初めての魔法(3)
怪我がいきなり治ることへの疑問。そんなの、ありすぎるくらいある。
怪我だけではない。病気だって。
いきなり治るなんてことはありえない。なぜそう思うのかというと、そんなことはありえないと、知識として知っているからだ。
私は子供の頃、医者を目指していた。度々あいつに傷つけられる家族の怪我を、自分が治すためだ。日々、あいつからの扱いで疲弊していく家族の心の病を、治すためだ。本当は、傷つけられる前に守ってあげられたらよかった。しかし遅くに生まれてきた私は、いつも守られる側だったのだ。
小さく軽い私の体は、大切なものをかばいきれない。
大切な人に庇われれば、その腕の中から抜け出せず、家族が傷ついていくのを見ているしかなかった。
ならば。ならばせめて、私のせいで傷ついた彼らを、今度は私が癒そう。そう思った。
私は一刻も早く、少しでも多くの知識を身に着けようと、医療の知識を貪った。
まあ結果的に、私の治したい傷を持つ人はいなくなってしまったわけだが。
光太が傷を負う前にあいつが死んだのは幸いだったが。
そんなこんなで、私が学んだことを活かす機会は訪れなかった。
しかし、私が身につけた知識は余りにも膨大だ。
世界に存在するすべての怪我や病気の名前、その原因と治療法、治るまでの体の動き。
あいとあらゆる薬の名前、その効果や成分、それを体に取り込むと体に何が起こるか。
人の体のつくり、どのような流れで怪我や病気が治るか、治すためには何がどのくらい必要でどのくらいの時間を要するか。
それこそ、元いた世界でわかっている、全ての医療知識を持っていたと言っても過言ではない。
このような知識を持っていて、なぜいきなり怪我が治ると言われて、「はい、そうですか。」と言えるだろう?
長いあいだ頭に詰め込んできた膨大な知識が邪魔をして、リュリアは治癒魔法が使えないのだ。
(まさか、知識を持っていることにこんな欠点が有るなんて・・・)
「・・・その様子だと、なんか理由がありそうだな。まあ、使えないもんは仕方ねえ。次行くか。」
「っ!待って!使えないと困る!」
自分でもびっくりするような、悲痛な声が出る。
おじさんは、私の数倍はびっくりしただろう
「訳あり、みたいだな。よければ話してくれ。物によっちゃあ、力になれる。」
隠す理由もないので、病気のことを話した。
「・・・という訳で、病気をどうにかしないと私、一ヶ月持たずに死にます。」
事実だ。薬は、後二週間分しかない。発作を起こした状態で何日もつかどうか。
「おいおいおいおい、チョーおおごとじゃねえか。随分さらっと言うなぁ!?」
「いえいえ、それほどでも。」
「褒めてねえよ!!!!でも、それなら自分で治癒しなくても、誰かにやってもらえばいいじゃねえか。何がそんなに問題なんだ?」
「いえ、それが。私の病気って特殊でして。自分でしか直せないらしんですよ。」
これもまた事実だ。以前、リーレンから聞いた。
私の病気の原因は、魂の傷。その傷をなくすことはできないが、凹んだ部分に魔力を送り込み、本来の形に戻すことはできる。根本的な解決にはなっていないが、そうすることで、症状を抑えることはできるらしい。
だがそれには条件があって、それが、自分の魔力で傷を埋めること。そうでないと、拒否反応を起こし、死んでしまうそうだ。
リーレンと私は、魔力を共有しているのだから、リーレンを通して私の魔力を魂にし込めばいいと思ったのだが、そうすると、リーレンの魔力が少なからず私の魔力に混ざってしまうので、無理らしい。
このような理由から、自分でやるしかなかったのだが、私にはできないことが今わかった。絶望的である。
「なんだ、それ。しかし、それが本当ならきつい状況だな。お前の病気って、どんなのだ?」
私は、発作の症状を詳しく教える。
「頭痛、吐き気、高熱、呼吸困難、心臓麻痺、体に力が入らない、ってとこですかね。」
「おいおいおいおい、お前、そんなんでよく生きてこれたな。」
「私もそう思います。」
「はぁ~~~~~。まあいい。そうだなあ。ほかの魔法でどうにかするぞ。頭痛や吐き気なんかの苦痛は、自分の体に麻痺をかけて、感じなくさせる。呼吸困難、心臓麻痺、体に力が入らないことに関しては、傀儡で体を操り、通常運転させる。熱は、冷却魔法で体内から冷やす。これをすべてやれば、外から見れば普通の人間の出来上がりだ。」
「おお!!それなら出来そう!」
私がそう言うと、おじさんは呆れた顔をした。
「できそうって、お前なあ。本来なら、有り得ねぇことのんだぞ。こんなに魔法を重ねがけしたら、魔力枯渇で死ぬっつうの。つうか、ここまで重ねる前に枯渇するわ!」
「でも、私の魔力の量が規格外だから、できるかもしれないんでしょ?」
「ああ。かも、な。でも、失敗したら死ぬぞ。」
「いいよ。それならそれで。どうせできなければ死ぬし。」
「ダメだよ、姉さん。死ぬなんて許さない。それに、死ぬ気、無いでしょう?」
これまで黙って話を聞いていたルカが、いきなり口を挟む。
「当たり前♫こんなんで死ねるかって言うの!」
「お前らなあ。ついでに言うと、これを実行するには、傀儡魔法、麻痺魔法、冷却魔法が使えて、重ねがけ出来るだけの才能が必要なわけだが?リュリアはまず、この条件を満たすところからだ。言っておくが、そんなことできるやつ、歴史上にも存在しな」
「それならもう出来てると思うけど?」
「・・・・・はっ??????」
私は今、松葉杖を置き、自力で立っている。手も、両方きちんと動く。動かない手足を傀儡で操っているのだ。そして、それと同時におじさんの体の痛覚を麻痺させ、空気を一部冷却し、氷を作っている。ついでに、その氷も、傀儡魔法で浮かせている。
「・・・・・・・・・・・・・・・・はああああああああああああああ?!おまっ、ほんとに人間か!?」
「失礼な。人間でしょ。どこからどうみでも。」
文句を言うついでに、氷をおじさんにぶつける。勿論、傀儡魔法で操って、だ。
「いっ・・たくない。お前、俺に麻痺までかけてんのか!?っていうか、いつ発動した!?詠唱、いつの間にしたんだ!?」
「してない。なんか、しないでもできた。」
事実をありのまま口にする。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。もう突っ込まないことにする。お前は、人間じゃねえ。こんな人間、ありえない。」
「でもまあ、かなり魔力減ったね。八割くらいは使ったかも。」
「おま!早く魔法とけ!!枯渇するぞ!!!!」
「あ、了解」
私が、魔法が解けるようにと願うと、魔法は解けた。手足の傀儡だけはそのままにしたが。
「よし、解いたな。あー、気を取り直してだなあ。お前が規格外だということはよくわかった。だが、今のまま発作を抑えようとすれば、必ず枯渇するだろう。人体に魔法をかけるのは、かなりの魔力を使うからな。という訳で、今日からみっちり特訓だ。より少ない魔力で、より正確で威力の高い魔法を使えるようにな。わかったか?」
「はい!」
「よし。じゃあまずは、一回テルガんとこもどって飯食って来い。その間に、俺はいろいろ準備しておくから。」
ふと時計を見ると、お昼を回ろうとしている。
「わかった。食べ終わったらまた来るよ。」
「いいか。おまえ、絶対に魔法のこと正直に話すなよ。魔力はルカと同じくらいの量で、質は二人共、平均より少し高め、そうだな、36色くらいだったことにしとけ。使える魔法に関しては、ルカはそのまま言っていいが、リュリアは、重ねがけできること、無詠唱で発動できることは隠せ。んで、病気は普通に、治癒魔法で治す事にしとくんだ。下手に治癒魔法が使えないといって、じゃあどうやって病気を治すのか、なんて聞かれると面倒だからな。いいか?」
「「了解」」
私たちは同時に返事を返し、小屋を出た。




