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嫉妬の連鎖  作者: ますざわ
第4章 操り人形
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16

 浩平から電話を受けたのは亮が黒幕はEDENのオーナーだと話した直後だった。警察から解放され、家族の無事を確認した後、疲労から眠ってしまい夜中になってしまったが、有力な情報を手に入れたので事務所に来て欲しいとの事だった。


「ちょうどいいな。亮のその大胆な推理も兄貴に聞いて貰おう」


 瀬崎と亮はほろ酔いの状態ではあったが、すぐに瀬崎法律事務所へ向かった。


「兄貴、大丈夫だったのか?」


 事務所に着くと、浩平は疲れきった顔でソファに腰掛けていた。ここまで疲れきった顔を瀬崎も見たことがなかった。


「ああ。とりあえずは凌いだが、警察は俺を疑ってるぞ」


「え、兄貴を?」


 殺人事件では第一発見者をまず疑え・・・ドラマか何かで刑事の鉄則だ、と言ってる場面を思い出した。

 しかし、血の海と化したあの現場で全くと言っていいほど返り血を浴びていない浩平を犯人と疑うのも妙な話だ。わざわざ着替えて、その後通報したとでも言うのか。


「いや、犯人と疑われてるかどうかは微妙だが、何らかの関与はしてると思われてるのは間違いない」


「それは兄貴が前に通報したことが原因なんじゃないの?」


 浩平が犯人として疑われていない、というのなら瀬崎にも合点がいく。それよりもむしろ、瀬崎はこうなる事態を一番懸念していた。

 浩平が警察の誰に、どんな内容の話をしたのか知らないが、瀬崎の巻き込まれている事件の話を聞いた刑事が二つの殺人事件を知れば、勘の鋭い刑事なら浩平の名前が浮上するのはあり得ない話ではない。


「まさか兄貴が話した刑事が今回の殺人事件の担当なんて話じゃないよね?」


「そんな偶然ないでしょ」


 亮が即座に言ったが、それくらい可能性としては低い話だ。


「・・・すまない」


「おいおいおい・・・」


「俺が前にお前の巻き込まれた事件の事で相談したのは大久保という警視庁の刑事なんだ。今朝、俺は最初は神奈川県警の刑事に聴取をされた。と言っても、その時は相当に気が動転しててほぼ記憶にないんだが。その様子を見たからか、神奈川県警の刑事は多分すぐに解放してくれた。その後、言われるがまま俺は警視庁に連れて行かれ、部屋に入ってきたのは大久保だった、という訳だ」


「ちょっと待って。何で管轄外の事件が起きた直後に大久保って刑事は兄貴を呼んだのさ」


「それは分からない。大久保はこの事件の担当になったと言ってたがな」


 話がおかしい。事件が発生し、ある程度事件の内容が明らかになった時点で警視庁が合同捜査本部をたてると言うなら分かる。

 しかし、今回の場合は違う。ほぼリアルタイムに浩平は警視庁に呼ばれている。いずれにしろ、警察は既に瀬崎浩平に辿り着いている。今頃、瀬崎浩平の弟は瀬崎準平だと分かっててもおかしくはない。

 そうなれば、自分から金森愛、有川保に辿り着くことは時間の問題だ。余計な事をしてくれた。


「神奈川県警に警視庁がマークしてた人間がいて、その人間が今回の一連の事件に関わっていた。だから警視庁が神奈川県警を監視していた・・・とか?」


 亮が言う。


「いや、まぁ絶対に無いとは言えないが少し想像が飛躍しすぎだ。それを言い出したら、犯人は警視庁内部の人間で、証拠をもみ消す為に無理矢理合同捜査にした、という仮説も成り立つ。それを言い出したらキリがないだろ」


「それはそうか・・・」


「そうだな、準平の言う通りキリがない。まだ推測をたてるには情報が少なすぎる」


 瀬崎は浩平の目を見て頷いた。

 確かに、亮の仮説や瀬崎が口に出した仮説も可能性としてはゼロではない。検証をしてみる価値はあるかもしれない。だが、その二つの仮説では、金森愛や有川保に理論上辿り着かない。二人が警察内部の人間と内通していた、という更なる仮説を立てる事も出来るが、もはやそこまでいくと雲を掴むかのような話となってしまう。


「ところで兄貴。有力な情報ってのは?」


 瀬崎が物事を考える時、その予測や推測の道筋が四方八方に飛び交う時は一度考えるのを辞める。無駄に体力、精神力を浪費するからだ。正に今のように。


「ああ、実はな」


 そう言って浩平は机の引き出しから血の付いた封筒を取り出した。


「なんだよこれ」


「檜山探偵の調査結果だ」


「え!?」


 確かに、浩平が出したA4サイズの茶封筒の下部分には檜山探偵事務所の文字が書かれている。


「お前達を現場から遠ざけた後、もう一度事務所に入ったんだ。必ずこれがあると思ってな」


 瀬崎が慌てて封筒の中身を確認しようと、封筒を逆さまにして机の上に広げた。すると、一番最初に目に映ったのは金森愛の写真だった。金森愛の目線はカメラではなく、全く別の方向を見ている。つまり、これは遠くから撮った写真だ。


「金森愛の、資料?」


「ああ。檜山さんはな、いつも確実な調査結果を得るまで依頼人に経過を報告したり、過程を説明することはしないんだ。だから今回も今まで調べた成果で、俺達の耳に入っていない情報が必ずあると思っていた。それがこれさ」


「中身は?」


「まだ見てない」


 瀬崎は浩平と亮の目を見て、黙って頷くと書類に手を伸ばした。

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