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嫉妬の連鎖  作者: ますざわ
第2章 思わぬ連鎖
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 昨日、亮は二人の人物に連絡をした。一人は亮が中学生の頃、傷害事件で少年院に入っていた時に意気投合した飯田という男だ。亮は少年院を出て、陽の当たる世界に戻ってきたが飯田は今もまだ闇世界を歩き続けている。先日も、老人を相手にした詐欺事件に関与した疑いがあるとして警察に取調べを受けたばかりだ。(実際は、関連性が薄く、逮捕されるには至らなかった)

 もう一人は亮の小学生時代の同級生である西川。西川は表面上は会員制バーの店長代理を務めるが、裏では薬物の売買ブローカーを兼任しており、関連する暴力団や同業者との関わりは深い。

 互いに闇世界では情報網をそれなりに持つ人物であり、闇世界にどっぷりと足を突っ込んでいる。今や、父の工務店を継ぐ事を目標としている亮があまり密接に関わって世間にあらぬ疑いをかけられたくない存在でもある。そんな状況を百も承知で、彼等に声を掛けたのは、金森愛の自宅に訪問したからであった。


 亮は瀬崎と別れた後、すぐに金森愛の住んでいたマンションに向かった。二十三区内とはいえ、小岩駅の少し外れた所にある小規模マンション。外観から見た限りでは割とまだ新しい。それなりの家賃がしそうなマンションだ。瀬崎から聞いた部屋番号は一〇三号室。集合ポストには名前の表記は無い。一〇三号室だけでなく、ほとんどの部屋に名前の表記が確認出来なかった。最近は防犯上が理由なのか分からないが、集合住宅でポストや玄関に名前が記載されていないことも珍しくはない。

 新聞の勧誘を装って金森愛に接触しようとインターフォンを押す。何度か試みたが、応答はない。瀬崎の話では仕事は辞めたらしいから、単純にどこかに外出しているのか。しばらくエントランスで住人の出入りを待つが、出てくる人もいなければ、入ってくる人物もいない。ただ、エントランスで立っているのも居心地が悪かった為、亮は一旦建物の外に出て、煙草に火を点けた。そして、二口目を吸おうかという時に金森愛の部屋が一階である事を思い出した。煙草を手に持ちながら、建物の裏側に回る。集合ポストで確認したことから、このマンションの一階は三室のみ。その三室が横並びに並んでいる。一般的に考えて一〇二号室は真ん中の部屋であるだろうから、一〇三号室は両端の内、どちらかだろう。

 左端の部屋を見ると、洗濯物が干してある。男物の洗濯物と子供の洗濯物が確認出来る。瀬崎から、金森愛に子供がいるという情報は聞いていない。金森愛がそれを隠していた、という可能性も否定出来なくはないが、男物の洗濯物もある。家族ではないだろうか。勿論、男の存在もやはり金森愛が隠していたという事は考えられるが、瀬崎ほどの男が既婚者の女性に独身であると騙されるのも考え難い。そうなると、対象は右端の部屋か。

 右端の部屋は洗濯物も干しておらず、外部から窺える部屋にカーテンはしていない。まさか空室か?昨日の今日で引っ越すか?外はもう薄暗くなりかけており、うまく外部から中の様子を窺う事は出来ないが、室内に荷物が残されていない事は間違いなさそうだ。ふと、目を落とすと、ベランダに落ちている物が目に止まった。マッチだ。箱に入った木のマッチではなく居酒屋等にある紙製の簡易型マッチ。だが、見覚えがある。落ちてる枝を拾って、ベランダの柵の間から枝を使ってマッチを引き寄せる。黒の背景に赤い文字で「EDEN」とある。聞いた事がある。見た事がある。そのマッチをじっと眺め、自分は自身のライターを使って、煙草に火を点ける。

 金森愛は既に引っ越している。昨日の今日で引っ越した、という事はないだろう。恐らく、瀬崎の情報が古かったのだ。こうなると、金森愛の行き先を知る手がかりは途絶える。再度、ベランダに落ちているマッチを見つめる。目を閉じ、記憶を探る。


 そうだ、あの時、西川が言っていた。

「近くのバーでさ、警察が入ったって聞いたんだよ」

 西川が勤めているバーの閉店後に二人で酒を飲んでいる場面が思い返される。西川が店長に内緒でたまに亮を呼び、二人でタダ酒を飲むことがある。

「何で?」

「いや、噂で結構出回ってたからな。ヤク捌いてるって」

「マジ?そんな店が近所にあったの?」

「ああ。EDENって店。もう潰れたけどな」

 そう言って記憶の中の西川が取り出したマッチが、今、亮の手に握られている物と一致した。

 兄貴、この部屋がもし本当に兄貴の探してる金森愛の部屋だとしたら、その女、結構ヤバイかもしれないよ。

 亮が飯田と西川へ電話をするのはそのマンションを後にしてすぐだった。

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