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嫉妬の連鎖  作者: ますざわ
第4章 操り人形
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13

 平野、戸川と別れた後、瀬崎と亮はいつものバーで飲み直しているところだが瀬崎は一向に口を開こうとしない。亮にはその時間がひどく苦痛だった。

 平野と戸川との話の中で、明らかになったのは金森愛と平沼と言う瀬崎の上司が不倫関係にあった事だ。それが瀬崎の頭を混乱させているのだろうか。


「亮、お前どう思う?」


 ようやく瀬崎が口を開いた。しかし、瀬崎にしては珍しく、質問が漠然とし過ぎている。テンポが合わない、噛み合わない、そういう会話が瀬崎は大嫌いなのに、だ。


「どう・・・って?」

 

 亮は質問に対して質問で返すしかなかった。普段ならこういう遠回りな会話を嫌う瀬崎だが、今回ばかりは他に答えようが無い。


「ああ、そうだな。すまない。いや、さっきの話さ。金森愛が平沼と不倫関係にあった事は恐らく間違いない。平野と戸川を情報収集の相手として選んだのは情報の正確さを求めた上でだから」


「なるほど。まぁ確かに俺はあの二人の女性の事もよく知らないし、その平沼って人とは会ったこともないけど、確かにあの二人の表情は兄貴の推測の裏付けには充分だと思った」


「だろ?金森愛は・・・平沼と関係してたのか。俺はあの女に二股かけられそうになってたってことか」


 そう言って瀬崎は苦笑いをした。今まで、瀬崎の色恋沙汰については亮も色々と聞いてきたが、瀬崎が浮気をされたり、二股をかけられたような話は過去になかった。


「え、それがショックなの?」


「そりゃショックだろ。よりによってあんなジジイとだなんて」


 この切羽詰った状況の中で瀬崎が何故そんな事を気にしているのか分からないが、とりあえず亮も笑っておいた。


「まぁそんな事は冗談だが、こうなってくるとますます俺の分析はアテにならないな」


 そうかと思うと、瀬崎は急に真面目な顔をして言った。


「え?どういうこと?」


「そりゃそうだろう。不倫関係ってのは要は互いに求めてるのは肉体のみだろ。片方は結婚してるから将来は望めないんだし。という事は、俺と金森愛が親しくして数ヶ月間もその関係は続いてた筈だ。

 金森愛が俺に夢中になって、平沼との関係を疎かにしたのなら不倫関係は解消されてる筈だからな。だが、俺はそれに気付けなかった。人間ってのは、人と接して何か影響や刺激を受ければ、考え方、仕草、雰囲気に何らかの変化が必ず出る。それは確かに些細な変化かもしれないが、俺ならその変化に気付けた筈だ。それが金森愛に対しては全く見抜けなかった。

 つまり、俺はあの女に対しては何ら分析もコントロールも出来てなかったってことだ」


 瀬崎は興奮すると普段より少しだけ早口になるらしい。正に、今がその状態だった。正直言って、今の瀬崎の話はあまり理解出来ていない。


「でも、金森愛と平沼が不倫関係にあった事が今回の事件と何か関係あるの?」


 素朴な疑問を亮はぶつけた。今の瀬崎ならこの馬鹿げた質問も怒らずに答えてくれるだろう。


「いや、五分五分だな、正直。仮にあの写真を作ったのが平沼だと仮定したとしても五分五分だ。二人は不倫関係にあった、そこに割って入ったのが俺、金森愛は俺と平沼の間で揺れる、それに気付いた平沼は俺を良く思わない、俺が金森愛を振り、ショックを受ける、それを知った平沼の怒りの矛先が俺に向くのはごく自然だ。だからあの写真は説明がつく。

 金森愛の退職原因は俺にあるとして、俺を退職に追い込めば、また金森愛は戻ってくると思ったのかもしれない。だから写真を偽造してまでも俺を辞めさせたかった」


「うん、すごく分かり易い。そう考えるのが普通だろうね」


「だろ?問題は金森愛が俺へのストーカー、脅迫行為を始めた事についてだ。このまま次の役員会を迎えれば恐らく俺はクビになる。もし、二人が共謀して俺をクビにするのが目的だとするなら、今の状況は二人の思惑通りって事だよな。

 そうすると、少なくとも金森愛が間違いなく関わった、俺の自宅玄関ドアに髪の毛を貼り付けた事、誰かの切り落とした指を届けた事、金森愛の住んでいたと思われるマンションで飯田君の死体が見つかったこと、この一連の事件は辻褄が合わないだろ?二人は俺さえクビになれば満足する筈なんだから、あんな大それたことする必要はないんだ」


「そうだね・・・その行為は兄貴と会社との関連は全くないもんな。じゃあ金森愛の兄貴への恨みがすごい強くて、会社をクビにするくらいじゃ済まないと思ってるとしたら?」


「それもあり得る。そうなると平沼が黒幕なのではなく、やはり金森愛が平沼を操っていた、という事になるよな」


「うん。金森愛が平沼に兄貴をクビに追い込むよう指示して、自分は自分で兄貴を個人的に追い詰める・・・あ!」


 亮が急に店内に響き渡る程の声を上げた。自分でもそんなに大きな声を出したつもりではなかった。ただ、話してる内に、亮は一つの結論に辿り着いてしまった。


「なんだよ、急にでかい声だして」


 瀬崎が苛立ちを隠さず、亮に言ったが、亮は気にも留めなかった。


「有川保を忘れてない?」


「有川?」


「うん。有川保と平沼、この二人の接点は?」


「いや、平沼の名前が浮上したのはつい最近だし、そこはまだ調べてない」


「うん、まぁそうだけど。でも、今の時点ではっきりしてる接点があるでしょ?金森愛さ。金森愛がこの二人の接点なんだよ」


「そうすると、金森愛は平沼を使って会社での俺を追い込み、一方で有川には真由を狙わせ、プライベートでも俺を追い込む、か?

 ただ、それでも殺人は行き過ぎじゃないか?痴情のもつれで復讐する女がそんな冷酷に且つ計画的に殺人をも手段としてまで俺一人を追い込むなんて少し考えにくいな」


「一人、重要な人物を忘れてる」


「重要な人物?」


「うん。兄貴の言う通り、この事件の首謀者は冷酷で計画的で、そして凶悪だ。狂ってる。これは黒幕にとってゲームなんじゃないかな」


「まぁそう感じても不思議じゃねえな。で、誰だよ?そんな趣味の悪いゲームプレイヤーは」


「警察を震撼させ、歴史上稀に見る程の一斉取り締まりをさせた、つまり、警察をコントロールした薬物、クリスタル。クリスタルは金森愛と有川保との接点、つまり、この事件のキーにもなってる。俺達が今までノーマークだった人物。それは、クリスタルを世にばら撒いた人物、EDENのオーナーだよ」

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