王都へ(4)
「シャルノ、こんなところにいたのか。ん?君は、見ない顔ですね。ああ、もしかして、ジェインの親戚の子ですか?」
頷く。テルがの親戚としてここに来ているのだから、テルガの父であるジェイン様ともまた、親戚ということになる。
「そうですか。息子が世話になったようですみませんでした。それにしても、ジェインの親戚にこんなに綺麗なお嬢さんがいるとは驚きですね。」
今日で何十回と聞いたセリフだが、嫌な感じはしなかった。
きっと、普通にほめてくれているんだろう。
「お褒めに預かり光栄です。あの、それより、挨拶に戻られなくて良いのですか?」
「ああ、いいんですよ。大体もう、終わりましたから。」
「そうですか。申し訳ありません、バルジス様。挨拶に上がらず・・・」
私は、挨拶をせずなここに来た事を謝る。
するとバルジス様は、優しげな笑みを浮かべた。
「いいんですよ。それより、君は大丈夫なのですか?顔色が良くない。ジェインからは、君は体が弱いと聞いていますが・・」
「大丈夫です。少し休んだら、良くなりましたから。」
「そうですか。」
私とルミーダ一家は、休憩を兼ねて少し話をした。
パリィイーーーン!!!!!!
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!」
いきなり過ぎることだっだ。
突然、壁ごと窓を突き破り、狼の魔獣が部屋に入ってきたのだ。
大きさは、森で倒したものの比ではない。
エルーゼ様が悲鳴を上げる。
これは、音に驚いたからでも、魔獣を恐れたからでもない。
今まさに、魔獣の一番近くにいたシャルノ様が、魔獣に飛びつかれそうになっているからだ。
バルジス様は、ガラスの破片からエルーゼ様をかばっていたため後ろが見えず、反応が遅れる。
私は魔獣に黒魔法を発動しようとしたが、魔力が安定せず、発動が遅れる。
(っ!間に合わない!)
私はとっさに、シャルノ様に突っ込むようにして飛びつき、魔獣の攻撃を避けようとした。が、魔獣の爪が少しだけ私の脇腹をかする。
痛みはするが、気にしてはいられない。
素早く立ち上がり魔獣を見据え、やっと準備が整った黒魔法を発動する。
「貫け」
私は氷の矢を、狼に放つ。見事に命中したそれは、狼に刺さったまま、狼とともに倒れた。
ふうっと息を吐く。今更ながらに傷が痛む。
青いドレスが一部、黒く染まっている。
私が普段かけている魔法は、その対象がきっちりと決まってる。
私は、体に麻痺魔法を普段からかけているが、それは発作の苦痛が対象となっているため、それ以外のことには効かない。さっき、魔法を重ねがけして熱を下げたのはそのためだ。
つまり何が言いたいのかと言うと、
(くそいてぇ)
である。おっと、口が悪くなってしまった。失礼。
麻痺させようと思ったのだが、どうにも魔力が安定しないので諦めた。
今は時間がない。
「シャルノ様、おけがはありませんか?」
「ぼくはない。けど、お姉さんが・・・」
「ならよかった。」
私はシャルの様の言葉を遮る。それどころではないからだ。
「君は、一体何ものなんですか?あんなに短い詠唱で、ここまでの魔法を使うとは・・・」
(だから、それどころじゃないっての!)
「バルジス様、それどころではありません。ホールの方からも悲鳴がします。恐らく向こうにも魔獣が出たのでしょう。私は応援に行きます。バルジス様はここにいてください。」
「いや、そういうわけにはいきません。このパーティーの主催者は私なのですから。エルーゼ、お前はここにいなさい。シャルノをたのんだよ。」
エルーゼ様は不安げに、だがしっかりと頷く。
心配そうな顔のシャルノ様に私は一言、「大丈夫ですから。」とだけ言って、バルジス様とホールに駆け出す。
ホールには、想像以上の数の魔獣が入り込んでいた。