王都へ(5)
ホールには、軽く50は超える数の狼の魔獣がいた。
貴族たちは、剣が扱えるものは剣で、魔法が使えるものは魔法で、非戦闘員を囲み、魔獣から守っている。その中にはテルガとルカもいる。テルガは剣で応戦し、ルカは結界を張っている。そのおかげで、まだ負傷者はいないようだ。
しかしこれも、時間の問題だろう。こちらが不利であることは一目瞭然である。
バルジス様は応援に向かった。
(どうしよう。このままじゃ二人が・・。魔法は、今の状態じゃとても使えない。剣で応戦は出来るけど、それじゃあこの状況を変えることはできない。)
あれこれ考えていると、不意にリーレンが現れた。
「!リーレン!ねえ、今、回復魔法をかけてくれない?そうすれば・・・」
「それは無理だよ。回復しても、僕の力がリュリアの体に馴染むのに時間がかかる。すぐには魔法は使えない。」
「じゃあ、リーレンが魔獣を倒すのは?」
「それも無理だよ。それじゃあ、世界に干渉しすぎる。」
「・・・・」
やはり、剣で応戦するしかないと思い、踵を返すと、リーレンに止められた。
「まって!手がないわけじゃない!精霊の力を借りるんだ。」
「精霊?」
「リュリアが仲良くしていた精霊たちがいるだろう?その精霊たちをここに呼び出して、契約するんだ。そうすれば、君の言うとおりに彼らは動くよ。」
精霊と契約を結ぶ・・・。つまり、精霊使いになり、契約精霊のチカラで魔獣を倒す、ということだ。この大勢の人の前でそんなことをすれば、私はもう、ヴァロでの静かな生活には戻れないだろう。
城へ呼ばれ、例のテストを受けることにもなるだろう。
しかし、それで私の大切な人たちの命が救われるなら、それも悪くない。待っているのが、悪い運命とは限らないのだから。
場合によっては、王都に住むのもいいかも知れない。
失敗するかもしれないが、やってみる価値はあるだろう。
そこまで考えてふと、テルガがもう、私の大切な、守るべき人になっていることに気づいた。
私は壇上に上がり、精霊たちに呼びかける
「我と親しき精霊たちよ。我が元へ来たれ。」
すると、もう顔なじみとなった7種族の精霊たちが目の前に現れる。
「今ここに、我と契約を結ぶことを受け入れたまえ。我が命に従いて、その名のもとに力を示せ。」
7色の精霊たちが、いっせいにこうべを垂れる。
「「「「「「「ご命令を、我が主。」」」」」」」
私は、7人の精霊の精霊使いとなった。
精霊たちは、契約精霊となったため、実体化する。
「「「「「「「御意」」」」」」」
精霊たちは、モノノの数秒で魔獣を殲滅した。
恐るべき力である。
後から聞いた話だが、契約精霊たちは、精霊使いの霊力を糧に力を発揮するらしい。
霊格の高い私は、霊力も多いので、強力な力が出せるのだとか。
7人もの精霊と契約できたのも、それが理由らしい。
普通は2人くらいが限界なのだとか。
魔獣が片付いたあと、しばらくホールは静まり返っていた。
あまりの急展開に、皆頭がついていかなかったのだろう。
しばらくしてから、ホールは熱気に包まれた。
「う、うおぉォォォォォーーーーーーー!!!!!」
「せ、精霊使いだ!精霊使い様だ!」
「なんとお美しいお方でしょう!あの方はきっと、神が私たちにくださった奇跡だわ!神子様よ!!!」
「神子様ーーーー!」
(あ、なんかやばい。これは、本気でやばい。このままだと、協会で神子として祭り上げられる。それはまずい。)
私は渾身の力を使って、このホールにいるルカ、テルガ、バルジスを除いた全員の記憶を消した。
精霊云々についてだけ、だが。
私が魔法をかけた人たちは、次々と倒れていく。
目が覚めた時には、魔獣が襲ってきたことは覚えていても、なぜ、自分たちは倒れているのか、なぜ、
魔獣が全滅しているのかは覚えていないだろう。
いやあ、人間、やろうとすればできるもんだね。魔法、使えたよ。おかげで私は、疲れすぎてもうひとりじゃ立てないけど。
その場に私がヘタリ込むと、記憶の残っている三人が駆けよてくる。
最初にたどり着いたのは、一番近くにいたバルジス様だ。
「リュリアさん、大丈夫ですか!?・・・君は一体何ものです?強力な魔法を使い、超人的な運動神経を持っている。その上7体の精霊と契約を結ぶなど。本来ありえないことです。」
険しい顔の彼に、私は笑って答える。
「別に、ただの小娘ですよ。」




