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嫉妬の連鎖  作者: ますざわ
第5章 偽りの真実
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3

 準平と亮はみなみを連れて部屋を出て行った。大久保に滞在先のホテルを伝えてしまった以上、翌日十時の約束でも事前に見張りに来る可能性が非常に高く、準平達の姿を見られる訳にはいかなかったからだ。金森愛の死や、翌日自分を待ち受ける警察の執拗な尋問を考えると、クラブで少し酒を飲んでほろ酔い状態であるにも関わらず、一向に眠気はやってこなかった。

 結局、朝日が出る頃には睡眠を取る事を諦めて、シャワーを浴びた。自分が警察の取調べを受けるなど想像した事もなかった。連日、何も連絡もせずに家を空けて、妻の美鈴もさぞ心配しているだろう。これから何日間警察に拘束されるのか分からないので、あとで一言メールを送っておこう。とてもじゃないが、美鈴に直接話すのも、嘘をつくのも、今の浩平には耐え難い負担だった。

 チェックアウトの手続をして、ロビーで大久保を待つ。十時まであと二十分程あったが、ロビーに腰掛けて間もなく大久保が姿を現した様子を見ると、大分前からどこかで見られていたに違いない。やはり前もって準平達を帰しておいて良かったと心底安心した。


「すいませんね、先生」


 穏やかな声で大久保は言ったが、顔は少しも穏やかではなかった。準平の言った通り、警察にとって自分は事件を解明する頼みの綱なのかもしれない。


「何で俺が金森愛が死んだ事で警察に行かなきゃいけないんだ?」


 大久保の追求から逃れる自信は全く無い。その自信の無さ故に、大久保に対する第一声がまるで喧嘩腰になってしまった。


「重要参考人なんですよ」


 大久保が断言した。大久保の一歩後ろに立つ若い刑事も、もはや犯人を見るかのような目で自分を見ている。


「重要参考人?金森愛は殺されたのか?」


「ええ。少なくとも私はそう考えています」


 大久保の言い方が何ともはっきりしなかったが、金森愛は殺された可能性がある。一瞬、何故か準平の顔が頭に浮かんだが、すぐに気を取り直した。そんな筈がある訳が無い。


「俺が殺した、とでも?」


「檜山探偵の時も言いましたが、先生を殺人の容疑者とは思ってませんよ。当然、今回の事件に関してもです。ですが、あなたは間違いなく何かを知っている。犯人を知っているのか、警察の知らない情報を知っているのか、知っている何かが何なのかは分からりませんがね」


「そんな曖昧な理由で俺を重要参考人として連れて行くのか?」


「だから言ってるでしょう。これは協力の要請だと」


 泊まっているホテルにまで押しかけ、これでもまだ協力だと主張するのは理解に苦しむが、自分の理屈もとてもじゃないが弁護士のそれとは思えない程に稚拙なので反論は出来ない。


「何を言っても連れて行く気だろう。分かっているさ」


 浩平は重そうに腰を上げ、立ち上がった。


「車はこちらです」


 若い刑事がそう言い、浩平を誘導する。


「先生、申し訳ありませんが車で少し待って頂けませんか?車内で冷房を効かせ過ぎたせいか、トイレに行きたくてね」


「好きにしてくれ」


 空気を和ます為に言ったのかもしれないが、大久保のその白々しさは不愉快だった。大久保は浩平に軽く頭を下げて入口とは逆方向に歩き出した。宮崎と呼ばれた刑事に誘導され、浩平は車に乗った。








「すいません、ちょっとお尋ねしたいのですが」


「はい」


 爽やかなロビーの案内係が完璧に作られた営業用の笑顔を大久保に向けた。大久保が警察手帳を示すと、少々お待ち下さいと言って後ろに下がると、代わりにバックヤードからスーツを纏い、支配人の名札をした男が現れた。


「昨日、このホテルに瀬崎浩平という男性がお泊りしていませんでしたか?」


「瀬崎浩平様ですね。お待ち下さい」


 男はパソコンの画面を眺めながら言った。


「いえ、瀬崎浩平様でのご予約はされていません」


「では、瀬崎由伸、は?」


「いえ、ありません」


「ない?ついさっきチェックアウトしたスーツの男性、どこに泊まってたんです?」


「ああ、あちらの方ですか。あちらの方が宿泊されていた部屋は瀬崎準平様というお名前でのご予約がされていました」


「瀬崎・・・準平・・・?」

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