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嫉妬の連鎖  作者: ますざわ
第2章 思わぬ連鎖
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 瀬崎準平殿


 私の事はもうご存知でしょう。あなたは今頃、何故私があなたの名前を知っているのか?何故あなたが私の住んでいたマンションに訪れることを知っていたのか?さぞ、頭を抱えていることでしょうが、断言しましょう。あなたがその問題を解決することは絶対に出来ません。そんなことに無駄な時間を割いて欲しくないのでこちらの要求を単刀直入に申し上げます。


 伊藤真由を解放しなさい。期日は九月末まで。この手紙を読んだ時、既に期日を超えていた場合、その時あなたは今以上に頭を抱えていることでしょう。


有川保

 

 真っ白なA4のコピー用紙に印字された素っ気無い手紙。有川の言う通りだ。何故、自分の名前を知っているのか?何故、マンションにやってくる事を知っていたのか?まだ頭の中は混乱している。マンション近くの公園のベンチで何度も何度もその手紙を読み返した。

「何故だ?」

 有川の事だけではない。金森愛に関してもそうだが、頭の中をこれだけクエスチョンマークが占有しているのは人生始まって以来の出来事だ。

 真由を解放する。有川から真由に届いたメールの中に瀬崎が真由に呪縛をかけていると指摘したものがあった。呪縛から解放か。思考回路は到底理解出来ないが、一応話に辻褄は合っている。単に有川の妄想が酷いだけの話だ。真由を解放する、ということはつまり真由と別れろということなのだろうか。九月末まで、と言われても今日は既に九月二八日。また、自身と真由が別れたことなどどのようにして有川は知るというのだ。ここまで来ると、有川の行為は完全に脅迫、犯罪だ。自分だけならともかく、真由の身にも危険が生じる可能性がある。この状況なら、真由はすぐに実家に帰し、真由を被害者としてすぐに警察に相談させるべきかもしれない。金森愛と有川、瀬崎自身と真由をきっちりと切り離せば金森愛に誤解させる事はないのではないだろうか。

 そうと決まれば、急いだ方がいい。まだ時間は昼を少し過ぎた頃、急いで何日分かの仕度をさせて実家に連れて行き、両親にも早急に説明をすれば夜になる頃には少し時間が空くだろう。その時間を利用して亮を呼び出し、亮にはこっちの件でも動いてもらえないか聞いてみよう。


 瀬崎はまず真由に電話をし、すぐに実家に電話してこれから二人で訪問する旨を伝え、数日分の荷物を纏めるよう指示した。急な話に驚いてはいたが、昨日の今日であり、説得をするのはさほど難しくなかった。手に持っている手紙に関しては、余計に真由を怖がらせるだけだと判断し、伏せておいた。そして、自分も自宅へ戻るタクシーの中で、亮に会う約束を取り付けようと電話したが亮が異論を唱えた。

「兄貴、それは少し待てないかな」

 亮が異論を唱えたのは警察への通報だった。

「昨日、兄貴に例の女の話を聞いてからさ、早速詳しい事情を話さなくてもフットワークのいい連中に声を掛けたんだ。昨日の今日でまだ具体的な成果は出てないけど、その有川って奴の件も俺が動くのであれば警察は邪魔な存在になるよ」

「・・・うむ、言われてみればそうかもしれないな」

「とりあえず通報は明日だっていいでしょ?今日の夜は空けておくからその時に話そう」

 そう言って亮は電話を切った。やはり亮は瀬崎の思惑通りに動いてくれているのを確信した。警察が邪魔になる。ということはつまり、違法寸前、もしくは違法行為をしてでも金森愛の事を調べるつもりでいるのだろう。詳しい事情を話さなくてもフットワークがいい連中というのは、亮に借りがあり、尚且つそういった危険な橋を渡る事に抵抗がない連中以外に考えられない。

 これは瀬崎の思惑通りなのだ。正攻法で攻めるのは弁護士である兄の浩平。合法的に一般人では知りえない情報を数多く調べる事が出来る。一方で、合法的にはどうあがいても得られない情報というものがある。情報というものは常に陽の当たる世界にあるとは限らない。むしろ、陽の当たらない闇の世界に眠っている事の方が多い時もある。それを亮に任せていた。恐らく、亮もその意図を理解してくれるに違いないと思い、あえて伝えはしなかったが、やはり理解してくれていたようだ。


 こういう状況になったならば、やはりこちらも正攻法で戦うのは分が悪いだろう。亮には徹底的に戦ってもらおう、そう決意した。


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