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嫉妬の連鎖  作者: ますざわ
第3章 絡み合う思惑
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 約束の時間より大分早く着いてしまった。今日のこれからの事を考えると、表現出来ない感情が一杯で、仕事が手に付かなかった。落ち着く為に改札口近くの喫茶店に入ったが、時計ばかりを気にして、全く落ち着かなかった。一分置きに時計を見るような落ち着かない行動を繰り返し、ようやく約束の五分前になったので瀬崎は喫茶店を後にした。

 改札口には既に亮が来ていた。亮の顔も明らかに緊張で強張っている。


「西川の車で移動するらしい。駅の反対側のが停めやすいみたいだからそっちに移動しよう」


 駅の反対側の広めの道路沿いに西川はいた。前回はまだ余裕のある表情をしていた彼も、今日は少し緊張しているように見える。


「君も一緒で大丈夫なのか?」


 この前、亮から西川が警察と鉢合わすのを避けていると聞いたので、瀬崎は一応確認した。


「ええ、今日は変装バッチリで行きますから」


 そう言って黒縁眼鏡とニット帽を取り出した。バッチリでも何でもないと思ったが、本人がそれでいいと言うなら何も口出す事はなかった。


「飯田ちゃんにも声掛けだんだけど、今日はちょっと都合悪いらしいんだわ」


「そっか。あいついると心強いんだけどな」


 そう言って西川が運転席に、亮は助手席に座ったので、瀬崎は後部座席に座った。


「場所はどこなんだ?」


 世間話も何もなく、亮が切り出した。


「新宿だよ」


「新宿?」


「ああ。瀬崎さん。彼女、めちゃくちゃ美人じゃないですか」


「世間的に言えばそうかもしれないな」


「兄貴は真由さんと比べるからハードルが高くなるんだよ」


「いや、亮も写真でしか見た事ないんだろ?実物見ると驚くぜ?」


「会ったのか!?」


 思わず声が大きくなってしまった。


「ええ。会って、この目で確認しました。金森愛を」


「どうやって見つけたんだ?」


 亮が聞く。まさか既に接触しているとは瀬崎も思っていなかった。


「EDENはそう簡単に入れる店じゃないんだ。外観からはバーとは分からないし、仮に分かったとしても一見がふらっと立ち入る雰囲気ではない。それにEDENは同業間でもあんまり繋がりがなかったんだ。普通、一般的なバーだったり、飲食店であればその界隈の他店ってのは気になるものだし、それなりに店に顔出して、横の繋がりを持つものなんだよ。それがほとんど無かった」


「なるほど。そこら辺の飲み屋じゃEDENの存在を知るに至らない。いや、そこら辺、というのは言葉が相応しくないかな。優良店、とでも言うべきか?」


「厳しいっすね。ただ、瀬崎さんのイメージの通りです。EDENを知ってるのは裏の人間ばかりです。勿論、営業する為にEDENも表の顔は持っていますが、その表の顔ですらダークな雰囲気はありますから」


「ごめん、ちょっと話が見えないんだけど」


 亮が西川に詳しい説明を求めた。


「つまり、EDENというバーがある、という情報を得るのは普通の方法じゃ無理なんだ。インターネットのグルメサイトに出てる訳でもないし、雑居ビルの地下だから外観からふらっと入れる雰囲気でもないから。だから、金森愛は誰かの紹介でEDENを知り、そして店に来た、というのが予測出来る訳だ」


 長々と話してる訳にもいかないので、瀬崎が代わりに簡単に説明した。西川に目で今の説明が正しいかを一度確認する。西川は黙って頷く。


「そしてポイントになるのが、誰が紹介したかってことだ。EDENは普通の飲食店で噂になるような店ではない。実態は薬物売買を行う場所を兼任してるんだから当然といえば当然だ。つまり、金森愛にEDENを教えたのはEDENの実態を知る、またはそういう噂があるというレベルの話を知っている人物という事になる。

 ずばり誰かといえば、EDENの関係者か、店の常連の線が強い。まぁ完全に噂レベルで耳にしたという事も考えられるが、薬物が絡むような噂のある店に女一人で入っていくってのは考えにくいだろ」


 西川が苦笑いをする。これからそれを説明しようと思ってたのに、という顔だ。ここまで来たら最後まで説明させてもらおう。


「そして当然そういう店だ。店に顔を出す人間はそう多くはないだろう。西川君は恐らくEDENの元関係者、またはかつての利用客がEDEN以外によく出入りする店を張っていたんだろう。そこに金森愛が現れる可能性は限りなく高いからな」


「そういう事です。EDENのような店に関わっている人物は必ず他にもカムフラージュとして常連店を作っています。そしてそういう人物が利用する店というのはイメージもEDENと似ているはず。EDENの常連だった客が一方で大衆居酒屋ばかりに通っていたというのは浮きますからね。印象的に。

 残念ながらEDENの関係者はほぼ全員行方不明でした。恐らく、遠くへ逃げたか、逮捕されたんでしょう。でも、客はまだ大分残ってましたから新宿、渋谷を中心に友人に協力して張り込みしてたんです」


 実に理にかなった捜索方法だと感心した。西川は飲食店に勤めながら、薬物売買をしていると聞いたが、この頭脳を活かしきれていないのは勿体無いと感じた。


「時間は思ったよりかかりましたが、金森愛の知人や友人と知り合うより前に、金森愛自身と会えたのはラッキーでした。まさかストーカーをするような女には見えませんでしたけどね。明るくてノリが良くて、それでいて超がつくほどの美人」


「俺だって最初はそう思っていたさ」


 瀬崎は苦笑いをするしかなかった。


「でも、やっぱり普通の女じゃないみたいですね。俺が金森愛と会った店もあんまり評判良くない所なんですよ。何か歌舞伎町界隈でヤバイ事やってる連中の溜まり場みたいな所でね。そんな所に一人で来てたくらいですから」


「一人?」


「ええ。一人でしたよ。まぁ店内に知り合いは何人かいたようだし、あのルックスじゃ周りも放っておかないですからね。代わる代わる人は集まってたみたいですけど」


 金森愛は想像していたよりもずっと黒い背景を持っているのだろうか。


「それでどうやって金森愛の居場所を?」


「持ち前の話術ですよ」


 西川が冗談ぽく、だが、自信満々に言った。


「簡単でした。金森愛は最近友人の家で生活しているらしいんです。その友人ってのも途中からその場に現れたんですよ。金森愛に対してはいくら酒が入ってるからって、居場所なんて聞いたら警戒されるだろうから無理出来なかったけど、その友人の子はすんなりと教えてくれましたよ」


「ただの尻軽だな」


 亮が呆れて言った。


「その情報は確実なんだね?」


 念の為、再度確認した。万が一、友達の所で生活しているという情報が嘘だったら、その友達の教えてくれた住所がデタラメだったら、そういう可能性もゼロではない。


「その確認を昨日しに行ったんです。五時間位かな?ずっと近くで見張ってたんですよ。そこでその友人が出てきたのは確認しました。ただ、金森愛本人は確認出来てません。その前に警察と鉢合わせてしまったので。その友人が話していた金森愛が自宅で居候している、というのが嘘であるという可能性は捨て切れませんが」


「いや、それでもその友人とやらが今も金森愛と接点を持ってる可能性は高い」


 瀬崎のその一言で全員の意志が一つにまとまり、そして、全員がそれに覚悟を決めたように顔を見合わせた。

 西川が無言で前を向いて、車のエンジンをかけた。




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