08 雅楼
雅楼
店の中の様子は田舎の街がごっそり建物に入っている印象だ。
あちこちに飾られている飾りは金持ちが自慢しているものに見える。
それが、普通の飾りとして使われていることに驚くばかりだ。
働いている人も生き生きとして動いていた。
時々すれ違う美人に目を奪われる。
それらの人が雅雄を見つけると笑顔で挨拶をするのだ。
その顔には嫌悪感は一切感じられない。
娼館のはずなのに店の女の子に慕われている雅雄とは何者?という感じだ。
雅雄は薫を連れて、店の奥に入っていく。
裏方の人の多さにも驚く。
まさしく、一つの村に相当する人間が建物の中で動いているのだ。
それらの人が生き生きと働いているのだ。
想像していた娼館のイメージとの違いに驚くばかりだった。
やがて、支配人室に入る。
あちこちに繋がる伝声管のような物が目に付く。
そこに、一人の女性がいた。
そこにはどこから見ても完璧に見える美人が座っていた。
「桔梗、ただいま」
「雅雄様、おかえりなさい。うまく拾えましたか」
「犬の子じゃあるまいし、きわどいところだったけど間に合った、この娘が薫だ」
「そうですか、よかった、桔梗というのよろしくね」
そういって薫に挨拶をする。
薫としては話が見えずただ挨拶を返すのみである。
「はじめまして、薫といいますよろしくお願いします」
この世界では女性は苗字を名乗らないのが普通だ。
家柄は男のみだった。
「薫さんおどろいたでしょう。雅雄に行ってもらったのはあなたを迎えにいくた
めなの、この店の将来に莫大な利益をもたらすという予言にしたがってね」
「予言なんですか?」
「予言というより、占いね。でもそこに陰がかかり始めたからあわてて迎えにい
かせたの、まにあってよかったわ」
「それじゃ、桔梗さん、私があの場で売られることもわかっていたの」
「いえ、どういう状況かわからないけど、あなたに危険が迫っていることが判っ
たから雅雄様にいってもらったの」
「危険なんですか?」
「そう、あなたを回収だけなら店の者を走らせてもいいけど、危険となれば」
「ひょっとして、強盗のことかしら」
「なに、それは」
「わたしが泊まっているとき、強盗の一味が一網打尽に捕まったということなの」
すると桔梗は、雅雄の方にむき
「雅雄様ね、そんなことができるような酔狂な人は」
「まあ、否定はしない」
「どうせ報奨金は貰ってこなかったのでしょう」
「あたりまえだ、そんなことにかかわったら帰れなくなるからな。目立たないか
ら迅速に動ける」
「あいかわらずね。もう少し金儲けに執心してほしいわ」
「金は天下の回り物、その程度の金に自由を縛られたくないのでね」
「それじゃ、この店はなぜやってるの」
「そんなのきまってるじゃないか、桔梗と知り合うためにさ」
「うまいこといって、だまされませんよ。店のほかの子にも同じこと言ってるの
でしょう」
そういいながら満更でもないようで、顔を赤らめていた。
「あのう、わたしがどうして? 選ばれたのですか」
二人は振り返ると、桔梗が話し始めた
「この店の将来を占っていたとき東方に星がみえたの」
「星ですか」
「そう、将来この店に利益をもたらす者の気配といえばいいのかな、普通なら
縁があってなにもしなくてもここに集まってくるから、来たときに迎えをだせ
ばいいのだけど、なぜか星にかげりが見え始めたの」
「かげりですか」
「そう、本来動き出した星はこちらに近づくにつれて輝きを増すはずなのに、そ
れが光を失っていくのよ、あわてたわ。原因がわからないから急いで迎えを出
したのよ。星がどの娘なのかわからないから途中で捕まえるように待機しても
らったのよ」
「では私があの宿に泊まるのを知っていたの」
薫は一連の会話で疑問に思っていたことを口に出した。
雅雄が答えた。
「まさか?、飛び込みの客があの店に入るように手を回していただけだ」
「どうやって」
「娘を連れた男がきたら断るように他の宿に薬を渡しておいた」
「どれぐらい金をばら撒いたの」
「一つの宿に金貨3枚で6軒に」
「すごい、私を見つけるのにそれだけの投資をして」
「たいしたことじゃない、将来を買うというのはそういうものだ、金を惜しんでは
利益も目減りするからな、薫を手に入れるため50枚以上の金を使ったが、恩恵
ははかりしれないから損はない」
「私にそんな価値があるの?」
「当然だ、将来の大将軍の奥方になる人だ」
「ええっ!!、あの勝男が大将軍に」
「占いの結果なので当たらぬかもしれぬが、直接見た限り可能性はある」
二人の話を聞いていた桔梗は
「そうね、平時に大将軍になることは不可能だわ、でもこれから荒れるわよ。そこ
に可能性があるわ」
薫はなぜ荒れる可能性が判るのか不思議だった。