初めての魔法
夕飯を食べおおわり、話もだいたい聴き終えた頃、テルガさんの家にノックの音が響いた。
「お、来たな。」
テルガさんがいちはやく反応し、何やら訪ねてきた人物と話してからドアを閉めた。
振り返ったその手には、オーダーメイドの、私の杖が握られている。
「お~い、リュリアちゃん。とどいたぞ、松葉杖!持ってみろよ」
そう言って、私に杖を渡す。
「おお~!!なにこれ、軽い!しかも頑丈そうだし、長さもぴったり!」
私は、右の脇の下に杖をはさんで歩き回る。日本で使っていたものよりも、格段に使いやすい。
「姉さん、嬉しいのはわかるけど、転ばないように気をつけてね?」
「ははっ、喜んでもらえたようで何よりだ。しかし、今日はもう遅い。その杖を外で使うのは、明日だな。病み上がりなんだから、さっさと風呂に入って寝たほうがいい。」
二人にそうたしなめられ、私は渋々杖をおいて風呂に入った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・誰これ。」
私は、自分のものであろう顔を見て絶句する。
(いや、これは、あまりにも・・・)
余りにも、美人すぎる。かわいい系ではなく、かっこいい、または綺麗系な顔が、鏡には写っていた。
目は大きく、少しつりがっている。しかしそれも程よい程度で、きつい印象はうけない。鼻がスっととおっており、唇は、ほんのり色付いている。どこまでも白く、透き通った肌に、黒い髪と青い目がよく映える。シャワーで水をかけると、光った髪が鮮やかな青に見える。体も、余計な肉はついておらず、出ている部分は下品でない程度に、程良く出ている。
この体を、一言で表すなら、美人意外ないだろう。
(いやいやいやいや、これはさすがにないだろう!?自分で言うのも嫌だが、整いすぎている!!ナルシストみたいで言いたくないが、これじゃあ、人の視線が集まりすぎるだろう!?この顔の人が通り過ぎていったら、私なら絶対に5度見はするぞ?いや、マジで。面食いじゃなくても、この顔見たら声かけて来る人いっぱいいるって。うおわー、生きにくくなりそうだー。)
肩を落として風呂から上がる。
ああ、これは余談だが、右足のももにも、やはり傷跡はあった。
「どうしたの、姉さん?やっぱり疲れてた?」
「ああ、うん。そうかもね。」
心配してくれるルカに生返事を返し、やさぐれた気持ちで布団に入る。あすの朝、平凡な顔に変わっている事を願って。
* * *
考えても、どうにもならないことは考えない。そういうふうに生きてきた私は、自分の容姿についても考えないことにした。
・・・つまるところ、諦めて、開き直った。この容姿は武器にもなるだろうと思うことにした。
朝、起きると既にテルガさんは起きており、朝ごはんの用意をしていた。
「おはよう、りゅリアちゃん。疲れは取れたか?」
「はい。大丈夫です。」
挨拶を交わしているとルカが起きてくる。
「おはよう姉さん、テルガ。・・・なんか姉さん、機嫌いいね。今日は魔法を習いに行くんだから、当たり前かもしれないけど。俺も楽しみだしね。」
そう、そうなのだ。今日は、この村で一番魔法に詳しい人に会いにいくのだ。昨日、テルガさんに、一刻でも早く、魔法が使えるようにならなければならないことと、その理由を言った。そうしたら、魔法に詳しい人物を紹介してくれることになったのだ。もう、相手の了承は得ているらしい。
私たちは食事を終えて、すぐに家を出た。
「村長、おはようございます。そちらのお二方はお客さんで?えらい、綺麗な人たちですなあ。」
「おはようございます、村長。あら、あなた綺麗ねえ。村長の彼女?」
「あ、村長だー!おはようございます!・・わー、綺麗な人たちー!」
口々にテルガさんは声をかけられる。そして、その度に私たちを紹介した。
「こいつらは、俺の友達なんだ。ちょっと訳ありでな。しばらくここに滞在することになると思うから、いろいろ教えてやってくれ。」
テルガはどうやら、村人にしたわれているようだ。村人たちも、いきなり現れた私たちのことを、村長の知り合いなら、と快く受け入れてくれた。
たくさんの人と挨拶を交わしながら歩き、たどり着いたのは一つの小さな家だった。
「おじさん。昨日話した奴らを連れてきた。入るぞ。」
ドアを開けてしばらくしてから、一人のいかついおじさんが出てきた。
「ああ、テルガ、来たか。・・おまえらが、例のワケありだな?病気持ちはたしか、女の方だったか。時間がないんだろう?さっさと始めよう。」
そういって、おじさんは部屋の中に入っていく。
「あ、おじさん。俺やることあるから先に帰るよ。ふたりのことよろしく頼むよ。」
「わかった。」
「じゃあ、俺行くから。お昼頃になったら、一度帰っておいで。」
そういって、テルガさんは帰っていった。
「えっと、今日はよろしくお願いします。」
「ああ。さ、あがれ。あそこに座ってまっていてくれ」
そういって、テーブルを指さす。私たちが座っている間、おじさんはのにか探している。
「ああ、あった。」
なにやら古い小さな箱を持って、私たちの向かいにおじさんは座った。
「・・・それは?」
ルカが尋ねる。
「ああ。魔法を教えるにしても、まずは、おまえたちの魔力の量を知っておく必要があるだろう?それを調べるための道具が入っている。これだ。」
そう言って取り出したのは、2種類の小さな四角い紙だった。一つは長方形で、もう一つは真四角。それを、私たちに一枚ずつ渡す。
「これは、魔力の量と質をはかるためのものだ。長方形が量で、正方形は質を測る。まずは質から調べよう。この紙に、血を一滴足らせ。すると、紙が色を変える。よりたくさんの色が紙に浮かぶほど、質は高いことになる。やってみろ。」
私たちは渡されたナイフで指先を切り、紙に血を垂らす。すると、血は紙に染み込み、みるみる赤く染める。すると、赤かったはずの血が、色を変え始めた。ルカも同じようだ。
色の変化は、モノの数秒で終わった。
ルカの紙も私の紙も、数え切れないくらいな色が浮かび、鮮やかに染まっていたが、比べると、私の紙には、ルカの倍以上の色が浮かんでいる。つまり、ルカよりも私の魔力のほうが質が高いということだろう
しかし、これは、質が高い方なのか低いほうなのかわからず、おじさんの方を見る。
すると、信じられないものを見た、という顔で固まっていた。
「し、信じらんねぇ。・・・・一体、あんたたち何もんだ?弟の方でもヤバイってのに、姉はその倍以上ときてる。」
「ええと、私たちの魔力の質は、かなり高い、ということでいいんですか?」
「おまっ、高いなんてもんじゃねえぞ。下手に人に知られりゃ、売られるか、解剖されるかするぜ。」
まじかー。
これはおそらくなのだが、私たちのの魔力の質が高いのは、リーレンの力が混ざっているからではないだろうか。もしそれが原因なら、相当質が高いことは間違いないだろう。なんせ神の力だ。
「そ、そうですか。へ~。っじ、じゃあ、次行きましょう!量を測りましょう!」
私は、この気まずい空気をなんとかしたくてそういった。そして、もっときまずい空気を作った。
量をはかる紙は、血を垂らすと、白から灰色へ、灰色から黒へと、色を変えていくのだそうで。色が濃ければ濃いほど、量が多いことになるらしい。
ここでは、ルカは魔術師の平均より少し多いくらいだった。
しかし私は・・・物の見事に、紙を真っ黒に染め上げた。ええ、それはもう、真っ黒に。
黒以上、濃い色は存在いない。
つまり、測定不能。
「あー。俺はなんか、とんでもない連中に関わっちまったみてぇだなぁ。いいか、お前ら。自分の魔力のことは、誰にも言うな。それがあんたらのためだ。わかったな?」
私たちは、神妙な顔で頷く。
「よし。俺も、見なかったことにするからな。人に聞かれたら、適当にしらばっくれるんだぞ。よし。この話は終わりだ。次行こう。魔法を実際に使ってみようじゃねぇか。」
いよいよ、魔法を使う。