テルガ(2)
世界についての説明します
テルガさんは、私の顔を見たまま固まっている。
流石に居心地が悪くなり、声をかけた。
「・・・・あの、テルガさん?私の顔に、なにか付いていますか?」
そこでようやく、自分のしていたことに気が付いたようで、テルガさんは慌てて頭を下げる。
「ああ、・・・いや、すまない。その、あまりにも綺麗な顔をしているものだからつい。・・・ルカも綺麗な顔をしているし、リュリアちゃんたちの親は、一体どんな顔をした人たちなんだ?」
(きた。)
早速、身の上話を聞かれた。私は、打ち合わせ通りに答える。
不安そうな、混乱しているような表情を作るのも忘れない。
「・・・親、ですか。・・・・・・・実は私たち、自分の親のことを覚えていないんです。」
「・・すまない。もうなくなっていたか。」
どうやら、私たちが幼い頃に両親が他界したため、覚えていないと勘違いをしたらしい。
「あ、いえ、そうではないです。親のことだけではありません。私たちは今まで、どこでどのようにして育ったのか、家はどこなのか、ここはどこなのか、私たちはなんなのか、その全てを、覚えていません。
わかるのは、私たちが兄弟であることと、名前と年齢。その他、断片的な記憶のみです。」
「っ!それは、記憶喪失、ということか?」
「はい。」
テルガさんは険しい顔をして、何やら考え込む。
「?・・どうしたんですか?」
「・・・・その、言いにくいんだが、君たちは、意識的に何者かに記憶を消された可能性がある。二人とも同じ時期に、同じ部分の記憶が消えている。そして、二人は同じ場所に倒れていた。いや、置き去りにされていた。そう考えると、な。・・それにしてもひどいな。病気を持った子供とそれより年下の子供を森に放置するなんて。今回は運が良かったからいいが、普通は死んでる。魔物に襲われて。」
どうやら、勘違いをしてくれたらしい。
テルガさんは、まるで自分のことのように怒りで顔を歪ませていた。本当に良い人なのだろう。だが、警戒をとくにはまだ早い。
「記憶を意図的に、狙った部分を消す、なんて、可能なんですか?」
私が疑問に思ったことを言うと、テルガさんはほうけた顔をした。
「出来るに決まっているだろう。傀儡魔法をある程度使えれば、可能だ。傀儡魔法で記憶を操るんだよ。人の記憶を、その人の許可無くいじるのは、禁忌なんだがな。出来ないこともない。まあそもそも、傀儡魔法が使える人間など、ほんのひとにぎりだが。傀儡魔法を完璧に使いこなす人間など、皆無に等しいだろうな。・・・・って、そんなことも記憶から消えているのか!?」
テルガさんは、質問に丁寧に答えたあとに、驚きの声をあげる。どうやら少々抜けているところもあるようだ。
私とルカが、テルガさんのがの質問に頷くと、不愉快そうな顔をした。
「お前たちの記憶を消した術師は、本当にタチが悪いな。」
「え、と。その、傀儡魔法?云々の事以前に、まず魔法、というものを知らないです。ついでに言うと、この世界のことについて、何も分かりません。」
今度こそ、本当に驚いた顔をした彼は、再び沈黙した。
「・ ・ ・はあ。どんなやつかわからない人間に、どれだけ怒りを募らせてもいみないもんなぁ。今はお前らにいろいろ教えることに尽力するとしよう。・・・そうだな、朝飯で食いながら話そう。準備をするから、リビングのテーブルに座っていてくれ。あ、そういえばリュリアちゃん、発作はもう平気なのか?昨日よりはだいぶ顔色もいいが、まだ万全じゃないだろう。食えるか?」
心配そうな顔をして、顔を覗き込んでくる。
「大丈夫です。むしろ、お腹がすきました。」
そういうと、安心したようで、顔が離れていく。本当に人がいい。・・実のところを言うと、薬では熱も下げきれてなかったし、頭も痛むが、これ以上迷惑をかけないために隠す。
私は、リビングに移動するためにルカに声をかける。
「ルカ、肩貸してー。」
ルカが頷く前に反応したのは、テルガさんだった。
「はぁ!?一人で立てないほど弱っているんなら、無理するなよ!!寝てろ!」
スゴイ剣幕で怒られた。
「ああ、違うんです。発作とは関係ないんです。私、左手と右足が動かないんですよ。」
「姉さん、立つよ。」
ルカの肩に腕を回して、立ち上がりながら答える。
「でも、どうやら結構前からなようでして。ある程度なら動けますよ。」
「そう、なのか?しかし、松葉杖とか、なくていいのか?よければ用意するが。」
その言葉に思わず私はテルガさんに飛びついた。私よりも大きな、しっかりした体なので、びくともしない。
「ちょっ、姉さん!危ないでしょう!!!」
「え、ああ、ごめん、ルカ。嬉しくて、つい。テルガさん、お願いしていいですか?っていうか、お願いします!」
杖があれば、一人で出歩くことができる。いちいち、ルカに迷惑をかけなくて済むし。
「ああ。もちろんだ。そんなに喜んでもらえるとは、思ってなかったよ。よし、じゃあ、リュリアちゃんの体に合わせた、リュリアちゃん用の杖を作るか。」
「え、いいですよ、そんなの。これ以上迷惑かけられません。」
「なに、きにしなくていい。これでも貴族の端くれだからな。今日中には届けさせる。」
私はその言葉に舞い上がり、再び飛びついて、ルカに叱られた。
しばらくしてから、食事の用意ができた。
パンにスープという、ごく普通と思われる食事だったが、とても美味しくいただけた。貴族だというのに、庶民的な暮らしをするテルガさんは、本当に変わっているのだろう。
テルガさんには、丸一日かけて、たくさんの話を聞いた。余りにもたくさんのことだったので、大まかにまとめるとこんな感じだ。
<世界について>
名前 イデール
この世界には2つの大陸がある。1つは、我々人間が住んでいる大陸、「陽大陸」ここには、魔獣も住んでいる。1つは、魔族が住んでいる、「陰大陸」。
この2つの大陸を行き来することはないそうだ。陰大陸へ行ったものは、帰ってこなかったそうで。それ以降、行こうとするものはいないらしい。
<陽大陸について>
陽大陸は、主に人が住む大陸だ。多くの国が存在し、国は王が収めている。
ちなみに、今私がいるのはエルフェキアという国で、そこまで大きくもないが、とても栄えている国だそうだ。周りの国への発言力も高い。
その理由が、国を収めている人たちの優秀さだそうだ。王を筆頭とし、宰相や騎士たちも優秀らしい。行いの悪いものには、たとえ貴族であろうがそれ相応のバツを与え、実力のあものには、褒美を与える。そこに身分は関係ない。
そのため、一部の貴族(貴族は何をしてもゆるされるのよ?だって、貴族だから♡な人たち)からは恨みを買っているが、国民からの支持はめちゃくちゃ高いのだとか。
<陰大陸について>
ここには、魔族が住んでいる。ほとんどが森に覆われているが、中心に一つ、大きな城が建っている。そこには、魔族を統べる者、魔王が住んでいるらしい。その城を中心に、地位が高いものがより中心に近いところへ、地位が低いものは外側に、というように住んでいるんだとか。
<魔獣と魔物について>
魔獣
魔力を持つ獣。普通の動物が魔力を持つ場合もあれば、最初から魔力を持って生まれる場合もある。前者の場合が多いが、後者のほうが力は強い。後者は、「先祖返り」と呼ばれている。
陰大陸にも、陽大陸にも住んでいる。
魔獣には、「人間を殺す」という本能があるらしく、人を見つけると襲って来る。魔獣が増えすぎると困るので、それを程よく討伐するのが騎士の役目のひとつだったりする。
魔獣は比較的どこにでもいるので、一般庶民でも、弱い魔獣なら、倒すすべを持っている。強くてどうしようもなければ、騎士の出番だ。
魔族
人の形をした、膨大な魔力を待った種族。
言語も持っている。対話も可能だが、なにせ力が違いすぎる。中には遊び半分に人ほ殺戮するものもいるため、恐れられている。人は魔獣を殺し、食しているが、魔族にとって人間は、人間にとっての魔獣のようなものだ。
人は、魔獣を食べなければ生きていけない。そのため、見境なく殺したりはしない。せいぜい、襲ってきたら倒す、程度のものだ。
しかし魔族は本来、食事を必要としない。魔力を早く回復する必要があるときには、食べることがあるようだが、ほうっておけば回復するし、よほどのことがない限り、食事をする必要はないのだ。それでも人を食らう魔族は、それを趣味や、おやつのような感覚で行っている。だから、遠慮がない。過去に、魔族の食事によって、街が一つ、壊滅したこともあったのたという。
ただし、これはごく僅かな魔族の話で、温厚な魔族がほとんど。
<魔法について>
魔法には、大きく分けて3つある。1つは、相手を攻撃するのを目的とする、黒魔法。一つは、治癒や防御など、サポートを目的とする、白魔法。そして、そのどちらにも分類されない魔法だ。傀儡魔法や空間魔法などがある。
魔法は、使い手の魔力の量と性質、才能、によって、威力や、使える魔法の種類、レベルが変わってくる。
何かしらの魔法が使えるものは魔術師と呼ばれるが、あまり多くはない。
<精霊について>
精霊はこの国で、神の使いと呼ばれており、見える人と見えない人がいる。基本的には人の形をしており、協会の近くや神域と呼ばれる場所にいるらしい。
精霊は希に、気に入った人間と契約を結ぶことがあるらしい。そうすると、契約者は精霊魔法を使えるようになるのだとか。
使える精霊魔法は、契約した精霊の種族によって異なる。
精霊の種族は火・水・風・大地・雷・光・闇がある。
精霊使いは希少なため、見つけ次第、国で手厚く保護されるらしい。
・・・・と、こんなところだ。あとのことは、おいおい話していこうと思う。