ選ばれた人間にしかなれないのかの一つに集中力というのがあげられる。

 なぜなら魔導士は敵が目の前にいうような状態で一言一句間違うことなく呪文を詠唱しさらに適切なタイミングで魔力を放出、操作しなければならないからだ。

 もちろん、魔力の放出、操作を補助する導具と呼ばれるものは作られているが、ただでさえ作成に大量の魔力が必要だったり高練度の魔道士が必要なのに、出来上がったものは大した補助能力のないものだったりする。

 なので本当の意味で導具として価値があるのは生きているうちに何本か見られるぐらいだといわれている。

 

話がそれたが以上の理由によって魔道士は魔法を行使している間は魔術に集中するので回避、ましてはゲームのような魔導剣士のような詠唱を行いながら立ち回れるものは存在しなかった。

 それはもちろんこの場にいる青年も同じことで青年の持っている杖に刻まれた刻印からその杖が導具であることは理解できるがそれでも詠唱を行いながらの回避は難しいだろう。


 オオカミが再び青年に向かって走り出す。

 詠唱はまだ終わる気配がなくこのまま詠唱を続ければ青年の命は儚く散るのは明白だ。

 

 オオカミが飛ぶ、そしてその先にはいまだに詠唱を続ける青年。

 オオカミの口が開かれ今まで何人もの人を殺めてきたであろう凶悪な牙がその姿を現す。

 

 一瞬の交錯。

 それはまさに瞬きの間に起った。


 オオカミは口を青年の頭部に持っていき閉じようとする、すると再び青年のリングが煌めき詠唱中の青年の体が避けるように動く。

 しかし今度はオオカミのほうもそれに反応し鋼鉄を切り裂くほどの爪を青年に向かって振り下ろす。

 オオカミにとってそれは今度こそ本気の一撃だった。

 もともとこのような場所に来る人間はほぼ皆無なのだ、たまに現れる人間も瘴気によって強化された魔物の前には無力も同然でこのオオカミも最初はまたか弱い人間が来たと侮り直線的で単調な攻撃をしたのだ。

 しかし目の前にいる青年にはそれを回避するだけの技量がありオオカミは今度こそしとめようと本気を出したのだ。

 よってオオカミのこの攻撃は本気の一撃のはずだったがそれすらもこの青年は風に乗るように回避する。

 

 時間にしてコンマ一秒の時間で高度な攻防が両者の間で交わされる。

 

 ズサァ!

 

 オオカミが着地する。

 

 攻撃は当たらなかった、しかしオオカミは満足していた。

 オオカミはもちろん命を刈り取るつもりで攻撃を加えに行ったがもしそれが当たらなくても青年の詠唱を邪魔することはできたのだ。

 何度もやっていればそのうちこちらの攻撃も当たるだろう、あたりさえすれば向こうは紙切れ同然に引き裂かれるのだからこちらの勝利は動かない。

 そう思い今度こそ青年の命を奪おうと後ろを振り返ると


 「……顕現せよ氷の槍(ジエロランス)

 

青年の詠唱が終わり完成した呪文から魔術が構成され暗闇に全長が三メートルにも及ぶ氷の槍が顕現する。


オオカミの顔が驚愕の二文字でゆがむ。

 今の心境を言葉にするならなぜ?というのが一番だろうか。

今オオカミは攻撃をして青年は回避した、ならばなぜ魔術は完成しているのか?

しかしオオカミに答えを知るすべはなかった、なぜならば次の瞬間には空中に出現した氷の槍に体を貫かれ内側から凍らされたからだ。


オオカミは内側から凍てついていき最後には氷の彫像と化してその場に倒れた。


 青年がため息をつきローブの裾、オオカミに切られた部分を見る。


 「……はぁ……ステータスカードオープン」


 青年は再びため息をつきそうつぶやく。

 すると青年のつぶやきに反応して空中に半透明のディスプレイのようなものが浮かび上がる。

 そこには青年の名前が表示がされておりそれがこの世界でステータスカードと呼ばれる個人の能力を可視化してみることのできる機能だとわかる。


 名前:ガイ ヨコタ

 ステータス:別枠参照

 状態:絶対回避(常時)


 青年、ガイの前に現れたディスプレイには上記のような内容が記載されており上にはタブのように1、2、3……と書かれた部分がある。

 ガイはその数字のうち3を押しアイテム枠と書かれたページを呼び出す。

 大量に文字の並ぶそのページを一番下までスクロールし横にnewと書かれたアイテムを見る。

 

 new!漆黒の爪:本来その存在すら疑われているフェンリルの持つ爪、素材としては超一流だがはたしてこれを加工できるものは存在するのか……

 

 どうやらガイは先ほどの戦闘でドロップしたアイテムの確認をしているようだ、しかし普段なら手に入らないような素材が手に入ってもガイの顔に笑みが浮かぶことはなく無表情だ。


 そのまま2と降られたページを開くとそこはステータス画面でガイの現在のレベル、体力や魔力量などが表示されたいた。

表示内容は以下の通りだ。


レベル:313

体力:27/30

魔力量:1646/1820

瞬発力:989(最大)

装備:回避の指輪・構築の杖・導士のローブ・夢幻のポーチ

スキル:絶対回避(常時)・詠唱継続(任意)

 

 それぞれの説明をするとレベルは持ち主の練度を現しておりこれが高ければ高いほど練度、つまり経験が多くなる。

 体力は筋力や現在の生命力などを現しておりこれが0になるとその人は死に至る。

 次に魔力量、これは魔術に精通するかという値でこれが高ければ高いほど魔力量は増え魔術構築が楽になる。

 瞬発力についてだがこれは文字通り持ち主の瞬発力でありこれが高ければ高いほど素早く動けるのだ。

 

 これらは機能の使用者によって見え方が変わるらしくこの世界の人間にステータスカードのことを聞くとまた違った答えが返ってくるらしい、この見え方は地球出身のガイならではの表示といったところだろう。

 

 しかし一般にもレベルや体力、魔力量といった概念はあるらしく一般的な成人男性のレベルは20前後、体力は15前後でこれに関しては大体マラソン一時間につき1消費といったところのようだ。

 次に魔力量だがこちらは大体7前後、基本の着火魔術で1消費といったところ瞬発力に関してはそもそも他人には表示されないようだ。

 

 このような場所に一人で来れる時点で化け物確定だったのだが改めてみるそのステータスは化け物以上のものを感じる。


 「進むか……」

 

 ガイはそう呟き足を動かし始める。

 

 が、すぐに前方に不思議な気配を感じ足を止める。

 (……なんだ?)

 その気配はここに住む魔物にしては小さく、しかし明らかに人の発する気配ではなかった。

 しかし今まで通ってきた道には分かれ道などなかったのでここを進むしかないと判断したのだろう、ガイは前に進む。


 少し進むと道が開けた場所に入りどこからか入り込んだ太陽の光がその場を照らしていた。

 ガイは足を止める。

 なぜなら、そこにいたからだ。

 

 気配の根源、すやすやと眠る少女が……。

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