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嫉妬の連鎖  作者: ますざわ
第4章 操り人形
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8

 こんな時間にわざわざ集まるくらいだ。それなりに意味のある話が聞けるのだろうか。浩平は一日の業務を終え、檜山、桜川、そして準平が来るのを待っていた。

 この一連の事件のせいで、最近美鈴が準平をあまり良く思っていない。確かにきっかけは準平に原因があるのに間違いないが、今回ばかりは相手が悪過ぎただけで、仕方ないとしか言えないのだ。

 そんな事を憂いながら待っていると、一番最初に事務所にやって来たのは意外な男だった。


「亮!?」


「ご無沙汰です。浩平さん」


 準平と亮が非常に仲が良いのは知っていたが、浩平は亮の事をあまり好きではなかった。というよりも、亮の存在を見下していた。住む世界が違う人間であると。


「兄貴、あ、いや準平さんに言われて」


「そういや、今回の準平の件、亮も動いてくれてるんだって?」


「ええ、まぁ」


「そうか。準平が亮をここに寄越したって事は亮にとっても重要な話なんだろう。まだ誰も来てはいないが、入ってくれ」


 そう言って浩平は亮を事務所内に招き入れた。亮がこの事務所に来るのは久しぶりだ。父も、母も何故か亮の事を不思議なくらい可愛がるのだが、事務所内にだけは入れた事がなかった。

 挙動不審の様に事務所内をキョロキョロする亮。そんな亮を見て、優越感に浸るどころか、亮の発する劣等感に吐き気すらする。どうしてこいつはこんなにも典型的な敗北者なんだろう。浩平の中では亮は人生における敗北者の代名詞的な存在だった。

 幸いにも浩平の部屋に入れると同時に準平がやってきた。恐らく亮もそうだろうが、二人きりになったところで何を話す訳でもない空気が苦痛だったのだ。


「亮、早かったんだな」


 準平の顔は心無しか少し明るく見えた。やはり檜山達の情報に期待をしているのは自分だけではないようだ。


「そっちは何か進展はあったのか?」


 世間話ついでに浩平は聞いた。


「まぁね」


 浩平にとっては意外な回答だった。


「え?」


「いや、こないだの事件で亡くなった飯田君。彼に恋人がいてさ、亮に連絡が入ったんだ」


「ほう」


「まぁ詳しい内容は後でみんなが集まった時に話すけどさ、ほんの少し光が差してきたような気がするよ」


「ん、もう会ってきたのか?」


「ああ、ついさっきまでね。亮と一緒に」


「さっき?じゃあ何でお前達一緒に来なかったんだ?」


「あぁ、いや、ちょっと俺に野暮用があってさ。ところで、檜山さん達遅いね」


 そう言われて時計を見ると、既に約束の時間から十分以上が経過していた。普段、時間に正確な男が連絡も無く遅刻をしたことなど過去一度もなかった。


「そう言われてみれば珍しいな。十五分まで待っても来なかったら連絡してみよう」


 しかし、十五分経っても檜山は来る事もなければ、電話の一本もなかった。


「電話してみるか」


 そう言って、浩平は携帯電話を取り出して檜山の携帯電話へ電話を架けた。しかし、出ずに留守番電話に切り替わってしまった。


「変だな」


「何かあったのかな」


 亮が気味の悪い事を言う。飯田の死が、亮に死を身近にさせたのだろう。


「準平、そういえば檜山さんから電話が来たんだろ?その携帯番号教えてくれ。もしかしたら二台持ってるのかもしれない」


「ああ、ちょっと待って」


 準平が携帯電話を取り出す。


「えーっと、これか。03-3569-××××」


 浩平は違和感を感じた。


「もう一回」


「うん。03-3569」


「ちょっと待て!」


 浩平が急に声を上げたので、場の空気が張り詰めた。


「なんだよ、兄貴」


「準平、その番号、確かに檜山さんからか?」


「え?ちょっと待てよ・・・・・うん、間違いないけど」


 浩平の視界が一気にぼやける。嫌な予感がして仕方が無い。


「なんだよ兄貴。それが何なんだよ」


 準平が何も知らず、不機嫌そうな声を出す。






「檜山さんの事務所は横浜だ。市外局番が03からの電話なら檜山さんの事務所からの電話じゃない」


「え!?」


「準平」


「・・・」


「聞くが、その電話。本当に檜山さんだったんだろうな?」


 準平は一度しか檜山と会っていない。それに檜山と話したのもほんの数十分だ。声が明らかに違う場合でなければ、檜山だ、と名乗られたら簡単に欺かれてしまうのではないだろうか。

 そして、その指摘が図星であることは準平の顔を見れば明らかだった。

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