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嫉妬の連鎖  作者: ますざわ
第5章 偽りの真実
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2

「出ません・・・」


 瀬崎の指示でみなみは金森愛に何度も電話しているが、一向に出る気配が無い。みなみの口から金森愛の名前が出てからは、瀬崎が金森愛に対してどれ程の被害を被っているかを時には事実を誇張して巧みに話し、みなみの瀬崎らに対する敵対心は消えたように思える。


「どうする準平」


 浩平は焦っている。焦っているのは瀬崎も同じだが、今ここで焦ってもなす術が無い。金森愛の現在の連絡先を知っている人物を手の内に入れただけでも大きな前進だと言うのに、待つ余裕が無いのだ。


「とりあえず彼女に電話を架け続けて貰うしか今は手立てが無い」


 連絡さえ取れれば、みなみに新宿のマンションの件で警察から聴取されていて、警察が金森愛の存在に気付き始めた、相談したいから会って欲しいとでもいえば金森愛は簡単に姿を現すだろう。もし、仮説通り有川や平沼が本当にあの女と関わっているのなら、そこで一網打尽に出来るまたとない絶好の機会を得る事になる。


「浩平さん、電話鳴ってますよ」


 亮がベッドの上に置いてある浩平の携帯を指差して言った。時刻は深夜二時を回っていたので不自然に思った。浩平も少し驚き、電話を取った。


「瀬崎です・・・・いえいえ、仕事が残っていてまだ起きていたので。どうしたんです?」


 そう受け答えしながら、浩平はメモに走り書きで「警察」と書いた。瀬崎はすぐに小声でスピーカー通話にするよう浩平に言った。


「いやね、実はちょっと先生に確認したい事がありまして」


 電話口から刑事の声が聞こえる。こんな時間に何の用だろう。浩平がわざわざ自分達に警察だと教えたという事は浩平の仕事絡みではなく、今回の瀬崎の事件についての話である事は間違いなかった。


「先生から以前相談された弟さんの事件。まぁ事件と呼ぶかどうかは別なんですが。探していた女の名前って金森愛、でしたよね?」


 その名前が出た時、みなみを含めた全員に緊張が走った。


「え、ええ。そうですが?」


「彼女、亡くなりました」


「えぇ!?」


 思わず瀬崎も声が出そうになった。金森愛が死んだ?何故?


「まだ捜査中なので詳しい話は出来ないんですけどね。先生、今どこにおられますか?」


 浩平が動揺している。金森愛の死についてもそうだろうが、今いる場所について何と答えたらいいかという困惑もあるのだろう。


「え、あ、いや・・・」


 ここで口ごもるのはまずい。瀬崎はジェスチャーで何か答えろ、と強い態度で指示した。


「今は、東京のホテルにいるんですよ」


 よりによって最悪の答えだ。瀬崎は急いで浩平からペンを取った。


「ホテル?ホテルで仕事ですか?」


 案の定、刑事は何か引っ掛かっている。瀬崎はメモに「妻 けんか」と書き、それを浩平に見せた。


「いや、お恥ずかしい話なんですが妻とちょっと喧嘩してしまいましてね。家にいると仕事に集中出来ないものですから」


「ああ、なるほど」


 刑事が発したのはその一言だったが、準平には刑事がその回答に全く満足していないように聞こえた。


「突然なんですが、先生、明日署まで来て頂けませんか?」


「私が?」


 なるほど。この刑事は浩平を疑っている。容疑者として疑っているのかどうかは分からないが、少なくとも重要参考人である事は間違いなさそうだ。それに、その刑事の読みは的確だ。警察がどの程度まで状況を把握しているのかは分からないが、浩平が洗いざらい話す事によって捜査が大きく進展する事は明らかだからだ。


「本来ならこんな話しないんですよ。明日なんて悠長な事を言って、姿消されちゃったら責任問題ですからね。これは私と先生の仲だからこその話です。協力して貰えませんか?」


 そう言われて断る訳にはいかないだろう。瀬崎はやむなく浩平の目を見て頷いた。もはや浩平は瀬崎の助言無しには判断出来ない程に混乱しているようだ。


「分かった。行こう」


「ありがとうございます。明日十時にお迎えに上がりますよ。ホテルを教えて貰えますか?」


 浩平はまたも目で瀬崎の許可を取って、今滞在しているホテルを伝え、電話を切った。


「結果的に、これはいい事・・・なのか?」


 諸悪の根源であると思っていた金森愛が死んだ。瀬崎が警戒していた金森愛からの復讐はこれで終焉を告げるだろう。とても納得出来る終わりではないが。


「どうかな。さすがに急展開すぎて俺も頭が混乱してるよ」


「俺は多分明日からしばらく警察に拘束される。何せ、檜山探偵ともう一人、多分あれは桜川さんだと思うが、二人の殺人に関しても疑われてるくらいだからな」


「うまく交わしてもらうしかないよ。兄貴の存在が警察にとっては最後の手掛かりなんだろうから、結構厳しく追求されると思うけどね」


「あぁ・・・分かってるよ」


 浩平のその表情が自信の無さを物語っていた。

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