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嫉妬の連鎖  作者: ますざわ
第3章 絡み合う思惑
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15

「飯田君は、有川とつるんでいた・・・ということですか?」


 瀬崎が聞いた。さすがにそれが事実というのは堪える。


「いや、そういう訳ではないと思います。といっても、つい先程までは私もそう思っていましたが」


「と言いますと?」


「飯田さんも有川に騙されていた可能性が高いです。有川はさっき話した通り、中山と名乗り、整形手術によって顔を変えていました。飯田さんは有川、または金森愛を捜索する為に、自身のルートを探ったんでしょう。調査によると、飯田さん自身もいわゆる一般人ではないようですが?」


 桜川が瀬崎に聞いた。答えを既に知っている聞き方だ。


「ええ、そうですね。私も詳しくは知りませんが友人からそんな話を聞いていました」


「そのルートで辿り着いたのが中山なのでしょう。これが有川の罠だと気付かず、飯田さんは中山と名乗る有川に、有川の事を聞き込みしてしまったのです」


「そんな偶然あり得ますかね?」


 浩平が言う。


「そんなに非現実的な確率でもないと思いますよ。有川や金森の関係するEDEN関係者、またはその存在を知ってる人から絞り込んでいけばそう難しい話ではないと思います」


 浩平の言う理屈も理解出来る。確率論で言えば不自然な出来事であるようにも見える。ただ、桜川の話にも説得力がある。何より、桜川が飯田と金森愛の繋がりを知っていたことがそれを裏付けるものとなっている。


「まぁこれは推測ですが、中山は飯田さんに有川保の事を知っているとでも言ったのでしょう。そして、情報を教えるから呼び出され、殺害された。恐らく、昨日の事件にはこういう背景があると思います」


 桜川の話に檜山が深く頷く。


「非常に悪質ですし、とても同じ人間のやる事とは思えませんが、私も桜川君の推測に同意しています。ところで、こちらからも質問させて頂きたいのですが、準平さんはどうして飯田さんが殺害されたことを?」


 瀬崎は昨日の出来事を話した。ただ、檜山と桜川をまだ完全に信用している訳ではないので亮を友人とだけ称し、西川に関してはその存在すらも隠した。勿論、新宿のマンションを調べ上げた方法に関しても濁した。

 昨日、マンションに置かれた瀬崎の名前の入った封筒と、その中に入っていた飯田の遺体が写された写真を二人に見せた。


「これはひどい」


 二人の顔色が変わる。当然だ。檜山の言う通り、これはもう同じ人間の所業とは思えない。


「準平さん、何故あなたここまで恨まれてるんです?」


 檜山が突然言った。


「いや、だっておかしいでしょう。瀬崎先生からはあなたは金森愛と何ら後ろめたい関係になかった、と聞いています。ですが、彼女の行動はいわゆるストーカー行為というものとは一線を画している。そして、極めつけは殺人ですよ?この犯人が金森愛と決まった訳じゃないが、少なくとも何らかの関わりはあると考えたほうが自然だ」


 確かに檜山の言う通りだ。客観的に見ても、これは単なるストーカーではない。


「はっきり言います。金森愛はあなたを狙っている。次にこうなるのはあなたかもしれないんですよ」


 檜山が興奮したように言った。


「まぁ檜山さん。被害者である瀬崎さんにそう言っても仕方ないじゃないですか」


 桜川が興奮した檜山を止めた。


「失礼。でも、瀬崎先生が今日私をここに呼んだと言うのは、あなたはまだ警察ではなく、自力で解決しようと考えているからなのでは?」


 なかなか頭の回転の早い男だ。瀬崎は感心した。浩平が檜山を信頼してる事に一つ納得がいった。


「仰るとおりです。そして、兄にも同様の警告は受けました。しかし、この犯人がもし金森愛じゃなかったら?金森愛が逮捕されても刑罰を受ける可能性は?そして、金森愛が刑罰を受けたとしても釈放後は?彼女が何故私にここまでの仕打ちをするのか、私にも分かりません。ですから、それを直接私が知り得なければ私の平穏生活は戻って来ないと考えています」


「それは、確かに」


「危険な事は承知の上です。ですが、警察に任せきりで、ただ待つ、ただ構える、だけでは不安なんです」


 瀬崎の言葉に場は沈黙した。浩平や檜山の言っている事は正論である事は間違いない。ただ、それはあくまで当事者ではない第三者の意見。当事者である瀬崎が彼等と違う意見を持つのはごく自然な事だ。


「今回、あなたが持っているその封筒と写真、それは警察へ提供は?」


「率直に言うと、現時点では提供する気はありません。これがどういう事か承知していますが、これを提供すれば私は全てを警察に話さなければいけなくなります。そうなれば私の周りを警察が離れる事はなくなるでしょう。それでは私の目的は達せられない。警察が捜査で私の存在に辿り着けば、拒否はしませんが、自ら提供するということはしません」


「証拠隠匿になるかもしれんのだぞ?」


 浩平が念を押す。ただ、さっきまでの強い浩平ではない。浩平は自分の考えを充分に理解してくれていると感じた。


「分かってる。勿論、金森愛が見つかって無事に解決するなり、この殺人事件と金森愛が無関係だと分かれば、警察へ提供はするさ。その際に俺が何らかの罪に問われるというなら、それは甘んじて受け入れる覚悟は出来てる」

 

 浩平はもう何も言わなかった。


「いずれにしろ、殺人事件です。しかも、とてつもなく悪意に満ち溢れた事件だ。警察もかなりの人員を割いて、大掛かりな捜査になるでしょう。日本の警察は優秀です。あなたの名前が挙がるまであまり時間はありませんよ?」


 檜山が聞く。


「ええ。でも、出来る限りの事はやりたいんです」


「そうですか」


 そう言って檜山は席を立った。


「それなら私達も急いで情報を集めなければいけませんね。何せ警察と競争しようって言うのですから。足取りを追うのは桜川君に任せてもいいですか?」


「ええ、勿論。一度足を踏み入れたんですから私も最後までお付き合いします」


 桜川もそう言って微笑み、席を立った。


「それでは私は金森愛の動機に焦点を絞って調べてみます。ストーカー行為に至る動機は対象者への恋愛感情ですが、この事件に関しては恋愛感情が動機というのは頷けない。金森愛は瀬崎準平さんに間違いなく憎悪と呼べる程の悪意を持っているとしか考えられない。その線で調べていけば何かが見つかるかもしれません」


「確かに檜山さんの仰る通りですね。何故、金森愛はここまでするのか、それを調べる。もしかしたらそれは一番の近道であるかもしれない」


 浩平が檜山の意見に賛同した。瀬崎もそれに同調し、二人に対して深く頭を下げた。

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