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嫉妬の連鎖  作者: ますざわ
第4章 操り人形
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19

 新宿のシティホテルに瀬崎は急遽部屋を取った。いくらホステスとはいえ、会った初日に、しかも店の客という立場で、部屋に呼び出すのは容易ではなかった。

 その為に瀬崎は約二時間みなみとたっぷり時間を取り、みなみにも好きなものを飲ませた。しかも、一夜を共に過ごすだけで十万を渡すとまで言った。それだけの金を使ってでも、この女を逃す訳にはいかなかった。


 瀬崎にその決意をさせたのは、みなみの一言だった。


「前に借りてた部屋、一緒に住んでた友達が危ない事件に巻き込まれて、退去しなきゃいけなくなっちゃったの」


 しかも、その部屋は新宿だと言う。エレガンスに行く前に瀬崎が立てた仮説とピタリと一致したのだ。


「さっき店を出たという連絡が来たから、間もなくこの部屋にあの女が来る。兄貴と亮はこのベッドに座っていてくれさえいればいい。出迎えから俺以外にも二人も男がいるなんて分かったらいくらなんでも逃げ出すだろうからね」


「大丈夫か、そんな強引な方法で。俺と亮は隣にでも部屋を取って、一晩かけてじっくり聞き出した方がいいんじゃないのか?」


「勿論時間に余裕があるならその方法が一番いい。でも、もう俺には時間がない。恐怖心を煽って無理矢理にでも喋らせるしかない。それに彼女と約束を取り付けたのは話をさせるだけが目的じゃない」


「と言うと?」


「まぁそれはみなみって女が全く喋らなかった場合に話すよ」


 瀬崎はその先の考えを言うのはやめておいた。無事にみなみという女を捕まえることが出来たら、この女は絶対に逃がしてはならない。その考えは亮も浩平も共通だと思うが、その手段に関しては特に考えていないだろう。

 浩平に関して言えば、連絡先を聞くだけで、すぐにでも解放してしまうかもしれない。確かに時間に余裕があるならそれでもいい。ただ、瀬崎には時間が無い。役員会まであと五日、いやもう十二時を回ってるので実際は四日しかない。

 三人の空気は張り詰めており、誰も言葉を発しない。何とも言えない沈黙が続き、部屋の中の時計の針のみが唯一音を立てる。こんな時に瀬崎はいつも思う。時計の針の音はこんなにも大きな音だったのかと。


 コンコン。控えめなノックの音が空気を壊した。


「来た。じゃあ打ち合わせ通りに頼む」


 瀬崎がそう言うと、浩平と亮は部屋の奥へ身を潜めた。瀬崎はゆっくりとドアに向かい、念の為、覗き穴から確認する。俯いているがドアの外に立っているのはみなみ本人に間違いない。

 ドアを開けると、俯いていたみなみが顔を上げた。照れ臭そうな顔をしている。初対面の男、しかもクラブのホステスと客という間柄で、そんな初々しい表情をしたところで何ら効果がない事を理解していないようだ。

 最も、そんな浅はかなホステスの小細工にまんまと引っ掛かる男が多いのも現実だが。


「本当に来てくれたんだね」


「あなたが強引に誘うんだもん」


 瀬崎はまんまと引っ掛かる男を演じた。


「入って」


 みなみはゆっくりと部屋に一歩踏み出した。ドアのオートロックが施錠する音をしっかりと確認して、みなみを部屋に案内する。


「さあ」


 瀬崎がみなみの手を取って、歩き出す。みなみが部屋の異変に気付いたのは窓際の椅子に腰掛けた瞬間だった。


「え!?」


 相当驚いたろう。瀬崎の他に二人も男が居たのだから。


「ちょ、どういうこと!?」


 みなみは怒鳴るように言った。


「安心してくれ。三人で君に暴行を加えようなんてちっとも思ってない」


 瀬崎は店にいる時から、ついさっきまで使っていた営業用の少し高い声から、普段通りの低く、どこか冷たい印象を与える声に戻して言った。

 みなみの表情から恐怖心が溢れている。


「ただし、君が僕の要求に誠実に答えてくれればの話だけどね」


 そう言って瀬崎は小さな丸いテーブルを挟んで向かい側の椅子に腰掛けた。亮と浩平はそんな二人を見て、ベッドに並んで腰掛けた。


「これから君に幾つか質問をする。質問と言っても、その殆どの正解を僕達は知っている。つまり、嘘は通用しない。だから、無駄な時間を取らせるような事はしないで欲しい」


「どういうつもりよ!!」


「それともう一つ。今の様に金きり声を張り上げないで欲しい。あくまで偏見なのだが、僕は女性の甲高い怒鳴り声っていうのが非常に嫌いでね。最初に言ったけど、僕達は君に危害を加えるつもりは無い。この状況で冷静に話をしようというのも難しいかもしれないが、それをする事が君が無事にこの部屋を出る唯一の方法だ」


 怒鳴ったり、脅したりすれば、大体の人間は恐怖心が増幅する。しかし、その方法では同時に怒りや憎しみも増幅する。それでは正確な情報は聞き出せない。

 最も情報を聞き出しやすい状況。それは相手を純粋な恐怖心のみで縛り付ける事だ。それにはあくまで冷静に、無感情に相手に語りかけることが最も有効的なのだ。


「僕の考えに同意してくれるなら返事をしてくれるか?一言だけでいい」


「・・・わかりました」


 みなみがそう言うと、瀬崎が浩平を見た。浩平は鞄からノートを取り出し、机に向かった。そして瀬崎をもう一度見て、頷いた。


「じゃあ、質問を始めるね」


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