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05 入浴2

入浴2



「どう、洗い方の要領はわかったかい、タオルをみてごらん」


そういってタオルを見せる。


見せられたタオルは真っ白なタオルだった。


しかし、顔を拭いたところのみ黒ずんでいる。


見せられて初めて顔をしっかり洗ってなかったことを思い出した。


それ以外のところも白いタオルが擦られると黒ずんでいく。


「普通に洗っただけでは、落ちない汚れはいっぱいあるからしょうがない、今日

 だけは見本を見せるから次回からは自分で洗うようにね」


そう言って再び泡立て始める。


薫は雅雄のやることを食い入るように見る。


丁寧に泡立てた石鹸を体の隅々まで塗り込んでいく。


薫は恥ずかしさに赤面することになった。


しかし、雅雄はまるで物を扱うようにすすめていく。


ほぼ全身に泡がついたところで雅雄が手を当て動かし始める。


最初はくすっぐったが先に出てきて体をくねらせる。


雅雄はものともせず吸い付くように手を動かしていく。


そのうち薫のからだの奥から妖しい気持ちが湧き上がってくる。


もっと強く触ってほしい、もっと、もっと、というように気持ちの良さが湧き上

がってくる。


抑えようとしても声が漏れてしまうのだ。


もう自分がなにをしているかわからなくなるぐらい興奮していた。


顔は真っ赤で、肌も上気して桃色になり意識が朦朧としてきた。


そのとき全身にお湯がかけられた。




はっ、と目が覚めたような気になる。


薫としてはあの気持ちいい時間をもっと味わっていたかった。


「さて、次は頭を洗うよ」


そういって髪の毛に石鹸を塗り込めていく。


毛先の方から少しづつ泡を塗りこめるように洗う。


洗い流したあと再び塗り込めていく。


5回それを繰り返してようやく全体を洗い終わった。


そのあと、しつこいぐらいお湯で洗い流してようやく終わったようだ。


洗い終わった頃、薫にはもう動く気力さえなくなっていた。


お風呂がこれほどの苦行とは思わなかったのだ。




「さあ、次は食事にいくよ」


そういって風呂から上がっていく。


薫はあわてておいかけていく。


丁寧に身体を拭き上げて水気を払っていく。


特に髪の毛は何枚も布を使って乾かしていた。


最後に油のような物をつけて櫛梳いていった。




着物は華やかなものだ。


風呂から上がって入り口の姿見を見た薫はそこに立つ知らない美少女に驚く。


「これが、私なの」


「それは鏡というものだけど、知らないのか」


「しってるわ、鏡はそのまま映すということも、でもこれは私じゃない」


「なにをいってるのかな、どこを見ても薫そのものじゃないか」


「でも・・」


「腹がへったから、食事にいくよ」


そういって動き始めた。


鏡に映る自分に未練を残しながらそこを離れる。


その時点、手足の細かい傷が消えていることには気付かなかった。




風呂の時間が思いのほか長かったのでお昼時は過ぎていた。


食事時をはずしていたのでお客はまばらだ。


それでも客は数人いた。


だが薫が部屋に入るとそれらの者たちはみんな食事も忘れて薫を見続けている。


薫は見られ続けることに恥ずかしくなり雅雄の影に隠れるように動く。


雅雄は堂々と動き、あらかじめ予約してあった席に着く。


薫に椅子をひき、座ることを促す。


薫は初めてのそのような扱いにとまどいながら着席した。


給仕がきて食事が始まる。


周りから見つめられているので落ち着かない。


そのため、何を食べているかわからないままお腹だけは膨れていく。




食事が終わった頃


「旦那、今日はおやすくないね」


そういって、玄が近づいてきた。


昼間から酒を飲んでご機嫌だ。


「なにをいってるのだ」


「店の子を連れ出して旅行中だったとは」


玄は目の前にいる娘がいままで連れていた薫だと気づいていない。


「金貨30枚ではおしくなったのか、商談は成立したはずだぞ」


「いえ、逢引中に無粋な娘を渡したお詫びですよ」


「なにをいってるのだ?、そこの薫がその無粋な娘だ!」


「冗談は・・・・ええ!」


薫のほうをみて驚く玄、呆然としている。


「金貨30枚の価値はあるだろう。玄ももう少し見る目を養うといいぞ」


そういって席を立つ。


薫の方をみると


「さあ、行こうか、君にとって見たくない顔のようだから」


そういって立ち尽くす玄をあとに部屋に向かう。


その後、玄が「ちくしょう!」と捨て台詞をいって出ていった。


今の薫を見れば、金貨30枚ははるかに安いからだ。




部屋に戻った薫は、見慣れていた玄でさえ見間違う自分の変貌に驚いていた。


だが雅雄にはそれは不思議でもなんでもないらしい。


気にもしていなかった。


「さて生い立ちを話してもらえるかな」


そういって薫のいままでの話を聞いて時間をつぶしていた。


夕食の時間は部屋に食事が運ばれて、二人だけの静かな食事だ。


前夜の食事が豪華に見えたが、目の前の食事は昨日とは比較にならなかった。


もっとも豪華に見えても田舎の宿屋ということだ。


雅楼の食事は次元が違うというのをこの時点薫は知らなかったのだ。




寝るときも雅雄は近くにいて薫にやさしく微笑みかけていた。


薫は生まれて初めて幸せの時を味わっていた。


やがて吸い込まれるように眠りに落ちていった。



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