王都へ(7)
少し遅れて、ルカたちも駆けつけてきた。
二人共、心配半分、呆れ半分な顔をしている。
「リュリア、ほんとにお前は・・・。にしてもリュリア、この魔獣たち、どうすっかなあ。このままだと瘴気を出し始めるぞ。」
「そうですね。早く処理しないと。」
テルガとバルジス様が、神妙なかおをしている。
「瘴気って?」
「リュリアは知らないか。瘴気ってのは、魔獣の死体をほうっておくとにじみ出てくる、魔獣が持っている魔力のことだ。多くからだに取り込めば、体に悪影響が出る。」
「じゃあ、処理って言うのは?」
「瘴気を消滅させるにはには、浄化が必要なんだが、浄化ができるのは協会のお偉いさんと、特別な訓練を受けたごくわずかな人だけだ。あとは光の精霊だな。まあ、瘴気を消滅させるのは大変だから、大抵、燃やすか、埋めるか、食うかするけどな。さすがにこの数だと食えないし、埋めるのも燃やすのも大変だ。どうするかなぁ。」
「なんだ。だったら、精霊たちに頼めば問題ないじゃん。」
「・・・・そうですね。」
「・・・・そうだな。」
私は、火の精霊と大地の精霊に、魔獣の死体の処理を、光の精霊に、発生した瘴気の浄化を、水の精霊に、そこらじゅうに飛び散っている血の洗い流しを、後の精霊には、会場の片付けをお願いした。
すると、会場はあっという間に綺麗になった。壊れたものなんかも、大地の精霊に埋めてもらった。
「おま、精霊をこき使うなよ。」
「ん、まあいいじゃない。ありがとうみんな。助かったわ。」
精霊たちは、主に褒められて嬉しがっている。すっかり懐柔されていた。
「さて。今眠っている皆様に、なんと説明しましょうか。」
私たちは、どういった嘘をつくか話し合う。
あらかた決まった頃に、貴族たちが目を覚まし始めた。
「・・・・・・・あれ?」
「俺、なんで寝ているんだ?」
「魔獣は!?魔獣はどうなったの!?」
「皆さん!!!落ち着いてください。魔獣は、このリュリア様が群れの頭を倒したことにより、逃げ出しました。もう魔獣はいません。ご安心ください。しかし、お疲れの方もいるでしょう。今宵のパーティーは、お開きにしたいと思います。」
バルジス様がそう告げる。
「リュリア様なんて人、いたか?」
「どうやら、テルガ様の親戚らしいが。」
「リュリア様、お救いいただきありがとうございます!」
「群れのかしらって、相当強いんじゃないか?それを一人で倒すとは・・」
「きっと魔法を使って倒したのでしょうな。優秀な魔術師と見える。」
「勇敢な方だ。」
「女性で、あれだけ細い体だというのに・・・」
あちこちで色々な声が上がる。そのほとんどは私に向けられた賞賛の声だったが、記憶をなくす前のものとは比べ物にならないくらい穏やかなものだ。
このまま座っていても怪しいだろうと、私は風の精霊の力に支えられた状態で立ち上がった。
「皆さん。わたくし、魔術師のリュリアと申します。どうぞ、お見知りおきを。」
私たちがわざわざ、私は魔術師で、魔獣を追っ払ったのは私だと、貴族たちにアピールしたのには理由がる。
私はこれから、王家の人間に、城に招かれる。
その理由を、今回の件で魔術の腕を見込まれたからだ、と誤解させるためだ。
そうでもしないと、なぜ私のような小娘が城に呼ばれるのか、と、探る人たちが出てくるかも知れない。
私は隠していることが多いから、それは困る。
しかし、間違った理由を、本当の理由だと思い込ませておけば、探られる心配はない。というわけだ。
貴族たちは、会場から続々と去っていく。
流石に立っているのがきつくなった私は、ルカとテルガとともに休憩室へ向かった。
バルジス様は、王へ報告をしてくる、と言って、上の階へあがっていった。
「リュリアお姉さん!」
部屋に入ると、シャルノ様がとびついてくる。
私はバランスを崩し、ルカに支えられた。
私を支えるルカのては、魔獣に傷つけられた、私の脇腹の傷に触れている。
「姉さん!怪我してるじゃん!なんでもっと早く言わないの!?そこに寝て!」
ルカは強引に私をソファーに寝かせる。