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嫉妬の連鎖  作者: ますざわ
第3章 絡み合う思惑
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14

 浩平が電話をかけてから三十分程で二人の男がやってきた。瀬崎も初めて見る顔だ。男は名刺を瀬崎に渡した。


檜山探偵事務所

所長 檜山誠二


「探偵、ですか」


 瀬崎には探偵という職業に馴染みがなかった。あまり実態が掴めない仕事なので、胡散臭いとすら思っていた。そういう人間と、浩平が付き合い、しかもこの様な厄介な事案を相談する程に信頼しているというのは意外だった。


「そちらの方は?」


 浩平が言った。浩平ももう一人の男を知らなかったようだ。檜山と名乗る探偵の後ろに男がもう一人立っている。


「彼は私の協力者、とでも言いましょうか。情報収集に協力して貰うことが多いんですよ。桜川と言います」


「桜川です。よろしくお願いします」


 年は瀬崎より少し上だろうか。いい年して髪の毛を染めていたり、一見チャラチャラした雰囲気こそあるが、その声とその表情は爽やかな印象を与え、人当たりが良さそうな人物だ。桜川は浩平と瀬崎に挨拶をした。


「どうぞ掛けて下さい」


 檜山と桜川はソファに並んで座り、浩平と瀬崎も向かいのソファに座った。


「実は今日はこの一連の騒動の当事者である弟を檜山さんに紹介したくてね」


「そうですね。私も直接お話をお伺いしてみたかった」


「すみません、実はついさっき兄から檜山さんの事を伺ったばかりで」


「いえいえ。瀬崎先生は優秀な弁護士さんですからね。いくら弟さんの事とはいえ、先生一人で色々と動き回るお時間がないものですから。こうして時間がかかる調査や、厄介な事件の時には先生にお仕事を頂いてるんですよ」


 檜山も非常に人当たりのいい男だった。瀬崎は初対面の人間に対しては、特に神経を研ぎ澄ませる。その言動、行動、そして仕草に至るまで。全てを洞察する。そして、その人物がどういう人物なのか、瀬崎特有の物差しで計るのだ。


「今回は大変な事件に巻き込まれてるみたいですね」


「檜山さん、その事で進展がありまして」


「飯田基弘さんの事ですか?」


「もうご存知なんですか?」


 浩平が驚いたが、瀬崎も同じだった。朝からニュースや新聞をチェックしていたが、そう大きく取り扱われていなかった。

 結局、飯田の遺体が発見されたのは新大久保駅近くの古い雑居ビルだった。近辺はあまり治安が良くない事と、飯田自身が前科のある人間という事で暴力団絡みか、それに似た集団に関連する事件ではないか、という推測が報道の少なさの原因だろう。


「実は、その情報を持って来てくれたのが彼なんです」


 そう言って檜山は桜川の肩に手を置いた。


「桜川君の情報収集力は私など足元にも及びません」


「いえいえ。たまたま檜山さんからこの騒動の話を聞いて、たまたま警察関係者から昨日の殺人事件の情報を聞いたら、それが繋がった、というだけの事です」


 それにしては出来すぎではないだろうか。瀬崎はそう疑わざるを得なかった。


「実はその飯田さんなんですがね、弟の知人らしいんですよ」


「それは・・・。お悔やみ申し上げます」


「ありがとうございます。実はですね、兄にも先程話したばかりなんですが、今回の騒動で相談をしていたのは兄だけではないんです。古い友人にも相談していました。その友人の友人、というのが飯田君だったんです」


「そうなのですか・・・それはそれは・・・残念です」


 まだ二人の実態が掴めないので、瀬崎は少し様子を探ることにした。


「ところで、桜川さん」


「はい?」


「先程、檜山さんからこの騒動、つまり金森愛の事を聞いて、そして、警察から飯田君の殺人事件を聞いて、それが偶然繋がったんだ、と仰いましたよね?」


「ええ。その通りです」


「何故です?」


 瀬崎を除く、全員が質問の意味を理解しなかったようだ。


「いや、何故繋がったのか、不思議なんです。飯田君の殺人事件が、直接的に金森愛と飯田君が繋げる訳ではないじゃないですか。飯田君の殺人事件で容疑者に金森愛の名前が浮かぶのは、金森愛の調査を依頼している事を知っている人物、つまり私や私の友人以外あり得ないと思うのですが」


 二人は少し驚いたような表情をした。だが、これは何か隠していたり、何かまずい事を見破られた、という表情ではない。


「さすが先生の弟さんですね。実に鋭い」


 檜山は笑ってそう言った。


「飯田さんの遺体が見つかった大久保のビル。かなりの古ビルで、テナントは未許可の風俗店だったり、得体の知れないNPO法人が入ってるビルなんですよ。そのテナントの一つにある男が関わっていると思われるスナックがあったんです」


「ある男?」


「有川保ですよ」


「有川が!?」


 思わず瀬崎は声を上げてしまった。


「いや、正確に言えば中山と名乗る男です」


「どういう意味です?」


「有川保は複数の人間の名前を語っています。私が知ってる限りでは田村、神崎、中山は全て偽名。そして驚くべきは、その都度、顔も変えているということ」


「顔も?」


「ええ。整形手術です。まぁ細部をいじってるだけらしいのですが、それなりに別人に見えるみたいですよ」


 これはまた新しい事実だ。有川は根っからの犯罪者だったのだ。そんな男がどうして真由の勤める予備校などで講師をしていたのか、まるで不思議で仕方がない。


「飯田さんは中山、つまり有川と繋がりを持っていました」


 檜山と桜川が語る新たな真実の連続に瀬崎と浩平はもはや驚きすら示さない。

 飯田は有川と繋がっていた?瀬崎は飯田と会った時のことや、亮から聞いた話を猛スピードで振り返っていた。

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