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亮が瀬崎が手に持つ写真を覗き込んで声を上げた。
「え!?」
瀬崎も頭が混乱している。この一連の騒動の発端となった瀬崎と金森愛が裸で抱き合い、笑顔でレンズに目を向けている写真。瀬崎自身、身に覚えが無く、これは金森愛が作った合成写真だという事が分かった。その写真が印刷された紙がこの場に全部で七枚ある。全て同じ写真だ。
「気味が悪いな」
そう言って、瀬崎は亮にその紙を渡した。
「何で飯田がこの写真を?」
亮が聞く。
「俺が聞きたいくらいだよ」
瀬崎は頭を整理したくて煙草に火を点けようとしたが、ここが由香の部屋だと気付いて舌打ちをして煙草をケースに戻した。亮が床にその写真を一枚ずつ並べる。
自分と金森愛が七人。偽者とはいえ、顔は自分だ。気味が悪い。
「確かにこれは兄貴の体じゃないやな」
話は聞いていたが、実際に亮が写真を見たのは初めてだ。そして、ゴールデンウィークに亮と二人でスーパー銭湯に行った事も思い出した。
「兄貴、これって・・・」
そう言って、亮が写真をじっと見る。
「何かあるのか?」
「いや、これ一枚一枚、全部違うよ」
「え?」
亮にそう言われ、瀬崎は写真を一枚一枚見比べた。瀬崎の顔と、偽者の体の合成部分に少しズレがある。また、顔と体の色の違いが不自然なものもある。瀬崎の頭の大きさが不自然だ。
確かに、非常に些細な箇所ではあるが、一枚一枚、微妙な違いが確かにあった。
「つまり、製作過程ってわけか」
「製作過程?」
「当然の話だが、この合成写真はコンピュータで作られたものだ。こういう細かいものっていうのはさパソコンで見ている時と、実際に印刷したものでは全体の印象や色の具合、そういうものが微妙に異なるだろ?」
「ああ!確かに」
「つまり、これはその製作過程の紙なのさ。印刷しては細部を確認し、修正を加える。その繰り返しで生まれた作品だ」
「何故、飯田が?」
「その答えはまだ分からないな。だが、一つの可能性が俺の中で芽生えてきた」
「可能性?」
最初に、会社で初めてこの写真を平沼に見せられた時から違和感は感じていた。
今では犯罪者と被害者の関係となった瀬崎と金森愛ではあるが、あの日まで少なくとも金森愛が瀬崎に好意を抱いていたのは間違いなかった。そして、瀬崎にとっては高飛車で感情的な、最も苦手とする女性の典型的な性格を持つ金森愛という好都合なサンプル。
金森愛の感情、愛情が強くなりすぎて、コントロールが効かなくなり、やむなく彼女を捨てたあの日まで瀬崎はコントロールは出来ないまでも、金森愛の心は正確に読めていた筈だ。
金森愛は感情的で直情的。その彼女の性格は瀬崎でなくとも共通の認識を持つ事が出来る筈だ。それくらい金森愛は分かり易い。
写真を見た時の違和感。金森愛はこんな遠回りな復讐をするだろうか。この違和感がずっと引っ掛かっていた。
そして、この製作過程を表す写真を見て、瀬崎は確信した。
「証拠がある訳でもなんでもないが・・・」
「え?」
「この写真は金森愛が作ったものではなかったんだ」