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嫉妬の連鎖  作者: ますざわ
第2章 思わぬ連鎖
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9

 仕事は休みなのに、いつもと同じ時間に目を覚ました。いつもの様に時間を気にしないで寝ている時間はないだろう。隣を見ると、真由はまだ寝ている。昨日、今まで抱えていた悩みを瀬崎に打ち明ける事が出来て、少し楽になったのだろうか。


「犯人を、知ってる?」

 突然の真由の言葉に瀬崎は耳を疑った。真由と金森愛は瀬崎の知らない所で接点を持っていたのか?全身の毛穴が開くかのように、緊張が走った。

「今まで言えなかったんだけど、職場の先輩に大分前から付き合って欲しいと言われてたの」

「え?」

「勿論、何度も断ってるわ。この前も上司に相談して、会社としても問題視されて、先輩は異動になる事になってる」

「まさかそれで恨みを?」

「その可能性はあるかもしれない」

 突然の話だ。真由の話が事実であるなら、真由の写真ばかりだった事や、三ヶ月以上前から写真を撮り続けていた事にも合点がいく。客観的に見ても美人で、大人しく、控えめな性格に惹かれる男が数人いようとおかしい話ではないし、まして真由は押しに弱い。

「ごめんなさい」

 何も喋らず、険しい顔で俯く瀬崎を見て不安に思ったのか、真由が謝った。

「いや、真由が謝る事じゃないよ。ただ驚いてるだけ」

「準平仕事忙しいから、こんな事で迷惑かけたくないと思って」

「ありがとう。それで、その人の名前は?」

「有川さん。でも、彼が犯人かどうか確信はないよ?ただ、あれを見た時に真っ先に思い浮かんだのが彼っていうだけで」

「そうだね。まぁ幸い、明日は俺も休みだし、明日ゆっくり考よう。今日はもう寝ようよ」

 そう言って昨日は真由を寝かせた。


 さて、どう動くべきか。真由の同僚、有川が犯人だと言うならば警察に通報し、然るべき対応をすれば済む話だ。金森愛の事でやるべき事が多い今、そっちも瀬崎自身が解決する、というのは少々煩わしいというのが本音だ。

 しかし、警察を動かすと、その行為自体が金森愛への牽制になってしまわないだろうか?彼女が何らかのアクションを起こした時に、別件とはいえ、警察が瀬崎達の周りをうろついているが知れたら瀬崎が金森愛の事で警察に通報したのでは、と誤解を与えてしまうかもしれない。そうなれば、さすがの金森愛もしばらくは何もしてこないだろう。

 そして、それが永久に何もない、と言えるならばこの上ない事だが、きっちりと目に見える形で決着を付けていない状態で果たして自分は本当に安心出来るのだろうか?何年経っても、明日、金森愛の復讐が再開されるかもしれない、と常に不安を抱えて生きていくのか?そんな事は絶対に御免だ。金森愛は自らの手で捕らえ、一連の行動に自らの手で制裁を加え、二度と金森愛からの被害はない、と確信出来なければ、本当の意味で安息の日は訪れない。

 また、根本的な話をすれば今回の仕業、有川が犯人だという確証もない。手段や方法に関して、論理的に辿っていくと、金森愛より有川が犯人だ、という方がごく自然ではあるが、通報したはいいが、この程度の事件で警察がどれ程の力を入れて捜査をしてくれるのかも分からない。犯人が捕まらないまま曖昧な状態でフェードアウトされても困る。


 きっと昨日あまりよく眠れなかったのだろう。十時を過ぎても真由が起きない事は滅多にあることではない。自分の空腹の為だけに起こすのは忍びないので、瀬崎は着替えて朝食をコンビニに買いに行く支度をした。夜が明けても、このドアを開ける事に少しの躊躇いを感じる。自分ですらそうなのに、真由は果たしてこの家での生活を続ける事が出来るのだろうか。昨日、レストランで話した真由を実家に帰す件。皮肉だがこれで不満もなく真由は実家へ帰るだろう。

 鍵を閉めている最中、ちょうどタイミングよく隣の住人も出かける所だったようで、がちゃがちゃと音がした。普段から顔を合わせても、会釈をする程度だし、表札に名前を出してる世帯も少ない。いつもの事だと思って、瀬崎は隣人の存在を無視して歩こうとした。

「すいません」

 そう言われ、呼び止められた。隣人は30代後半くらいのサラリーマン風の男性。恐らく、独身だろう。一人暮らしには広すぎるでこのマンションに住んでるくらいだから、それなりの収入を得ているに違いない。

「はい?」

 瀬崎は構えた。普段は会釈程度の間柄だ。わざわざ呼び止めて話すというのは何かのクレームではないか?と思ったからだ。

「昨日、何か変わった事はなかったですか?」

 男は妙な質問をした。

「変わったこと、ですか?」

 質問の意図が分からない、または答えに窮した場合、質問を質問で返すことにしている。余程、頭が切れる人間か、自分に恨みを持っていない人間ではない限り、それで気分を害する事はないし、大抵の場合、質問の意図や内容を噛み砕いて再説明してくれるからだ。

「ああ、いや、昨日の夕方だったかなぁ。いや、私も偶然早上がりで帰ってきたんだけど、お宅の前にぼーっと突っ立ってる人がいたんですよ」

 全身に衝撃が走るようだった。

「え!?」

「いや、うまく表現出来ないんだけど、凄く気味が悪かったんですよ。普通に考えれば訪問者と思うんだろうけど、何故だか昨日はそう思えなくて。それで、わざと鍵を探すフリして部屋の前でもたついてたんだけど、その間ドアを見つめるだけで何もしなかったんです。普通、インターフォン押すなり、ノックするなりしますよね?」

「それで、その人っていうのは!?」

「いや、俺より少し年下くらい。ちょうどあなたと同年代くらいの若い男でしたよ」

 犯人は有川か。

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