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最終話 雅雄の狙い

雅雄の狙い



雅雄の計画が大きく修正された要因。


それは、勝男の出世が早く正勝万人長が存命中に出世できたことだ。


そのための計画変更だ。


混乱した軍隊の中の出世より確実に足場を確保できるからだ。






正勝は駿すぐるが戻ると同時に繁華街に向けて出発する。


まさか万人長の身分で娼館に出入りするわけにも行かない。


それなりの装束に身をかためた頃、駿は帰ってきた。


二人は旅の一行に身を扮して雅楼に入る。


だが意外にも雅楼の方は二人の入店を確認するとすぐに店の支配人が挨拶に来

て個室に案内する。


そこに豪華な寝台が置かれ清潔な寝具が置かれていた。


「ただいま薫をお連れしますのでお待ちいただけますか」


なにも言わないうちに話が進んでいった。




やがて眼を見張る美女が登場だ。


かおるといいます。正勝様ですね、お待ちしていました」


「なに、待っていたとは、わし達がここへ来る気になったのは数時間前だぞ」


「正勝様の気配は繁華街にはいったときから判っていましたので」


「どういう仕組みなのだ、そんなに早くから正体がばれていたのか」


「正勝様の気がすこぶる強いからですよ、でもいまは蝕んでいますけど」


「蝕む?」


「はい、だからここには治療に見えられたのでしょう?」


「たしかに、そうだが、娼館にきたなら遊びと見るのではないのか」


「ご冗談を、それだけ蝕まれたお客が遊ぶわけないでしょう、なんらかの情報で

 こちらの治療を知ったから訪れたというのが本音でしょう」


「たしかに、そうなのだが、ここは治療もやっているのか?」


「表向きではやっていません、同業者がうるさいのと治療が極秘なので」


「極秘の治療というのは」


「治療しているのがばれるとまずい人たちのことですわ」


「なるほど、では私も治療してくれるのかな」


「はいご指名していただければですが、それが符牒なので」


「ではかおるを指名したい」


薫の指名が符牒だった。


「はい、承りました。治療をはじめますのでそこに横になってください」


そういわれ寝台に横になる。


薫は正勝の服をぬがせると手を患部に当てる。


正勝にとって驚きの連続だ。


いままで聞いたこともない治療法。


それと、まさか娼館で治療することになったことにだ。


気持ちがいいままに薫と話をする。




「なぜわたしがここに来たのか知っているのだ」


「正勝さま、ここへ来たのは正勝さまの意思ではありません、私たちが恩返しの

 意味で招待したからです。」


「恩返し、招待?」


「はい、勝男様を千人長にしていただいたための恩返しですわ」


「なぜそなたがそれを知っているのだ」


「簡単なことですわ、雅雄様より勝男に暗示をかけておいたといわれたからです」


「暗示とは」


「千人長になったら、ここを紹介するということです」


「本人は知っているのか?」


「だから暗示ですわ。本人も知らないことです。言った直後にもう忘れています」


その言葉に、思い当たる駿は頷いた。


あれから、兵舎に向かう途中、勝男は万人長に話した事を覚えていなかったから

だ。


詳しく聞こうとして盛大な疑問符を返されてしまった。




「まさかそのようなことが、・・・」


「催眠術のようなものですわ。条件を満たすと発動してあとは忘れる」


「それじゃ殺人も可能なのか?」


「もちろん、できるけどそれは禁忌ですから」


「禁忌なのか」


「はい、術士の禁忌ですからやろうと思えばできます。禁術ではないのですから」


「ところでその治療はなにをしてるのだ」


「気法治療ですわ。体の新陳代謝を加速して治癒させるものです」


「その治療法のみで金儲けは自在だな」


「教えてもらう条件に『これで金儲けをしてはいけない』というのがあります」


「だまっていればわからないのだろう」


「先ほどの暗示を説明したでしょう。それをかけたと言われているので」


「なるほど、禁忌にかかるということなのか」


「そうです、当然他人にこの術を教えることも出来ません」


「便利なものだな、ところでそなたと勝男との関係は」


「許婚ですわ。ついでにいうなら人質です」


「どちらの?」


「両方ですわ」


「両方、というのは」


「私がここで頑張っている限り勝男を支援する。勝男が私を身請けして妻にする

 限り勝男を支援するというものです」


「だれが支援するのだ?」


「雅雄様ですわ」


「雅雄というのは」


「この館の主です」


「勝男がそなたを妻にするというのか。娼館で働いていたものを?」


「はいそれが約束ですから、あと私自身はお客の相手はしていません」


「娼館で客をとらないでいられるのか? そなたの器量なら花魁の役もできるのに」


「はい、わたしが客をとるより多くの身請け金を払う約束で」


「なるほど、そういう考え方もあるのか」


「そのためには勝男様にできるだけ出世をしていただかないと」


「そうだろうな、そなたに見合う金額といったら10万金か」

(注 約五億円)


「そうかもしれませんわね。生涯で払う約束ですから」


「まあ、それも一興かもしれんな、そなたのような嫁ならわしでもときめくから

 な。高い買い物ではないだろう」


「まあ、」


そういって顔を赤らめる。


初々しい反応だ。


正勝はそんな彼女に好意を持った。




そうこうしているうちに終了時間になる。


一気には治せず時間を重ねないと完治は無理なようだ。


正勝にとって治療を重ねるごとに薫に会うのが楽しみになっていく。


勝男はみるみる軍隊内で地位を固めて一年後には押しも押されぬ千人長になって

いた。


やがて勝男が結婚するという話があがった。


相手は大臣の娘だとの噂だ。


式の日取りまで決まったと言う噂までながれた。


しかし、それは所詮噂だった。




勝男はなんと娼婦を妻にするという話が広まった。


そのころには正勝の治療は完治していたので薫に会うことはなかった。


しかし、体面を潰された大臣の思惑は勝男につらく当たる。


地方の反乱鎮圧に次々と投入された。


正勝はそれを庇うために薫を養女として迎えたのだ。


当然、世間の評価は驚き一色だ。


堅物の正勝が娼婦の娘を養女にしたからだ。


その養女が勝男の嫁に降嫁されると知って正勝万人長の思惑が知られた。


それからは勝男に対する悪い噂は掻き消えた。


正勝が治療をしてくれた娘のために出来る精一杯の恩返しだった。




正勝が、勝男の結婚式に出席したとき驚いたのは薫本人の姿にだ。


その化粧の平凡なことだ。


参列者の多くは平凡な娘に失笑していた。


大臣の娘を娶れば器量も財産も地位もよかったのにと囁かれていた。


正勝には判っていた。


薫が平凡な器量ではないことを。


天女といってもいいほどの器量であることをだ。


そしてあの治療技術、


どれをとっても最高の妻であることを、


そしてそれをひけらかすことなく平凡な化粧をしている。


そのことで世の嫉妬を防いでいることから頭のよさまで平凡ではないことを




その結果は数年であらわれた。


勝男は二十台で万人長まで上り詰めようとしていた。


その背後に薫からの情報と治療技術が物を言っていた。


勝男の直接配下の部下達の死亡が少ない理由だ。


当然助けられたものはその秘密と忠誠を誓ったのは当然だ。


それと、薫を介して送られる雅楼からの情報が物をいった。




今では軍の最高司令官の地位に正勝と対抗していた。


対抗といっても勝男は正勝の娘婿だ。


どちらかといえば、応援している方だ。


ここで一番問題なのはその地位につく最終決定権に例の噂の大臣がからんでいた。


そのことで待ったがかかった。




周りのものは全員正勝を含めて賛成していたぐらいだ。


なにより、反乱鎮圧の数が半端ではない。


大臣の思惑であちこちに飛ばされていたからだ。


しかし、どのような反乱も勝男が動けばたちどころに鎮圧していた。


いまでは陛下の軍事顧問として動いており側近として地位を固めていた。


だが大臣の空きがないため大臣に就けないだけと世間では噂されているぐらいだ。


位はどうでも事実上勝男が白国の軍事実権をもっていた。


だが夫婦はそれに驕る事もなく淡々と生きて生涯をまっとうした。




二人の子供は3人生まれていずれも女児で大臣の妻となり一族は繁栄を謳歌した。


一時的に白国が持ち直した時代だ。


しかし、勝男と薫の夫妻が亡くなるとともに失脚させられていった。


根元まで腐った巨木は白国の良心が消えたとき牙を剥いた。


良心的な大臣に濡れ衣の負債まで負わせて失脚させたのだ。


負債をすべて引き取って失脚した大臣の子供三人を引き取ったのは雅楼の雅雄だった。




その後、白国内で大きな内乱が発生。


現職大臣が一家を含めて皆殺しという悲惨な内乱だ。


庶民の恨みが暴利を貪っていた官僚に牙を剥いたのだ。


勿論、城下は炎上で雅楼も跡形もない。


白国の崩壊の時だった。




かろうじて逃げ出した国王を守った三人の勇者。


独立する各地の群雄を次々と飲み込んで白国を復活させていった。


そして、その三人が救国の英雄として復興後の三役を独占。


政治、経済、軍事の三役だ。


長い国の歴史は個々の浄化では済まないだけの腐敗をもたらしていた。


雅雄が唯一望みを託した勝男も歯止め程度にしかならなくなった。


雅雄が下した結論はリセットだ。


雅雄の真の狙いはこのリセット後に国を支える血の確保。


再生の時、その地位にいた者の母親か祖母はほとんどが雅楼の出身の者だった。



ここまで読んでくださってありがとうございます。

できれば、本編の方を読んでいただけると幸いですが・・・。


同日UPした小説『魔獣の子供』は雅雄記の前身に当たる草稿です。

雅雄記の前身ですので、似たような雰囲気ですが楽しんでください。


これからも応援をよろしくお願いします。


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