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窓ガラスから差し込む柔らかい日射しが、事務机の並んだ事務室を明るく照らし出す。
まだ朝早く静まりかえった部屋でただ一人、自分の事務机でノートパソコンに向かう男がいた。
地味なグレーのスーツを着込んだ男は、石像のように微動だにせず、画面に映し出された文字を凝視していた。
にこやかな笑みを浮かべた顔が、むしろ不気味さを感じさせる。
部屋の引き戸を開ける音がした。
入ってきたのは、季節に似合わず日焼けした色黒の男だった。
薄汚れた作業着の上から防寒着を着こみ、足にサンダルをつっかけた男は、気だるげに部屋の中を歩いてゆく。
「おはよう」
スーツの男が視線をパソコンから離さずに声をかけた。
「うーっす」
「今日、泊りだっけか」
「いや」
「珍しいじゃないか。いつも始業ギリギリに来るのに」
「まあな」
色黒の男は生返事を返すと、だるそうなサンダルの音を響かせながら、スーツの男が座る席の前を通り過ぎようとする。
「今日、来るからか」
色黒の男がピタッと止まった。
「…なぁーんか、寝てらんなくて」
「どんな子だろうね」
「いい子じゃねぇーことは、確かだな」
口許が、少し笑った。