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嫉妬の連鎖  作者: ますざわ
第6章 真相
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2

「この情報をリークすれば全日本不動産はもう終わりでしょう」


 コロナビールと数枚の書類を持って中山は言った。書類には、かつてEDENで売買されていたクリスタルという薬物を平沼輝夫が独自のルートで仕入れ、販売の元締めを行っていたという様な内容が記されていた。在職中に殺人に加え、国内を震撼させた薬物の売買をやっていたとなれば既に大暴落している全日本不動産の株価がどうなるかは明白だ。


「俺は平沼だけに復讐出来れば良かったんだがな。全日本不動産とは取引もあったしよ。結果的にウチにも損害が出ちまってるんだよ」


 長島はウイスキーを片手に、海に視線を向けた。真夜中のクルージング。そう呼べば聞こえはいいが。


「しょうがないでしょう。成和建設ともあろう企業が、全日本不動産との取引をある日突然一斉に手を引いて、その後に全日本不動産が倒産したとなれば、あらぬ疑いをかけられてもおかしくないんですよ」


 受け売り知識なのだが、中山が偉そうに長島に言った。


「これが済めばようやく一段落するんだな」


 中山が足蹴にしているのは、黒いビニール袋に入れられた<何か>だ。


 中山は犯罪者だ。

 彼は両親の顔を知らない。彼が預けられた施設の施設長は、彼にナイフを首に突きつけられながら、彼が施設に預けられた経緯を聞きだした。


<君は、この施設の門のそばに置かれていた>


 中山の記憶の中で、一番最初に犯罪を犯したのは僅か六歳の頃だった。施設で飼っていた鶏五羽を一羽残らず素手でバラバラに解体したのだ。小学生の頃は常にカッターナイフを忍ばせていて、気に入らない生徒がいるとすぐに威嚇した。実際に切り付けた事も何度もあった。中学生に上がり、入学早々に教師の車を金属バットで何度も叩き、それを叱責した教師の頭を同じ金属バットで殴った。この時、初めて彼は警察に補導された。

 この事件を機に、中山は警察に見つからない犯罪を目指すようになった。これまでは、自分の強さ、悪さを誇示する為に、人前で、なるべく目立つ行為をしていた中山が、大人しくなった。

 警察や学校、施設ではあの事件を機に中山は更正した、と勘違いしていた。

 その間およそ二年、中山は更正した少年を演じつつ、綿密に計画を練っていた。施設周辺に不審者の情報を流し、自ら偽の目撃者となった。友人を使ってアリバイを作り、外部犯の犯行に見せかけ、自分の生い立ちを聞き出した後、施設長を殺害した。

 それ以来、中山は様々な犯罪を繰り返した。十八歳になる頃には、犯罪を換金化する方法を考えた。つまり、犯罪を仕事とする、プロの犯罪者になったのだ。殺し屋として人を暗殺する事もあった、狂言誘拐の協力をして抱えきれない程の金を手に入れた事もあった。その中で、一番金になるのは違法薬物の売買だった。

 しかし、いつまでも自由に犯罪で金を稼ぐ事が出来る訳ではなかった。警察にはマークされ始め、その度に顔を整形し、名前を変え、身分証を偽造し、もう何人もの顔と名前を語ってきたのか、中山自身にも記憶がないくらいだ。それまでは多少稚拙な計画でも、足がつくことはなかったが、警察にマークをされ始めると、警察を出し抜くまでの綿密な犯罪計画を練り上げる事は難しくなっていった。冷静に、綿密な計画を練り、それを客観的に検証出来る参謀が彼には必要だった。

 それが平沼だった。平沼は中山と真逆で、犯罪を計画する頭脳はあってもそれを実行する意志と身体能力がなかった。

 当時、神崎と名乗っていた中山を探し出したのは平沼だった。最初は小さな詐欺事件を中心に小金を稼いでいた。しかし、足がつかない完璧な計画を練る平沼、その計画を完璧に遂行する中山に欲が出るのは時間の問題だった。そんな二人が大きな賭けに出た。それが成和建設への詐欺、そしてクリスタルの売買だった。

 二人の崩壊はその二つがきっかけだったのは言うまでもない。では、何故平沼だけがその罪を被り、実行犯である中山が今も自由を手にしているのか。中山は計画を練る頭脳はないが、長年危険な橋のみを渡ってきた本能から、この二つの事件はいずれ足がつくと察していた。そして、平沼を売り、自らは生き残る道を選んだ。

 一か八か、殺される事を覚悟の上で泣きついたのは自身の詐欺行為の被害者である長島だった。中山がこれまで犯罪によって稼いできた金のほとんどを持ち、長島に頼み込んだのだ。






「ここでいいだろう」


 長島が言うと、中山は足蹴にしていた黒いビニール袋を海に投げ捨てた。真っ暗で静かな海に響き渡るように、黒いビニール袋はドボンと音を立てて沈んでいった。


「よし。報告をしておくか」


 そう言って長島は携帯電話を取り出した。

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