表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/19

03 雅雄

雅雄



二人は声の方を見る。


みなりのいい、爺さんが声をかけてきたのだ。


玄は驚きの声をあげた。


「30枚だって、だんな、金貨ですよ、こんな子に30枚なんて価値はないです

 よ、いいんですかい」


値段から一晩の相手ではなく奴隷そのものの売買だと察した玄だ。


「ああ、そんな小さな子が鬼畜のような商談の的になってるなら惜しくも無い」


「ひでえいわれようだな、でも旦那見かけたことあるけど」


「当然だろ、雅楼の主といえばわかるだろう。」


「おお、そういわれれば、まあ、今後のこともありますから、今日は譲りますよ。

 でも旦那に鬼畜のようなといわれては傷つきますね。あっしよりよほど悪どい

 のに」


「まあそういうな、世間的にはひどい話は出てるけど、わし自身は女の子にやさ

 しいよ。」


「はは、旦那がやさしいなら、この世に鬼がいなくなるな」


「そうかもしれんな、それじゃ話は成立でいいのかい」


「本当に30枚でいいんですかい、相場は20枚ですよ」


「かまわんよ、即金で払うからよろしくな」


即金なので、その場で契約成立だ。


その後、お互いに文句を言わないのが暗黙の了解でもあった。


「即金ですかい、そりゃありがたい、でも旦那そんな大金をいつも持ち歩いてい

 るんですかい」


「当然だ、いい娘がいりゃ横取りするために金にいとめはつけんよ」


そういいながら30枚の金貨を出した。


玄は高いほうがいいのですんなり話が通った。




だが商談していた男の方は収まらない。


「おい、爺さん、この話は俺の方が先にしてたんだぞ」


「それがどうした、お前さんの話は成立してなかっただろう。」


「おう、だが仁義というものがあるのじゃないかい。金を出して横面はられて我

 慢できるかい」


「どうすりゃいいのかい」


「10枚でやらせろよ」


「一応この娘は雅楼が引き取ったわけじゃ、素人をそんな大金でやらせるわけに

 はいかんな、店の沽券にかかわるからな」


「俺がいいといってるじゃないか」


「だから、旦那の顔を立ててどうだ、一月後店で3枚で相手をさせるけどどうだ」


「いい話だが、初物じゃなくなるのだろう」


「ばかいうな、店の信用の問題だ、初物に決まってるだろ」


「うそ!、それだけでいいのかい」


「もちろんじゃよ、ここで横取りするのだから詫びのつもりだ。本来なら初物は

 5枚と相場は決まっているのだが」


「おう、それならいいぜ、あとは約束だからな、証文をいただこうか」


「当然じゃよ」


そういって懐から紙を出しすらすらと書き込んでいく、内容は間違いなかった。


ただ言葉が微妙に違っていたのだが酒が入っているのでごまかされた。


『この娘(薫)を6月の1日から6月の30日までの間にこの書面を持つ男に必

 ず相手をさせる、ただしそのとき娘は生娘でなければならない。金額は金貨3

 枚とする。雅楼店主雅雄 兎年5月1日』

(注 季節的なものは日本とは違います)


一見ごまかしていないようであるが性交を確約していないことに気づくことはな

かった。


単に相手をさせるという。


食事の相手でも相手には違いないのだ。


話し相手でもこの書類なら文句は言えないことになる。


薫は自分のことなのでそこまで気づいた。


しかし、自分にとって有利なことなので黙っていた。


それより自分を買った人物が雅楼の主であることに驚く。


そして、客たちの話していた奴隷のようにというところに恐怖を感じていた。


これから自分はどのように扱われるのかという不安だ。




玄はもらった金でさらに料理と酒を注文し始めた。


ひさびさに荷物が消えて、おまけに大金が手に入ったのだ。


ごきげんなのも当然だ。


その反面、薫は地獄に落とされた心境だ。


玄にお願いして、雅楼だけには、売らないでくれと頼もうとしてた矢先だ。


まさかその雅楼に買われてしまうとは思わなかったのだ。


運命の歯車の意地悪さを思い知らされていたところだった。




「薫というんだね、場所を変えようか」


老人はそう言って薫を別の座敷に連れて行く。


薫はさっそく値踏みされるのかと戦々恐々だ。


だが座敷につくと宿の女中が注文をとりに来ただけだ。


静かに時間だけがすぎる。


その間、なにも話はされずただ待つだけ。




やがて注文の食事が届けられる。


それは薫がいままで見たことがないほど豪華なものだ。


ここで初めて薫は主人の顔を見ることができた。


それは傍目には70歳の老人だった。


いままでは自分の置かれた状況に流されていて見ていても記憶に残っていなかった。




人の良い老人という印象だ。


これがあの雅楼の主人だなんてとても思えなかった。


しかし、鬼のような人買いの玄が認めていた。


だから間違いはないようだ。


「それじゃゆっくりと食べて、一気に食べると体に悪いから」


とても話しに聞いていた鬼のような主人に思えなかった。


すすめられるままに料理に手をだした。


それはいままで味わったことのない美味であった。




しばらく食事を続けていると涙が出てきた。


「どうかしたのかい」


優しい声で問いかけてくる。


故郷に残してきた家族、恋人などが落ち着いたことにより思い出された。


優しい言葉と雰囲気が家族を思い出したのだ。


「料理がおいしくて、故郷の家族のことが思い出されて」


「そうか、だが薫はもう故郷に未練は無いと思ったのだけど」


「ええ、売られた身だから、あきらめていたのだけども、この料理をみたら、弟

 に食べさせてやりたいなと」


「やさしいね、その心を持っている限りこれからの人生は大丈夫だよ。いまは、

 これからのことを考えて体力をつけないとね、これだけの食事はしばらくは食

 べられないからね。」


老人が言ったこれだけの食事という意味は別の意味だった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ