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嫉妬の連鎖  作者: ますざわ
第2章 思わぬ連鎖
15/89

8

 真由の隣に座り、肩を抱く。その状態で必死に考える。まずは、誰がやったのかという問題。瀬崎の頭には金森愛の顔しか浮かんでこない。しかし、何故、真由なのか?一瞬しか見ていないので、凝視した訳ではないが、少なくとも何十枚の写真に真由が写っていたはずだ。金森愛に真由を会わせたことは当然一度もないし、彼女が真由の存在を知っていたことは間違いないが、名前は愚か、顔すらも知っているはずはない。

 やはりもう一度写真を見て、調べるしかない。だが、もう一つの選択肢、警察に通報するという手もある。安全面を考えれば警察に通報するほうがベターな選択だろう。しかし、果たして事件として扱って貰えるだろうか。被害者が真由だ、と限定するのであれば真由はただ写真を撮られ、自宅に貼られたという被害だけだ。勿論それも常軌を逸してはいるが、それだけで警察がどこまで動いてくれるのか。じゃあ、いっそのこと金森愛の存在を話して、自分へのストーカー行為の一つとして今回の事も警察に伝えるべきか。そうなると、恐らく真由もこれまでの事実を知り得る可能性が高い。それは避けたい。それに仮に警察に捕まったところで、金森愛は刑務所に入るのだろうか。入ったとしてもどれくらい入るのだろうか。警察への通報を更に逆恨みするのではないだろうか。いずれにしろ、写真は押収されるだろうし、浩平も亮も動き辛くなることは間違いないだろう。このまま被害者となって警察に全て任せるのもいいが、果たして警察をそこまで信用してもいいのか。

「真由。落ち着いて聞くんだ」

 決意を固めて瀬崎は真由の目を見た。ゆっくりと真由は瀬崎の目を見返す。

「もう一度あの写真を確認する。しなくちゃならない。あんな嫌がらせをする犯人を見つけなくてはならないからだ。だからここで大人しく座ってるんだ。いいね?」

 真由は言葉にならない不安を感じているようで、複雑な表情を浮かべたが、ゆっくりと頷いた。瀬崎はニコリと笑って、真由の頭を撫でる。そして、ソファから腰を上げた。

 通報はしない。金森愛はこの手で捕まえたい。この手で捕まえなければ問題は解決しない。玄関に着き、ドアノブに手を掛ける。正直、何かの間違いであればいいと思ったが、やはりドアにはさっきの写真が貼ってあった。

 写真の一枚一枚はセロハンテープで丁寧にそれぞれを繋げるように貼られている。その結果、何十枚もの写真は一つの大きな作品のようになっていた。その作品は、これもまた丁寧に縁取るように透明のビニールテープで貼られていた。幸い、剥がすのが簡単だったが。

 瀬崎は改めて写真を見る。やはりこれは全て真由だ。通勤の為にこのマンションを出る真由、目黒駅の改札に入ろうとする真由、勤務先の予備校に入る真由、同僚とランチをする真由。中には瀬崎と一緒に写ってる写真もあった。顔を塗り潰されているのは真由だけであったが。ただ、ひたすら気味が悪い。ここまでやる精神状態。普通ではない。

 剥がした写真は明日浩平に見せる為に新聞紙で中身を見えないように包み、紙袋へとしまった。リビングのソファに座る真由はまだ呆然としている。さっきまでの元気な真由が嘘のようだ。

「真由、今日はもう寝よう。考えてもこの時間からでは仕方がない」

 瀬崎がそう言うと、真由は瀬崎の顔を見た。瀬崎は真由の体を支えて、寝室に入り、ベッドに寝かせた。

「寝ないの?」

 真由を横にしてから部屋を出ようとする瀬崎に真由は聞いた。

「日中結構汗かいたからさ、シャワー浴びてくるよ」

 不安げな目で真由は返事をするが、瀬崎はニッコリと微笑んで返事をし、部屋を出た。シャワーを浴びながらも瀬崎の頭はグルグルと回っていた。

 犯人は金森愛で間違いないないだろう。恐らく、マンション付近で居住者を待ち伏せし、誰かがオートロックを解錠し、紛れ込んで侵入したのだろう。自分の様な男が同じ事をすれば怪しまれるだろうが、若くて綺麗な女性がそれをしたところで不審になんて思わない筈だ。警察に通報して防犯カメラでも見ればエントランスでも、エレベーターでも金森愛を確認出来るだろうが、金森愛以外にあり得ないので、意味はないだろう。

 ただ、一つ引っかかる点がある。貼られていた写真だ。中には引越し当初の写真もあった。つまり、三ヶ月近く前のものだ。そうなると、金森愛はそんなに前から真由をマークしてたのか?しかも、写真まで撮って。

 確かに金森愛は瀬崎に好意を寄せていた。ただ、彼女は真由に対抗心こそあれど敵意までは抱いていなかったはずだ。それに瀬崎と真由の関係を壊して、自分が取り入ろうとするのなら、瀬崎と金森愛が写ってる写真を真由に送りつけるならまだしも、瀬崎と真由、真由一人の写真を撮って、何の意味があったのだろうか?そもそも、三ヶ月前に瀬崎と金森愛の関係が悪化することなど、彼女には分からなかった筈だ。それだけが納得いかなかった。


 シャワーから上がって、寝室に入ると、真由はまだ起きていた。

「やっぱり眠れないか?」

 瀬崎がそう言うと、真由は何かを言おうとしている、

「どうした?」

 言いやすいようにとびきり優しい超えで瀬崎は聞いた。

「私、犯人知ってるかも」

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