04 入浴1
入浴1
『これだけの食事はしばらく食べられない』
その言葉の意味、それに、気づいたのは数日後のことだ。
確かに意味はあってるが別の意味だった。
まさか、質素な食事という意味とは思わなかっただけだ。
薫の体調を考えた病人食だったのだ。
飢饉のため久しくろくな食事をしていない。
その上、玄という仲買人はまともな食事をさせなかった。
自分の食べた残飯を出していた。
それでも、薫には家で食べている食事と同等もしくは上物だった。
ところが、出された食事は薫だけのための食事だ。
それだけでも驚きの内容だった。
ただ薫は自分の知識に照らし合わせてその食事を判断した。
実際には肉と魚抜きの精進料理だ。
しかし、薫には今までで最高の食事だった。
食事を終え、薫は久々に満腹というものを味わった。
その日はそれでお開きとなり部屋に引き上げた。
薫はいままで寝るときは足を縛られ痛い目にあっていた。
だがその日はなぜか雅雄のもとで自由にされ寝かされたのだ。
ひさびさにしっかり寝ることができた。
目覚めは昼過ぎになってしまった。
しかし、雅雄は叱ることも無くただにこにこして薫の起きるのをまっていた。
家族から離れて以来、食事も満足に与えられなかった。
(飢饉のため、最近ずーとである)
夜は逃走防止から手足を縄で縛られ痛い目にあってきた。
朝は早くから起こされ一日中歩かされた。
宿屋につけば雑用をやらされろくに食事も与えられなかった。
寝るときは手足を縛られ死んだように眠るだけであった。
不満など言えば叩かれたのである。
「お前は奴隷として売られたものだ、文句あるなら親に言え」とね
薫は自分の不幸を恨んだ。
もう幸せは二度とこないかも知れないと思っていた。
挙句の果て一夜の慰みに売られる寸前だ。
それが一転して食事も与えられ、自由に寝られるのだ。
たとえそのあと苦しいことが来ても我慢できるような気がした。
そんなことをかんがえていたので、寝付けなくて朝起きられなかった。
目が覚めたとき自分のおかれていた状況に青ざめた。
主である雅雄がすぐ近くで薫が目覚めるのを待っているではないか。
跳ね起きるとあわてて土下座をした。
「もうしわけございません」
ひたすらお詫びをいうしかなかった。
しかし、雅雄は
「疲れていたのだからしょうがないでしょう、今日はもう一泊ここでするから、
薫の身の上を話してもらえるかい」
そう言って話を聞こうとする。
薫は話を始めようとすると。
「まあ、あせらなくても、落ち着いて、着替えをして準備が出来たら食事にしよ
うか。着替えはここに用意しておいたから、お風呂に入って汚れをおとしてお
いで」
そういって布団の脇を見るときれいな服が用意されてある。
下着まで用意されていた。
薫がいままで着た事のない華やかな着物だ。
「それじゃ、それを持ってついておいで、お風呂にいこうか」
行動をうながされる。
薫はまさかお風呂まで一緒にはいるのかと、どきどきしはじめた。
だが雅雄はお風呂場の前で説明する。
「ここからは一人で入るように、ただ体を洗ったら、そこの簡易服を着て呼ぶよ
うに、髪の毛と各部の洗いのチェックをするから、隅々まで洗っておかないと
恥ずかしい思いをするよ、覚悟しておくことだね」
そう言って笑いながら離れていった。
恥ずかしい思いというのはと首をかしげながらお風呂に入った。
たっぷりなお湯にひたり幸せな時間を改めて感じていた。
手首足首には前日までの縛られた傷がなまなましく残っている。
お湯に入れると痛かった。
でも風呂に入るのはひさしぶりだ。
お湯を沸かすには薪が必要で最近の長雨に薪は少ないので貴重品だった。
お風呂は沸かさず水風呂が主だ。
旅に出てからは体を拭くだけで風呂には入れさせてもらえなかった。
食事も出ない素泊まりでひもじいおもいをしながらここまで来たのだ。
それがこんな時間に風呂に入っている。
食事は十分食べて睡眠もしっかりとっている。
あまりの変化におどろくばかりだった。
湯船から出て言われたように隅々まで洗う。
これで十分と思った。
もう一度湯船に使って身体を暖める。
そして、簡易服を素肌にまとって雅雄を呼んだ。
すぐに雅雄は入ってきた。
結構長い間入っていたはず。
それなのにすぐに入ってきたのだ。
ずーっと待たせたと思うと申し訳なく感じる。
「うーん、まあきれいにあらってあるけど残念」
そう言って上着を脱がせるではないか。
恥ずかしさに抗議しようとすると。
「いままで、このような風呂に入ったことは少ないのかい、洗いが粗相すぎる、
恥ずかしいかもしれないけど、父親とでも思って我慢するんだね」
そういって全裸にされてしまった。
雅雄は石鹸をとるとすごい泡を立て始めた。
みるみる手は泡だらけになる。
「普通に洗うときはこれぐらいでもいいけど、薫の肌は汚れすぎてる。だからも
う少し泡立てて」
そういってさらに石鹸を使い泡立てると細かい泡ができる。
それをもって近づいてくる。
「さあ、目を閉じて」
そういって目を閉じさせる。
顔に泡が押し付けられる。
「いいと言うまで、動かないようにね」
そう言って身体のあちこちに泡が塗りつけられる。
しばらく我慢していると顔をこすり始めた。
強くも無く、弱くもなく撫でるように動かしていく。
窪みも丁寧にさわっていく。
まさに隅々まで丹念に洗っていくのだ。
いままでそのような洗い方をしたことがなかった。
驚くと共に気持ちよくもあった。
やがて頭からお湯をかけられる。
その後、顔を丁寧にふきあげられた。