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嫉妬の連鎖  作者: ますざわ
第4章 操り人形
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10

 翌朝、瀬崎の目覚めは最悪だった。檜山探偵事務所のあるビルからこっそりと抜け出し、人目のつかない路地裏で亮と様子を窺った。

 瀬崎と亮がビルから出て十数分が過ぎた頃、パトカーがやってきた。パトカーがビルの前で止まると、その騒ぎを聞きつけた野次馬達が集まってくる。あっという間にパトカー、野次馬の数が増え、周辺は大騒ぎとなっていた。その騒ぎの隙に乗じて、瀬崎は亮と周辺を脱出した。

 手分けして家族を中心に電話を架けて安否確認をして、全員が無事である事を確認した。

 

 瀬崎と、亮は二人の死体をまじまじと見ていないまでも、部屋に入った時のあの異臭と初めて見る激しく取り乱した浩平の姿、そして、何より檜山と桜川が殺されたという事実のショックが大きすぎた。


「亮、しばらく行動を共にしよう。兄貴の言う通り、本当に俺やお前が狙われてるならばらばらになるのは得策じゃない」

 瀬崎はそう言って、亮を家に泊めた。


 そんな夜が明けたところで瀬崎の迎えた朝が清々しい訳ではなかった。昨日の事件が取り上げられているだろうと思って、瀬崎はすぐにテレビを点けた。リモコンでいくつかチャンネルを回すと、見覚えのあるビルが映し出された。


「昨晩、横浜市西区のビル内で殺人事件が発生しました。遺体として発見されたのは、当ビルで探偵事務所を経営していた檜山誠二さん、また、身元不明の男性一名です。二人は鈍器のような物で複数回殴られた形跡があり、警察は被害者一名の身元確認と共に、殺人事件として捜査を進めています」


「これだけの事件だもんね」


 瀬崎が振り向くと、亮が瀬崎の後ろに立っていた。顔には疲れの色が目立っており、亮も瀬崎同様、あの事件の後では一晩休んだくらいでは足りなかったようだ。


「今日にでも兄貴は解放されるだろう。別れ際、ああ言ってた訳だし、兄貴も弁護士だからな、それなりに時間は稼いでくれると思う」


「でも、この先どうするの?」


 その疑問が瀬崎に重くのしかかる。


「どうするも何も、これまでと変わらないさ」


「金森愛を追い続けるの?」


 本当にこのままでいいのだろうか。この二件の殺人事件に加え、これまでのストーカー、脅迫行為。これ以上、自分達が動けば、家族、仲間の身を危険にさらす事になるのではないだろうか。


「正直・・・迷ってる」


 瀬崎は言った。


「事の発端を作った俺がこんな事を言ったら、犠牲になった三人には申し訳なくて言葉も無いが、こんな大きな事件に発展するだなんて夢にも思ってなかったんだ」


 瀬崎はテレビを消し、その場にへたり込んだ。


「確かにきっかけは兄貴だけど、兄貴だって被害者なんだ。犠牲になった三人も兄貴の事を恨んでなんかいないよ」


「三人も犠牲になってるんだ。いくらなんでもそういう訳にはいかない。午後になったら兄貴を迎えがてら、警察に行こう」


「え?」


「警察に全部話そう。もう俺達の手には負えない」


 瀬崎がそう言うと、亮は何も言わなかった。亮自身、恐らく恐怖で溢れているのだろう。でも、亮の性格上そんな事を瀬崎に言う筈が無かった。


 どんな状況であれ、時間が経てば腹は減る。瀬崎は棚にしまってあったカップ麺を二つ取り出し、ポットのスイッチを押した。


「そういえばさ、兄貴が言ってた話って何だったの?」


 突然、亮が言った。飯田の恋人、由香の家を出た後に瀬崎が亮に匂わせた話だ。


「ああ。今となってはもう意味ねえさ」


「だったら、余計教えてよ。これだけ謎だらけだったこの事件に少しでも光が見えたんだから。あの写真と、中山の名刺を命懸けで俺達に託した飯田の為にも俺にはそれを知る権利があると思う」


 亮が瀬崎にここまで強く主張した事は今までなかった。瀬崎はそれに驚いたが、亮の話も正論なので、話す事にした。


「あの写真さ。俺の分析であの写真は金森愛が作ったものではない、というのは話したろ?」


「うん。それで兄貴は有川保が作ったんじゃないかって」


「そう。ただ、有川の事は少し置いておいてくれ。もう一人、あの写真を作った可能性のある人間がいたんだ」


「え!?」


「俺の上司、平沼部長だ」


 聞き慣れない名前に亮は顔を歪めた。当然だ。平沼はこの一連の事件には無関係だった筈で、名前を出す機会などなかったのだから。


「平沼部長は俺が金森愛をフった翌日、俺を呼び出して、俺と金森愛の仲を追求した。その時、確かに違和感は感じていたんだ。正社員で会社に貢献している俺よりも、単なる事務員の金森愛の話を全面的に信用してるんだからな。

 ただ、その時はその違和感よりも俺が金森愛と何ら関係ない事を弁明するのに必死だった。まさかあの女が会社を通してまで俺に復讐を企ててるとはその時は微塵にも思ってなかったからな」


「なるほど」


 亮が食い入るように話を聞いている。


「その時に平沼部長が出してきたのが、例の写真だ。だが、あの写真は俺がその場で上半身を見せ、合成写真である事を証明した。平沼部長はそれでようやく俺を信用し、その件では不問になった筈だった」


「そうか。でも、何故か兄貴は今度の役員会にかけられる」


「そうだ。あれだけきちんと証明したのに何故まだ俺の進退に拘るのか、それが不思議で仕方なかった。結局、俺が弁明の機会を作って、役員全員に上半身を見せれば、合成写真だった事はすぐにバレる話なんだからな。だが、平沼部長が写真を作った人間だと言うなら話は違ってくる」


「ま、まさか」


「気付いたか?そう。また作り直せばいいんだ。あれだけの緻密な作業をたった一日で仕上げた人物だ。筋肉質な俺の体型と似たモデルを探し、傷跡はそれなりの加工をすればいい。勿論、傷跡の大きさや場所、そんなものは大体でいい。見る人にとってはそんな細かい話より、傷跡があるって事の方が印象に残り易いからな」


「そうか、傷跡が逆に足を引っ張るのか・・・。でも、何でその上司がそこまでして兄貴を?」


「さあな。その辺は全く分からん。金森愛や有川保がそこにどう絡んでくるのかもわかんねえしな。ただ、もしその仮説が当たっているなら金森愛や有川保と違って、平沼部長は今も会社に籍を置くサラリーマンだ。住所だって調べられえる。役員会まで残り六日。未だに尻尾が掴めない金森愛や有川保を追い続けるより、一か八かでも平沼部長から攻めた方が収穫がありそうだ。とまぁ、これが俺のアイデアだった。檜山さんみたいなプロがいれば、すぐにでも洗えたと思ったんだがな」


「やろう」


「え?」


「やろう兄貴!その平沼って上司、俺達で洗おう!」


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