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02 宿

宿



11歳の身で娼館売られていく途中の宿で、旅人たちの話を聞くことも出来た。


多くの娼館の中で、雅楼というところの話だ。


そこは値段は高いが、女は奴隷のように扱われる。


自分の相手をした女はどんな要求も受け入れてくれた。


そして、最高のもてなしをしてくれるところだという。


女をあそこまで躾けるにはどうするのだろうか?


などと大声で話をしていた。




薫はその話を聞き、恐怖におののいた。


話に聞いていた、色狂いのことである。


鞭で叩かれて快感に泣き叫んで男を求めると言われては恐ろしく感じる。


そんなところで働かされることになればまともにはなれない。


一体どうなってしまうのかと思う。


もう二度とまともな生活に戻れないのじゃないかと真剣に考えた。


出来れば、他の娼館に売ってもらえないかと考えていた。




玄という仲買人の男ははっきり言えば、非情な男だ。


一冬越せないと判っている金額まで薫の値段を買い叩いたのだ。


宿代もけちる男だった。


薫の分の食事は断っていた。


玄の食事の残飯が薫の食事だった。


それ以外、玄の身の回りの世話をさせられていた。


疲れているのに、玄の足や腰を揉まされる。


風呂など無料の所なら入れさせてもらえるが大抵の宿は有料だ。


いや、風呂付ではない待遇で泊まるから有料になる。


素泊まりという待遇で泊まるからだ。


そんな玄にお願いするには相当機嫌が良い時でなければ叩かれてしまう。


『わがままいうな!』の一言だろう。


タイミングを計るしかなかった。




ある街で、泊まろうとしたら二軒の宿で断られた。


三軒目でようやく泊めてもらえたのだ。


玄の機嫌は最低だった。


薫の前で堂々と食事をしている。


機嫌が悪いので、残飯も残らない。


今日も薫はご飯と塩だけの食事だと覚悟した。




そのとき、客の一人が、薫の相方の顔を見て声をかけてきた。


「よう玄さん、ひょっとしてその娘は、例の娘かい」


少し派手な感じの遊び人風の男が声を掛けてきた。


一応商人に見えるがなんとなく崩れた印象だからだ。


「やあ、あいかわらず景気がいいね、その通りだけど、結構値段は張るよ」


「でも、まだ幼いから、知れてるのだろう」


「まあね、あんたこんなのが好みなのかい」


「久しぶりに初物がほしくてね。どうだい」


「まだ調教も出来てない素人だよ、下手すりゃこわれちゃうけど」


「その辺は大丈夫、それぐらいは慣れてるから」


「そちらがいいなら、考えるけど、いくらだい」


「金貨2枚でどうだ」

(注 銅貨一枚5円、銀貨が500円、金貨は5万円相当)


「おいおい、それじゃ全然だよ、下手すりゃここでおしまいだ。それだけ出す気

 なら、街で花魁さえ買えるのだから我慢しなよ」


「ちぇ、初物だから奮発したのに足元をみやがって」


「ははは、少なくとも元手は出してもらわなくちゃ」


「正直に聞こう、いくらだい」


「10枚だ」


「ひゅー、それはすごい、・・・・」


男は言葉を濁したのは『よくそんなに買い叩いたな』だ。


玄の機嫌を損ねたくないのであえて言わない。


「ああ、ひさしぶりの上物でな、磨けば玉になる。傷物にすると半額になるから

 な、安売りは出来んよ」


「うーん、10枚ね、一晩のお遊びとしては高いが今日は博打で大儲けしてるか

 ら遊んでみよか」


薫の聞こえるところで平然と売買の話をしているではないか。


薫は恐怖でふるえてきた、男と女がどうするのか知識はある。


父と母が布団に入ってやっているところを覗き見したことがあるからだ。




父親のものがどれぐらい大きいかも見ていた。


だがあんなものが自分のなかに入るなんて考えられなかった。


それが、いまから入れられてしまうかもしれないのだ。


想像もできなかった。


「そうかい、旦那も好きだね、そういう趣味なのかい」


「野暮なことををきくなよ、内緒なんだから」


「こんな大声で内緒もないもんだ、でも壊さないでくださいよ、15枚でおろす

 つもりなんだから、」


「おいおい、当初は20枚のつもりじゃないのかい、それを全部で25枚にする

 つもりなのかい」




玄は飢饉に襲われた村を覗き、売れ残った子供を買っては往復する仲介屋だ。


残っている子供なので上物はほとんど無い。


しかし、今回薫は両親が手放したくなくてぎりぎりまで確保していた。


そのお陰で、最高の上物を手に入れてご機嫌だった。


本人は餓死する娘を助けてやるつもりの善人だと思っている。




「それは旦那が目をつけたおかげで、ぼろ儲けになるわけで」


「おぬしも悪だな、商談成立でいいのか」


玄という男が承諾する直前、


「まった、その子を30枚で買うがどうだい。」


と声がかかった。



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