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嫉妬の連鎖  作者: ますざわ
第3章 絡み合う思惑
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1

 あれから一週間が経った。この残暑も来週一杯だと天気予報は言っている。そんな事に頭が回るくらい、この一週間は良くも悪くも、平和だった。

 浩平からは昨日電話があった。金森愛の住民票は移転の手続はしておらず、亮が調査をしたマンションにまだ住民登録があった。従って、書面上で金森愛を追う事は不可能だと言われた。瀬崎からしてみれば、金森愛は犯罪者同然であるし、わざわざ自分の行き先を知らせるように住民票の移転手続などする訳もないとは思っていたのだが。浩平は現状では打つ手がないような事を言っていたが、自身に火の粉が降りかかる可能性のあるこの状況で、あの浩平がそうすんなりと諦める訳はないと瀬崎は考えていたので、あまり急かすことなく様子を見ることにした。

 亮に関しては、EDENや薬物取引に詳しい飯田、西川という友人から瀬崎が直接話を聞く機会を作ったとの報告を受けた。何か有力な情報があったのかと期待をしたが、電話口で亮は黙り込んだ。答えを聞かなくても、その反応が瀬崎の期待に反する事は理解出来る。それどころか、内容を電話では詳しく言えない、わざわざ亮の友人二人と会ってまで話をしたいと言っている。つまり、瀬崎にとって状況を悪化させるような情報を入手したのだろう。とりあえずは、今夜九時に瀬崎と亮がよく通う例のバーに集合となった。

 一方、瀬崎自身の動きとしても、金森愛や有川保から新しい動きがあった訳でもなく、真由を実家に帰した意味があったのか、と思うほどであった。仕事についても、先日商談をしたIT企業、株式会社スターワークから、自社ビル建設の案件を正式に全日本不動産にお願いしたいと連絡を受けた。用地探しから建築まで、全てを全日本不動産が引き受けるとなると、会社には莫大な利益が入る。瀬崎にとっては、また社内で株を上げる案件となったのだ。

 この日、瀬崎はスターワークに複数のビル建築用地を提案した。どれも甲乙付け難い、と社長の小山が贅沢な悩みを笑いながらこぼす。長居をしても余計に小山を混乱させると判断した瀬崎は、一週間の時間を空けて再度訪問すると伝え、同社を出た。

 時間は午後七時。亮との約束の時間まであと二時間。明日は休みだし、一人で先に飲んでいようかとも思ったが、変に酒が回って話が頭に入らなくても困るので、帰ってシャワーを浴びることにした。目黒駅に着いてから、家に帰るまで、瀬崎は真由に電話をした。

「そっちはどう?」

 最近、真由は電話をする度にこう聞いてくる。きっと、何事もないのなら早くこっちに帰って来たいということだろう。

「何かをされたってことはないよ。今の所はね」

 安心させるようなことを言うと、また面倒な展開になり兼ねないので、瀬崎はあえていつも含みを持たせている。他愛も無い話をして、ゆっくりと歩いていると、瀬崎の自宅マンションが見えてくる。マンションの前にタクシーが一台。エントランスから女が一人出てきた。その瞬間、瀬崎の全身がカッと熱くなったような気がした。

 金森、愛?

 瀬崎とタクシー、女は距離にして百メートル近く離れている。女の顔もはっきりとは見て取れない。でも、あの派手な茶色の髪。鮮やかな青のミニスカート。そして、何よりあの高飛車な歩き方。間違いない。

「ごめん、掛け直す」

 真由が何の話をしてたか、一気に記憶が飛んだ。電話を切ったかどうかも確かめず、鞄に投げ込み、瀬崎は走った。今、金森愛を捕まえた所でどうなる?という考えもある。でも、そんな考えよりも先に足が動いている。まずは金森愛を捕まえ、瀬崎にとって有利な立場で話をすることが出来れば、この一連の事件の解決へと繋がる筈だ。とにかく瀬崎は走った。しかし、スーツを見に包む瀬崎は、当然革靴を履いている。しかも今日おろしたばかりの新しい靴だ。舗装された道路に、磨り減ってない靴底が大きな音を立てる。案の定、閑静な住宅街に響くその音に女は気付いた。一瞬、瀬崎と目が合う。間違いない、金森愛だ。瀬崎は確信した。そして、それと同時に女は笑った・・・様な気がした。いや、笑ったというような表現では語弊がある。口角だけを吊り上げ、まるで悪魔が微笑むかのような表情をした。金森愛がタクシーに乗り込む。

 間に合わない。でも、走った。タクシーが走り出す。瀬崎が走って来る事を運転手は気付いているだろう。それでも車が走り出したのは、金森愛が運転手に何か吹き込んだのだろうか。これでは自分がストーカーみたいではないか。結局、百メートル以上を全力疾走したが、無駄な走りに終わった。激しく息を切らしながら、マンションの入り口に座り込む。普段から身だしなみに気を使う瀬崎が地面に直接腰を掛ける事など絶対にない。それくらい瀬崎は金森愛とのまさかの遭遇に動揺していたのだ。少しずつ息が整ってくと共に、頭に冷静さが戻ってくる。

 ふと、思う。何故、マンションに?その疑問が浮かんだ瞬間、瀬崎は再び走り出した。今度は自分のマンションに。急いでオートロックを開錠し、エレベーターに乗る。意味が無いのは分かってるが、扉の閉じるボタンを連打する。到着すると、再び走り出す。玄関に着くと、瀬崎は思った。やはり、真由はまだ帰ってくるべきではない、と。

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