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嫉妬の連鎖  作者: ますざわ
第4章 操り人形
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14

 窓の外を見ると、ぼんやりと明るくなり始めており、時計は午前四時を回っている。浩平が通された部屋は応接室とは名ばかりで、まるで取調室のような部屋だった。


 準平と亮に現場から離れるよう指示した後、事務所の中に再度入り、そして警察へ通報した。警察が来たのは通報して間もなかった。果たして二人は無事に帰ることが出来たのだろうか。そして、家族や友人はみんな無事でいるだろうか。

 警察が来てから、この部屋に通されるまでほとんど記憶がない。ふと、自分の姿に目をやると手や足、服など、ところどころ血がついている。さっき若い刑事が持ってきた冷たい水を一気に飲み干すと頭が少し冴えてくる。しかし、その一方で事務所で目撃した血まみれの檜山の顔が脳裏に蘇ってきてしまう。


「まさかこんな形で先生と会うとはね」


 ノックをして部屋に入ってきたのは大久保だった。大久保にはつい先日、準平の騒動の件で相談していた。これは単なる偶然なのか、それとも警察は勘付いているのだろうか。


「大久保」


「この事件、警視庁も捜査に加わることになってさ。俺が担当になったんだ」


「そうなのか」


 大久保の目はいつも酒を飲んで下らない話をする時とは違った。刑事の目をあいている。その目を見れば、自分が単なる第一発見者だと思われていないことは明白だった。


「先生相手に小細工しても仕方ないんでね、単刀直入に聞かせてもらうよ。先生、あの場所で何してたんだい?」


 世間話などして場を和ます気などこの男にはそうそうないようだ。


「何って言われてもな。元々檜山さんとは仕事で付き合いがあったんだ。こういう商売なもので、人の私生活を探ったり、人探しをしたりって事が多々あるものでな」


「じゃあ昨日もその仕事の打ち合わせで?あんな時間に?」


「いや、元々はウチの事務所に夜の九時に約束してたんだ。それがいくら待っても来ないからこっちから出向いたのさ」


「連絡もなかった?」


「ああ。連絡があればわざわざ横浜まで行きはしない」


「普段からそういう事は多いのか?」


「いや。檜山さんは時間には正確だし、約束も破ったことはなかった。だから長い付き合いだったし、今回も心配になったんだ」


「なるほどね・・・」


 自分の回答が気に入らないのか、大久保が露骨に首を傾げ、苦笑いをした。


「何か不満でも?」


「いや、そういう訳じゃないんだけど。事務所に着いたのは何時?」


「何時だったかな・・・十一時にはなってなかったと思う」


「うーん・・・普通に考えて心配だったからって行くものなのかな。そんな時間に、わざわざ東京から横浜まで。時間的に考えても明日の朝電話してみようってなるんじゃない?」


「急ぎの案件だったんでな」


「ほう。どんな?」


「勘弁してくれよ。俺達には守秘義務ってもんがあるんだ」


「まぁそれはそうか」


 法廷でも何度か経験した事がある。痛い所を突かれ、それなりの答えで何とか逃げ交わしてる時だ。このやり取りを文字にすれば何ら怪しい所はない。完璧な受け答えだろう。

 ただ、実際に人を相手にした時、口調や表情、選択した単語に些細な違和感を感じる事がある。これは自分が質問をしてる時にも感じた事はある。はっきりとした根拠はないが、こいつの話は嘘だ、あるいは何か隠している。そんな考えが脳裏を過ぎる事がある。

 そして、自分がそれを感じる事が出来るからか、相手にそれと同じ事を思われてると、それが分かる時がある。つまり、自分の弁解に何ら自信がない。おかしな発言はしていないのにこれは嘘だとバレていると自分でも分かる。


「ところで、前に相談された話あるでしょ?ほら、有川保のさ」


「随分と唐突だな」


「いや、単に先生の顔見て思い出しただけだよ」


「それで、その有川保がどうした?」


「いや、あの件どうなったのかなと思って」


「どうも何も進展は何もないよ」


「そう」


 このわざとらしい、急な話題の転換も大久保は暗に、

「俺は今回の事件が有川保、そして金森愛、そしてお前の弟の瀬崎準平が関わってるって疑ってるんだよ」と、心で嫌味を言っているような気がする。これが刑事の尋問か。


「まぁ今日は疲れてるだろうし、帰って頂いても構いませんよ」


「今日は、ってことはまた来る機会があるのかい?」


 浩平が嫌味たらしく返すと大久保は席を立って真面目な顔をして言った。


「先生。俺は捜査をする時はどんな人間に対しても疑ってかかる。親だろうが、子だろうが・・・先生だろうがね」


「へえ。俺が檜山さん達を殺したと?」


「いや、話してみてそれはないと感じたよ」


「たった数分でか?」


「ああ。勘だけどね。ただ、ついでにもう一つ言わせて貰えば殺しちゃいないが何か俺達の知らない事を知ってる・・・そんな所かな」


 浩平は何も言い返す事が出来なかった。ここで何か反応をしなければ余計に大久保に変に思われるのは分かっていたが、それをさせない程、今の大久保には迫力があった。


「冗談冗談。まぁとにかく休んで下さいよ。事件が事件だけにまた話聞く機会はあると思うけど、その時はこっちから出向きますよ」


 そう言って大久保は部屋を出て行き、代わりにこの部屋を案内した若い刑事が深く頭を下げて、帰宅の手続を行った。



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