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嫉妬の連鎖  作者: ますざわ
第4章 操り人形
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12

 待ち合わせは一九時半だった。待ち合わせ場所に現れた二人の女性は亮も思わず息を呑む程の美人だった。

 今まで亮も、美人と言われる女性とは何度も接してきたが、目の前に現れた二人は過去のそれとは次元が違った。顔やスタイルが素晴らしい事は言うまでもなく、亮の知る美人と圧倒的に異なるのは表情、仕草から伝わる知性とプライドだ。

 これが業界最大手の企業のOLか。こんな美女達を当日のメール一本で呼びつける瀬崎に対してもまた一つ、尊敬をしなければならない。


「珍しくてビックリしちゃいましたよ」


 席について早速一人の女が言った。

 女は平野はるなと言う名前で、年は二十五歳。明るめの茶髪でストレートヘア。眼力が強く、こちらを見られると思わず緊張してしまう程だ。瀬崎とは仲が良いのか、とても親しく見える。

 もう一人は戸川幸恵、二十四歳。黒髪ロングで化粧も控え目、非常に大人しそうな雰囲気だが、恐らく素顔が相当に美人なのだろう、いわゆるナチュラル美人というタイプの女性だ。


「いや、こいつがさ、彼女に振られて大分時間が経つってのに全然新しい出会いがないって言うからさ、一肌脱ごうかと思って」


 女性二人組と合流する前、瀬崎にこの飲み会の意図を聞いた。


「知ってるだろうけど、男と女では友情や人間関係の構築の仕方が違う。特にそれが職場になると顕著に現れる。男の場合、嫌いな奴、合わない奴とはつるまないだろ?それが職場だった場合、そこは仕事と割り切ってあくまでビジネスの対応をする。まぁ酒の席で愚痴が出る事はあるだろうけど、嫌いな奴の悪口や噂話を日常茶飯事するって男はそうはいないだろう。

 だが、女は違う。内心じゃ真っ黒な感情を抱きながらも表面上は笑顔で接し、相手に自分が嫌っている事を悟らせない。その上でほんの小さな噂話を大きくし、味方を作り、仲間内で噂や悪口を楽しむのさ」


「まぁ言われてみれば確かにそうだけど」


「金森愛は結構人気があったんだよ。ウチの男社員からはな。妬みもあるんだろうが、あの女の良くない噂を聞いたのは一度や二度じゃない。もしかしたら、俺達じゃ調べようのない情報を持ってるかもしれない」


「なるほど」


「俺が直接聞くのもいいが、彼女達にとっちゃ一応俺は上司だ。聞かれたところで自分の印象が悪くなるような他人の噂を言うとは思えない」


「だから、俺も行くのか」


「そういうこと。一応名目上は亮の為の飲み会として、いい具合に酒が入った所で俺が聞き出す。お前は俺がターゲットにしなかった方と適当に話しててくれればいい」


 瀬崎にそう言われた通り、亮は適度に彼女達に酒を飲ませ、自らが盛り上げ役となってとにかく楽しませた。その甲斐あって、彼女達は楽しそうに酒を飲み、上司である瀬崎に対しても友人感覚で接し始めた。

 そろそろ本題に入らないとこれ以上酔っ払ってしまっては話どころではなくなる。亮が不安に思って瀬崎を見ると瀬崎も同じ事を考えていたのか、亮の目を見て頷いた。


「そういえば、平野さん。金森さんの事なんか聞いてる?」


 瀬崎のターゲットは平野はるなの方だった。


「幸恵ちゃん、何か甘い物食べたくない?」


 亮は平野が安心して喋れるよう戸川にメニューを渡して別の話題を振った。亮の思惑通り、戸川はメニューで甘い物を探している。そんな戸川に興味があるフリをしながら、片耳は瀬崎と平野の話を聞いた。


「あー、やめちゃったんですよねー」


「急だったからさ。俺のアシスタントだったし」


「瀬崎さん何かしちゃったんじゃないですか?」


「冗談やめてよ。でも、無意識の内に冷たくしたり、怒ったりしちゃったかなって結構気にしてたんだ」


「いや、瀬崎さんのせいじゃないと思いますよ。あの人が辞めたのは」


 その何かを知っているかのような口ぶりに、思わず亮は瀬崎の方を見たくなった。きっと、瀬崎も亮と同じ期待を抱いたに違いない。


「え?何か知ってるの?」


 瀬崎の追及が鋭くなった。平野は決して気付いていないだろう。ほんの些細な口調、目、声量、仕草の違いではあるが亮から見れば、明らかに瀬崎はスイッチを入れた。


「いやー。あんまり言える様な事じゃないんですよー」


「え、そんなやばいことなの!?」


「え、いや、そういう訳じゃないかもしれないけど」


「じゃあいいじゃん。どっちにしても金森さんは退職しちゃったんだし。今更やばいも何もないでしょ」


「まぁそうですけどー」


「・・・色恋沙汰でもめたとか?」


 あまりに唐突な質問に亮は危機感すら覚えた。そんなにストレートに聞いて大丈夫なのか、と。


「えー。うーん、まぁそんな感じかなぁ。あ、あくまでも噂ですからね?」


「へえ。確かに本社での社内恋愛は禁じられてるもんね」


「そうなんですよー」


「あ、引っかかった!ということは、金森さんの相手は本社の人なんだ」


「ちょっと瀬崎さんずるいー!」


「えぇ!?本社?誰だろう・・・」


「ちょ、ちょっとはるなさん!」


 ここで戸川が止めに入った。さすがに喋りすぎだと感じたのだろうか。平野よりも酒を飲んでるにも関わらず、あまり酔っ払っている様子はなくまだ冷静だ。


「あ、喋りすぎだよね。危ない危ない。本人の耳に入ったらクビにされちゃうよ」


 せっかくいい感じで喋っていた平野もこれで口を閉じてしまった。


「いや、本社の人間で社内恋愛・・・しかも、本人にバレたらクビってことは・・・それなりの権力のある人物・・・」


 わざとらしく瀬崎が考えている事を口に出す。それを面白そうに平野が突っ込み、茶々を入れる。


「不倫か」


 そう発した瀬崎の目は平野ではなく、戸川を見ていた。亮もその瀬崎の目を追って戸川を見ると、明らかな動揺があった。

 瀬崎の狙いは最初から平野ではなく、戸川だったのだ。案の定、平野はさっきと表情を変えずにただニコニコしている。これでは裏の表情は読み取れない。確かに、平野は口が軽い所はあったが、瀬崎が何を聞こうとしていて、何が話の肝なのか、何を口外してはいけないのか、彼女は最初からそれを分かっていて、瀬崎とのやり取りを楽しんでいたのだろうか。

 そんな平野を心配していた戸川は亮の目から見れば冷静だったが、瀬崎からしてみればこの一連の会話に対してあまりに無防備だった。

 戸川にとってはピンチになった相方を助ける為にリングに上がった途端に、敵の渾身のカウンターを喰らった形だろう。それがあの逃れようのない表情だったのだ。


「金森さんの相手は・・・・平沼部長、かな?」


 瀬崎にそう問われた戸川の表情は答えは言わずとも顔に書いてあると言わんばかりだった。

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