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嫉妬の連鎖  作者: ますざわ
第5章 偽りの真実
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 平沼とみなみが曲がった道を曲がると、そこからまた三本の道に分かれていた。見渡した所、マンション、ビル、店舗等が多く、戸建は無い。聞き込みが出来れば一番いいのだが、人は歩いていないし、店もオープンしてる店は少ない。


「参ったな」


 亮が言う通り、二人がどこまで行ったのか分からないが、周辺の建物を片っ端から探していたら一時間以上はかかってしまう。その頃には恐らくみなみは殺されているだろう。

 極端な話、みなみの生死にはあまり関心が無い。最悪はこの近辺で亮と手分けして張り込みを続け、平沼が出てくるのを待ち伏せるという手もある。だが、平沼を追い詰めるには犯行現場で問い詰めるのが一番だ。平沼は非常に頭のいい男だ。一連の行為を認めさせるのは容易ではなく、言い逃れの出来ない現場で追い詰めるしかない。それに、亮は最初からみなみを餌にするような作戦は受け入れないだろう。


 まずは考える。二人の会話には答えこそはないものの、ヒントはあった筈だ。

 最も重要なヒントは平沼の<地下>という発言だ。そして、みなみの携帯が切れた。この二つから平沼とみなみは十中八九地下にいる。地下と言っても、外階段から行ける地下と、内階段からしか行けない地下がある。外階段から行ける地下であれば、外からでも当然判断出来るが、内階段では外から判断出来ない。

 ここでもう一つのヒントだ。平沼のもう一つの発言である<私が経営している店>という内容。これで対象の建物は店舗型の地下フロアがあるものに絞られた。


「亮。店だ。二人は地下にある店の中にいる。奴の目的からすればそこに連れ込んだのは間違いなくみなみという女を殺すこと。つまり、営業中の店に入った可能性は低い。営業時間外の地下店舗を探せ」


 亮は少し戸惑った。当然かもしれない。曲がり角であるこの場所から見ても、地下に店舗がありそうな建物は七カ所もある。奥の別れ道を行けば、その数はもっと増えるだろう。


「とにかく探すよ!」


 亮はそう言って、目標の一つに向かって走り始めた。

 しかし、地下は探し難い。営業時間外ならドアには鍵がかかっている筈だ。外から中が見えない状況だったらどうする?中が見えたって奥に部屋でもあれば結局は同じこと。だからといって、この数多くの対象物件のドアを全て蹴破るなんて出来る訳がない。この捜索に果たして意味があるのだろうか。

 瀬崎が到着した一軒目の店舗は店内の様子は窓から窺えるものの、やはりドアは施錠しており、奥に部屋があって、その中に二人がいるのであれば、まんまと見逃す事にもなる。


「亮!」


 ちょうど二軒目に行こうとしていた亮を呼び止めた。


「この近辺は俺が探す。お前は奥の別れ道を一通り見て来てくれ。地下まで降りなくてもいい。周辺に何か手掛かりがないかだけを見渡してきてくれ」


「分かった!」


 この近辺で、いるかいないか気休め程度の確認しか出来ない捜索をするよりは、この辺一体を浅く探して、何か手掛かりが残っていないかを確認した方が早いと思った。勿論、期待は薄いが。

 瀬崎が二軒目の店舗に着くと、やはりドアの鍵が閉められており、今回の店舗は中の様子も窺えなかった。こんな捜索はやはり意味が無い。何か方法を考えるべきだ。


 こういう時は最初から整理してみる。

 平沼は藤江と名乗り、全日本不動産の社員ではなく、弁護士と名乗っていた。金森愛を匿っていると嘘をつき、みなみに金森愛と会わせると言って連れ出した。


<お店?ですか?事務所とかじゃなくて?>


 みなみの言った言葉。この言葉を何気なく口に出した時、瀬崎の中で引っ掛かりを感じた。

 そう、みなみは平沼が弁護士と嘘を付くものだから法律事務所に連れて行かれると思っていた筈なのだ。平沼が<ここだよ>と、案内してから、みなみがその質問をするまでに少し間があった。もし、外観から明らかに店舗だと判断出来る建物であれば間髪入れずこの疑問が沸く筈だし、明らかな店舗なら<お店?>と、疑問に思う事自体に矛盾がある。

 つまり、その場所は外観からすぐに店舗だと判断出来る建物ではなかったのだ。そうなると、その建物はビルである可能性が高い。しかし、ビルであればみなみが推測していた事務所のイメージと一致する訳だし、一目見ただけで<お店?>と疑問が沸くことが不自然だ。

 ビルで、お店・・・!


 瀬崎は階段を駆け上がり、地上に戻った。見渡すと、三~五階建くらいのビルはいくつか見える。その中で看板が出ていたり、取り付けられている看板が店舗であると明白に分かるものを探す。みなみの思考回路から考えれば、不動産業者や旅行代理店、保険代理店などの空中店舗を「お店」と表現する訳がない。つまり、その看板は商号ではなく、屋号での表示がされてる可能性が高い。

 そこまで絞ると、該当するビルはこの辺りには一棟しかない。瀬崎はそのビルに向かいながら亮にすぐに電話を入れ、「テナントが全て屋号、尚且つ外階段から地下に行けるビルを探せ」と伝えた。

 瀬崎が辿り着いたビルは四階建。看板は色取り取りで、キャバクラやスナックだ。外階段の手摺に一般家庭で使っているようなオシャレな表札の様なものに「BAR CRYSTAL」とある。


「クリスタル?」


 思わず瀬崎は笑ってしまった。平沼は瀬崎が思っていたより大胆な男だったようだ。そして、亮に電話を再び入れた。


「亮、見つけた。急いで戻ってくれ」


 地上から目的地であろう地下を慎重に見下ろす。確かにバーという表札はかかっているが、この表札自体に自己主張が全く感じられないし、仮にこの表札に気付いて興味を持った人がいても、地上から地下を見れば、足は遠のくに違いない。勝手口の様なドア一枚しかなく、店に入る、というより人の家に入る感覚だ。ふらっと通りかかる店ではないし、インターネット等の口コミで興味を持ったとしても現場を見れば躊躇する人が殆どだろう。それ程までに店としての主張が無い。

 勿論、中で何をしていたか分からない平沼の希望通りの店舗展開である事は間違いない。恐らくは、今、瀬崎が思っているこの店に対する感情こそが、平沼の狙いそのものなのであろう。


「ここ?」


 汗だくで、息を切らしながら亮が戻って来た。


「ああ、間違いねえ」


 そう言って瀬崎は表札を指差す。CRYSTALが読めないか、とも思ったがどうやらその心配は必要なく、目を輝かせた。



 

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