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嫉妬の連鎖  作者: ますざわ
第3章 絡み合う思惑
26/89

3

「薬物の特徴やその希少性の高さについてはよく分かった。でも、それが俺にはまだ金森愛の危険度とは繋がらないんだが」

 瀬崎が最もな疑問を口にした。この程度の疑問にも気付かなかった自分はこの状況に相当混乱しているのか、と亮は自分を情けなく思った。

「クリスタルは国内ではEDENの専売特許状態でした。でも、そんな事を他の関係者が黙ってずっと見てるほどこの業界は甘い世界じゃありません。事実、表ではクリスタルとの関連は報じられていませんが、クリスタル絡みでEDEN関係者や客が殺された事件は何件か発生しています」

「いや、それなら別に金森愛の存在が兄貴や俺達に危険なんじゃなくて金森愛自身が危険なんじゃないのか?」

「確かにそれもある。仮に金森愛がクリスタルと絡みがあるのであれば、あの女の身が危険なのは事実だ。しかし、それはつまり、あいつの周りに危険をもたらす人物がウロウロしているということ。何も知らない俺達が近づくことも危険じゃないか、ってことだろ?西川君」

「はい。その通りです」

 ふと、飯田の顔を見ると、飯田の目も瀬崎を見ている。彼も彼なりに、瀬崎の理解力、分析力の高さを感じているのかもしれない。

「とにかく、金森愛に関してはまだまだ調査が必要みたいですね。EDEN絡みの情報は俺に任せて下さい。もう少し時間が必要ですが」

「ありがとう。心強いよ。気にしないで飲んでくれよ。亮も、君も」

 そう言って瀬崎は三人に酒を勧めた。確かに、店に入って以来、ビール一杯とミックスナッツしかオーダーしていなかった。亮はメニューを飯田に渡し、適当にオーダーしてくれ、と伝えた。亮、飯田、西川にはビールのお代わりを。瀬崎には芋焼酎のロックをオーダーした。

「瀬崎さん、今日わざわざ来て貰ったのはこの話だけの為じゃありません」

 新しいビールを目の前にして、西川は言った。

「有川保についてです」

「そっちでも何か分かったのか?」

「有川には裏の顔があるんすよ」

 言ったのは飯田。そう、有川の事が明らかになってきたのは飯田のおかげだった。

「亮から聞いてるか知れないすけど、俺は昔、傷害で捕まってるんすよ。何年かムショにいて、出所してすぐに昔の仲間と集まったんです。そん時、俺はあるグループに所属してたんすけど、その頭張ってる奴がえらい羽振り良くなってたんすよ」

 普段あまり喋らない男なので、言葉を選びつつ、ゆっくりと話し始める。瀬崎は飯田のだらだらと喋る口調に少し不愉快な顔をしている。

「そいつに何でそんな羽振りが急に良くなったか聞いたら、そいつの女が金ヅルを見つけたって言うんです。女がその金ヅルを騙して、恋人を演じ、金を引っ張ってたんすよ。実物を見た訳じゃないけど、クレジットカードを一枚貰ってるって言ってました」

「時代錯誤な話だよな」

 西川が鼻で笑って、ビールを一口飲む。瀬崎は食い入るように話を聞いている。

「ある日、女が泣き付いてきたんすよ。その金ヅルに騙している事がバレそうだって。送られてきてるメールとかも見たんすけど、かなりヤバイ内容でした。第三者の俺は能天気にこれがストーカーか、って思いましたね」

 亮はピンと来た。その金ヅルが有川保なのでは、と。瀬崎は相変わらず表情一つ変えず、じっと話に耳を傾けている。もしかして、瀬崎はまだ気付いてないのか。少し優越感に浸った。

「だから、女に金ヅルを呼び出させて、少し脅かそうって話になったんです。まぁ今思えば、散々騙しといて本当の事がバレそうだから脅すってのも無茶苦茶すけどね。金ヅルはあっさりと現れましたよ。俺らに取り囲まれて滅茶苦茶びびってたな。一通り脅かして、最後に今後女に近付けさせない為だって言って、そいつの免許証取り上げたんすよ」

「名前は?」

 瀬崎がすぐに突っ込んだ。

「昔の事なんで下の名前は忘れたけど、苗字は神崎。しばらくは仲間内で神崎の事をネタにしてたんで苗字は間違いないっす」

 それを聞いて、亮は「その金ヅルが有川保か?」と口にしなくて本当に良かったと思った。しかし、瀬崎が言った。

「そいつが有川か」

 亮は勿論、飯田も西川も驚いている。それはそうだ、今、飯田の口からその男は神埼という名だと聞いたばかりだ。

「よく分かりましたね。そうっす。神崎と名乗った、いや、免許証にすらそう書いてあった男は、本当は有川保だったんすよ。この前、亮に有川の顔写真見せて貰ってずっと引っ掛かってた。どっかで見た事あると。でも、亮から見せて貰ったのは履歴書の写真だから自信はなかった。何より俺が神崎って男に会ったのは何年も前っすからね。まぁそれを一昨日、こいつにぽろっと喋ったんすよ」

 そう言って飯田は顎で西川をさした。飯田と西川が一昨日そんな話をしてたなんて、亮も聞いていなかった話なので驚いた。

「いや、最初はピンとは来なかったですよ。履歴書の写真だったし。でも、飯田に聞いた神崎って名前で思い出したんすよ、俺も何回か会った事が会ったんです」

「EDENか?」

「・・・すごいっすね、さっきから。その通りです。有川は神崎という名で昔EDENに勤めてたんです」

 衝撃が走った。こんな短期間で、金森愛と有川保に謎の接点が発覚し、それを発覚させたのは奇しくも自分の友人の西川と飯田だった。これを単なる偶然と片付けていいのか、それくらい不思議な話だ。

「なるほど。そんな所で二人が繋がるのか。まあ繋がると言っても、一人はEDENの関係者、一人は客。どこまで繋がりがあるのかは謎だし、そもそも接点はないかもしれないが、もう少し調べる価値はありそうだ」

「勿論です。引き続き、調べてみますよ」

「ありがとう二人とも。恩に着るよ。無事に解決できたら最高の酒をご馳走させて貰うよ」

 おぉ、と西川が喜び、少し場が和んだような気がした。ただ一人、飯田だけは笑っておらず、亮は気になった。

「もし、瀬崎さんが有川にまで狙われてるなら気を付けた方がいいすよ」

 飯田のこの発言で少し和んだ空気が再び一変した。

「どういう事?」

「話戻りますけど、俺らが神崎こと有川から免許証を奪って何ヶ月か経った頃っすかね。グループの頭から神崎を金ヅルにしてた女と別れたって話を聞いたんすよ」

 飯田の目が泳ぐ。そしておもむろに自分の携帯電話を取り出した。

「だから俺、そいつにメールしたんです。何かあったのかな、と思って。返ってきたメールがこれっす」

 そう言いながら携帯電話の画面をテーブルの真ん中に置いた。亮はそれを取って、三人に見えるよように画面をかざした。

<別れたって言うより、連絡取れなくなっちまったんだよ。特に何かしたっていう心当たりはないんだけどな。本当は明日も旅行行く約束してたんだよ。何かあったのかな・・・>

「それ以降も一度も連絡は取れてないらしいっす。今も」

 さすがの亮もこの話が何を意味しているのか、すぐに理解し、同時に背筋に寒気が走った。

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