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嫉妬の連鎖  作者: ますざわ
第2章 思わぬ連鎖
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7

 瀬崎が実家に帰って欲しいなどと言うものだから変に勢いづいてしまったのか、真由は少し飲み過ぎたようだ。イタリアンがある恵比寿から、二人の住むマンションがある目黒まで山手線でいえば一駅の距離だが、この状態の真由を駅まで歩かせて、電車に乗せて、家までまた歩かせるのは疲れるかもしれない。そう思って、瀬崎はタクシーを拾った。

 瀬崎と真由が済む賃貸マンションはせっかく新しい生活を始めるのなら、と瀬崎が即決した十階建ての新築マンションだ。運転手にマンション名を言えば、すぐに分かってくれる運転手もいる。タクシーに乗ると、真由はすぐに瀬崎に寄りかかって目を閉じた。普段あまりお酒を飲まない真由がここまで酔っ払っているのを見たのは久しぶりだ。余程実家に帰るのが寂しいのだろうか。瀬崎自身も、こんな下らない揉め事はさっさと決着を付けて、元の生活に戻したいという気はある。その為に兄の浩平と、亮を動かしているのだから。

「ここでいいです」

 せっかくの休みの前の日なので、瀬崎は好きな焼酎でも飲みながら今後の事をじっくりと考えておこうと思い、マンションの向かいにあるスーパーの前でタクシーを停めた。タクシーに乗る前にペットボトルの水を飲ませたことと、タクシーで少しだけ眠ったこともあってか、真由も少し酔いが冷めたようなので一緒にスーパーで買い物をした。いつも好んで飲む芋焼酎と乾き物を幾つかをサッと選んで会計し、二人はスーパーを出た。

 マンションのオートロックを解錠し、ポストの中を確認しようかと思ったが、真由は早く寝かせた方がいいと思って、素通りをした。エレベーターで七階を押す。気持ち良く酔っていて、甘えてくる真由が少し面倒に思い、イライラしながら階数表示のパネルを睨む。七階に着いて、瀬崎は鞄から鍵を取り出そうと鞄を覗く。瀬崎の一歩後ろを歩く真由が瀬崎のジャケットの裾を掴んだ。

「ちょっと今、鍵を探してるんだからやめてくれよ」

 さっきから酔っ払っている真由に少しイライラしていたので、きつい口調で言いながら真由を見ると、真由の目は瀬崎ではなく、瀬崎の顔を通り越して、その更に後ろを見ていた。

「なに?」

 そう瀬崎は言って、真由の視線を追う。再度、前に向き直って、真由の視線を追った先は、自宅だった。しかし、いつもと様子が違うのはすぐに分かった。

 ドアに何か貼られている。

 ドアまであと約五メートルと言った所なので、それが何かははっきりとは分からない。手紙、ではなさそうだ。日中に覚えた胸騒ぎはこの事だったのだろうか。

「真由、ちょっと待ってろ」

 真由は呆然としていて、一気に酔いも冷めたようだ。顔が引きつっている。鞄をその場に置いて、ゆっくりと自宅へと足を向ける。正体不明のそれが、徐々に姿を現す。

「なんだこれ・・・」

 それは無造作に張られた何十枚もの写真だった。それもただの写真ではない。全て真由が写っている写真だ。いや、正確にはそれが真由だと分かる人は少ないだろう。写真の中の真由の顔は全て赤いマジックで塗り潰されていたからだ。

「準平?」

「あ、いや・・・」

 こんなもの見せたらどうなるのか。今、どうすべきか、瀬崎にはそれが分からない。戸惑っている内に真由はそれを見てしまった。

「きゃっ」

 真由は声を上げて、手で口元を覆った。無理もない。みるみると目に涙が浮かんでいく。

「あまり見るな。とにかく家に入ろう」

 鍵を開けて、ドアノブに手をかけた瞬間、まさか家に誰かいたりしないだろうな、そんな嫌な予感がしたが手の動きは止まらず、ドアを開けた。その嫌な予感は単なる杞憂に終わったようで、部屋に人が入った形跡はなかった。真由は瀬崎が体を支えて、ようやくリビングに入り、ソファに腰を掛けた。目から涙は零れているが、声はあげず、ただひたすら目を見開いているだけだ。瀬崎自身もまだ動揺している。自身が冷静でない事を自覚しているだけマシという程だ。

 これもやはり金森愛の仕業なのか?彼女の顔が無意識に脳に映り、初めて金森愛に恐怖を感じた瞬間だった。


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