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嫉妬の連鎖  作者: ますざわ
第5章 偽りの真実
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5

 瀬崎はみなみに電話をさせた。このご時世、見知らぬ番号からの電話はなかなか受け取らない人が多い中で、みなみから電話をさせたのは多少のリスクはあった。ただ、瀬崎が電話をしたら相手が身構える可能性がある事、また電話にさえ出れば、みなみが女である、という事で相手を大いに油断させる事が出来るというメリットに賭けた。

 みなみは電話で、

「金森愛の親友だったんです。彼女、最近いつも不安そうで、自分の身に何かあったり、連絡がずっと取れなかったりしたらこの番号に電話して、と言われていて電話を致しました」

 と、言った。当然、瀬崎が言わせたのだが。


 瀬崎がみなみに電話を架けさせた相手は、瀬崎の読みでは金森愛を殺害した人物、その人だ。本来であれば、自分が殺した人物の親友と名乗る人物から電話が来れば、警戒心は極限まで高まるだろう。そんな電話を受けたら無言で電話を切られるか、適当にあしらわれるか程度の扱いを受けるだろう。そこで瀬崎はあえて金森愛が生前に自分自身の身の危険を感じていた事、電話番号は金森愛から直接聞かされていた事を電話で強調させた。

 それによって、恐らく相手に一つの疑念が生まれる筈だ。果たして、金森愛はこの女にどこまで話していたのだろう、と。そして、みなみにそのつもりは当然ないのだが、相手はきっと脅迫されるかもしれないという程の恐怖を覚えるだろう。まして、相手は人を一人殺している。せっかく邪魔になった金森愛を殺したにも関わらず、新たにみなみからそれをネタに脅迫されると考えたら、第二の殺人を決意するであろう事は容易に推測できる。


「二時間後に渋谷で会う事になりました」


 電話を切ったみなみが言った。


「相手は何と?」


「実は、彼女は厄介な事件の被害に遭って外出出来ない状況にあると。非常に怯えているので自分以外の人間と会いたがらない。親友である私の事は彼女から聞いていたから一度詳しい事情を説明したいので直接会えないか?との事でした」


 この発言で、十中八九、金森愛を殺害した張本人である事が判明した。実際には既に亡くなっている金森愛がまだ生きているかのような口ぶりだからだ。まだ報道されていないのをいい事に少しでも早くみなみの口を封じようという事か。

 しかし、ここまでは瀬崎のシナリオ通りだ。時間が無い中で、不測の事態を検証すらしなかった危うい作戦ではあったが問題は無さそうだ。


 難しいのはここからだ。みなみはあくまで相手にとって餌に過ぎず、食いついた相手を料理するのは瀬崎、そして亮だ。釣り上げてしまえば、料理はそう難しくないが、問題は餌に食いつかせ、釣り上げるまでのプロセスだ。

 当然だが、瀬崎は今回の相手の事を良く知らない。あくまで調査した結果に基づいて、性格や行動を分析する以外に方法が無い。瀬崎にとってそれは得意な分野ではあるが、一発勝負であり、何よりも正確さを問われる状況で、果たしてうまくいくかどうか自信はあまり無かった。


「どうする?兄貴。彼女にはどこかに隠れて貰ってて、俺達が待ち合わせ場所で待ち伏せる?」


「そんな事やったら相手はすぐに逃げ出すさ。恐らく、待ち合わせ場所に彼女、少なくとも女性が立っている事を確認してからでないと現れない。彼女を隠して俺達が待ち伏せするどころか、俺達こそ相手から見えないように身を隠す必要がある」


 この話に驚いたのはみなみだ。当然だ。殺人犯と思われる人物と二人きりにならなければいけないのだから怖くない筈がない。同時に、この作戦はみなみ次第でもある。みなみが逃げ出したり、怪しまれたりすれば台無しだ。瀬崎にとって、みなみという人物はまだまだ信用するに足りない。普段なら、こんなにリスクを含んだ計画など立てる訳もないのだが、今回ばかりは致し方ない。警察よりも早く事件を解決するにはこの手しか思い浮かばないのだから。


「もう分かってるかもしれないが、この作戦、一番危険を伴うのはみなみさん、あなただ。隠しても意味が無い事だからはっきり言うが、あなたを餌におびき出す作戦なのはもう分かってるよね?その餌に食いつかせ、釣り上げるまで、あなたには餌で居続けて貰う必要がある」


「具体的には?」


 みなみは怯えながらも、どこか腹を括ったような表情だ。恐らく、今回みなみが電話をして、相手と接触しなければみなみが命を狙われる事はなかっただろう。ただ、単にほんの僅かな一時期、金森愛に利用されていただけの、言ってみれば被害者の一人だ。そんな彼女が狙われる理由はどこにも無かったのだ。

 瀬崎にこのままでは命が危ないと唆されたばかりに、本当に自ら危険へ飛び込んでしまったようなものだ。そして、既に覚悟を決めている。瀬崎にとっては願ったり叶ったりだろう。


「勿論、ただ単に君を危険に陥れようなどと考えている訳ではない。全員無事で犯人逮捕が一番いいのは間違いないんだ。だから、時間ギリギリまで方法を模索する」


 これは本心だ。わざわざみなみを危険な目に遭わせたところで、それによるメリットが得られる訳ではないし、何より寝覚めが悪い。


「とりあえず、準備をしたい。君には着替えてもらいたいから服を買いに行ってくれ。亮は付き添ってくれ」


「兄貴は行かないの?」


「万が一、警察が俺の事を既にマークしているなら下手に二人と一緒にいる所を見られるのはまずい。ここで息を潜めておくのが最善の方法だ。それに計画も正確であればあるに越した事はない」


「そりゃそうだね。分かった。どんな服を?」


「露出の多い物にしてくれ」


「え!?」


「下衆な発想だと思われるかもしれないが、男なんてみんなそんなものだ。きっちりとしたスーツを着た女性が待ち合わせ場所にいるより、露出が多く、頭の悪そうな女が居た方が気も緩むし、油断もするものだからな」


「なるほどね。分かった。じゃあ行こうか」


 みなみはもう瀬崎の言いなりだ。当然だ。彼女は今やもう瀬崎に自分の命を預けているくらいの感覚でいるのだから。

 二時間後、瀬崎にとって、人の心を読み、操る力の集大成を披露する機会に備えて、瀬崎はただひたすら脳内であらゆるシュチュエーションを想定していた。

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